驚異の9回19K
9月1日にカナダで開幕した『第28回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ』。オープニングラウンドの5試合が終わり、侍ジャパンU-18代表は4勝1敗でアメリカに次ぐグループ2位通過。決勝進出をかけたスーパーラウンドへ駒を進めた。
この夏の甲子園で新記録となる6本塁打を放った中村奨成(広陵)に加え、甲子園出場が叶わなかったプロ注目スラッガー・清宮幸太郎(早稲田実)と安田尚憲(履正社)が競演するという強力打線に注目が集まった大会前だったが、やはり慣れない木製バットでの戦いとあって三者とも苦戦。期待も高かった分、ここまでは思うような結果が出ていない。
そんな中、若き侍ジャパンチームで急激に評価を高めている男がいる。左腕の田浦文丸(秀岳館)だ。
秀岳館では春夏通じて通算4度も甲子園に出場。この夏は背番号1を背負い、川端健斗の後を受けるリリーフとしてフル回転。その経験を買われ、代表でもリリーフエースとしてここまで5試合中3試合に登板している。
170センチ・75キロと小柄な体格ながら、力強い速球を打者の胸元に投げ込んでいく度胸満点の投球スタイルで打者を翻弄。その速球をより効果的にしているのが、最大の特徴でもあるチェンジアップだ。
ストレートと同じ腕の振りから抜くようにして放たれる球速の遅い球で、その緩急で打者を狂わせる変化球。一般的にはタイミングをズラすことが目的であり、その“変化量”に関してはあまり分からないことも多い。
ところが、この田浦が投げるチェンジアップは緩く、それでいてしっかり落ちていることが確認できる。分かっていても打てないと評された“魔球”は、W杯の舞台でも屈強な外国人打者相手に猛威をふるっている。
ここまで3試合でちょうど9イニングを投げ、打たれた安打はわずかに2本。四死球も3つだけで、三振はなんと19個。速球とチェンジアップのコンビネーションで面白いように空振りを奪っているのだ。
第3戦のオランダ戦では先発した徳山壮磨(大阪桐蔭)の後を受けて6回から登板すると、残りの4イニングを1四球で9奪三振の無安打無失点。これにはチームを率いる小枝守監督も「今年は田浦ですね…。立派です」と快投の左腕を絶賛した。
“高校BIG4”に割って入った男
今夏は初戦で横浜を破るも、2回戦で広陵に敗れた秀岳館。1大会における最多本塁打記録が更新されるなど、打者の活躍が目立った大会において注目投手たちはなかなか良いアピールができなかった。
田浦もその一人だったが、世界を相手にした大舞台で夏のうっぷんを晴らすかのような猛アピール。“魔球”に加えて高校生らしからぬ落ち着き、貫禄を見せつける左腕の評価はうなぎ登りだ。
思えば1年前のこの時期、田浦と同じように世界を相手に大活躍を見せて評価を急上昇させた男がいた。現日本ハムの堀瑞輝である。
侍ジャパンU-18の一員として『第11回 BFA U-18アジア選手権』に参戦した堀は、計3試合・9回2/3を投げてわずか1安打、18奪三振の快投を披露。特に準決勝の韓国戦で見せた三者三振の完ぺきリリーフと、決勝のチャイニーズ・タイペイ戦で見せた4回1四球、8奪三振の快投は鮮烈なインパクトを残し、優勝の立役者となった。
その年は夏前から注目を集めていた寺島成輝(履正社/現ヤクルト)、藤平尚真(横浜/現楽天)、高橋昂也(花咲徳栄/現広島)に甲子園優勝投手の今井達也(作新学院/現西武)を加えた“高校BIG4”が大きな注目を集めたものの、堀も甲子園からアジア選手権での大活躍が目に留まり、秋のドラフト会議では日本ハムから1位指名を受けている。
同じリリーフで大車輪の活躍を見せる左腕、というところで堀と重なる部分も多い田浦。7日(木)から始まるスーパーラウンドの大一番でどれだけ評価を高めることができるか、今後の活躍からも目が離せない。
【U-18・W杯 田浦文丸の投球成績】
vs.アメリカ:2.1回 打者8人 42球 1安打 5奪三振 無四球 無失点
vs.キューバ:2.2回 打者11人 44球 1安打 5奪三振 2四死球 無失点
vs.オランダ:4.0回 打者14人 67球 無安打 9奪三振 1四球 無失点
―――――
[通算] 9.0回 打者33人 153球 2安打 19奪三振 3四死球 無失点