話題を呼んだ“リプレイ検証”
10月29日にヤフオクドームで行われた日本シリーズの第2戦。先制点を挙げながら一時はDeNAに逆転を許したソフトバンクだったが、7回に相手のミスに付け込んで逆転に成功。4-3で勝利を収め、ホームで幸先の良い連勝スタートを飾った。
この試合のカギとなったのが、7回裏のソフトバンクの攻撃だ。2-3と1点ビハインドで迎えた二死満塁の場面、中村晃がライトへ弾き返した適時打。三塁走者の柳田悠岐は悠々還り同点。さらに続けて二塁走者の今宮健太がヘッドスライディングでホームに突っ込んだが、捕手・戸柱恭孝にタッチを受けてアウトとなった。
しかし、ここで工藤公康監督がリプレイ検証を要求。約10分に及ぶチェックの結果、なんと判定が覆ってセーフに。4-3とソフトバンクが逆転に成功したのだ。
思い起こされる48年前の出来事
日本シリーズという普段よりも多くのファンから注目を集める試合だったことに加え、判定までに時間を要したことで様々な議論を呼んだこの一件。こういった際どいクロスプレーが物議を醸したことが、過去のシリーズでもあった。
1969年に行われた巨人-阪急の日本シリーズでのこと。第4戦の4回裏、巨人の攻撃。無死一・三塁から長嶋茂雄は三振に倒れるも、一塁走者の王貞治がスタート。これを見た阪急の捕手・岡村浩二は二塁に送球したが、今度はそれを見た三塁走者の土井正三がスタートを切る。いわゆるディレードスチールである。
前に出て捕球した二塁手からボールはすぐに本塁の岡村へと返ってきたが、捕球した岡村と走者の土井が本塁上で交錯した。岡村がブロックしてタッチアウトと思いきや、球審の岡田功が下した判定はセーフ。これに激昂した岡村は思わず球審・岡田をミットで殴りつけ、退場処分となってしまった。ちなみに、これが日本シリーズ史上初の退場処分(※危険球を除く)である。
このプレーをキッカケに一挙6点を失った阪急は敗戦。3敗目を喫して崖っぷちに立たされてしまった。中継映像などでもアウトに見えるものがほとんどだったことから、球審の岡田は野球ファンはもちろんのこと、記者たちからも大バッシングを受けた。
ところが翌朝、岡田の運命は大きく変わる。
スポーツ紙の一面に、土井の足がホームベースを踏んだ瞬間の写真が掲載されたのだ。土井は捕手の足の間に自らの足を入れ、しっかりとホームベースに触れている。
この一枚の写真により、球審・岡田の判定は一転して“世紀の名ジャッジ”に。テレビカメラでも捉えられなかった決定的瞬間を見逃さなかった岡田は賞賛を浴びた。
課題は山積みも、着実に前進
あれから48年…。現在の球界では、本塁を巡るクロスプレーの判定にリプレイ検証を行うことができるようになった。
しかし、それですべての課題が解決されたわけではない。いくらカメラを増やしても、性能が向上しても、様々な角度から捉えることができるようになっても、本塁上で繰り広げられる攻防のすべてを収めることは難しい。走者がホームに触れたのが先か、捕手が走者にタッチしたのが先か…。今回のケースで判定に時間がかかったのも、そういった問題点があるためだ。
このように、まだまだ賛否両論ある『リプレイ検証』という制度。それでも、今回取り上げた48年前の一件を含め、過去のあらゆる失敗や出来事を踏まえた上で一歩ずつ進歩していっていることだけは間違いない。