崖っぷちの一勝
11月1日、横浜スタジアムで行われた日本シリーズ第4戦はDeNAが6-0でソフトバンクに快勝。負ければ敗退の崖っぷちで踏みとどまり、対戦成績を1勝3敗とした。
敵地で連敗した後、久々に戻ったホームでも1点届かず惜敗。追い詰められた状況でチームを救ったのは、ルーキーの投球だった。
先発を任された浜口遥大が、強力ソフトバンク打線を8回一死まで無安打に封じる快投。これに打線も奮起し、女房役の高城俊人がレギュラーシーズンで1度も出なかった本塁打を放つなど3打点と援護。最後はシリーズ初登板となった守護神・山崎康晃が完ぺきに締め、最高の形で勝利を掴んだ。
思えばCSファースト、ファイナルと負けたら終わりの状況から驚異的な強さを見せてきたチーム。日本シリーズでも土俵際の粘りが炸裂するのか、ここからの逆襲に期待が高まる。
日本シリーズにおける3連敗からの逆転日本一は過去3回…。DeNAは1989年の巨人以来となる28年ぶりのミラクルを起こすことができるか。過去の大逆転劇を振り返ってみた。
神様・仏様・稲尾様
▼ 1958年:西鉄-巨人
第1戦(後楽園) ● 稲尾 2 - 9 大友 ○
第2戦(後楽園) ● 島原 3 - 7 堀内 ○
第3戦(平和台) ● 稲尾 0 - 1 藤田 ○
第4戦(平和台) ○ 稲尾 6 - 4 藤田 ●
第5戦(平和台) ○ 稲尾 4 - 3 大友 ●
第6戦(後楽園) ○ 稲尾 2 - 0 藤田 ●
第7戦(後楽園) ○ 稲尾 6 - 1 堀内 ●
三原脩監督率いる西鉄と、水原茂監督率いる巨人が3年連続で対決。ペナントレースで最大11ゲーム差をひっくり返す逆転優勝を収めた西鉄が、日本シリーズでも崖っぷちからの大逆転Vを飾った。
ミラクルを呼び込んだのは、なんといってもエース・稲尾和久の大活躍。7試合中6試合に登板し、うち4試合で完投。王手をかけられて迎えた第4戦以降の全試合で勝利投手となり、“神様・仏様・稲尾様”と讃えられた。MVPはもちろん稲尾。
史上唯一の“第8戦”
▼ 1986年:西武-広島
第1戦(広島) △ 2 - 2 △
第2戦(広島) ● 工藤 1 - 2 大野 ○
第3戦(西武) ● 郭 4 - 7 長冨 ○
第4戦(西武) ● 渡辺 1 - 3 津田 ○
第5戦(西武) ○ 工藤 2 - 1 北別府 ●
第6戦(広島) ○ 渡辺 3 - 1 大野 ●
第7戦(広島) ○ 松沼博 3 - 1 長冨 ●
第8戦(西武) ○ 渡辺 3 - 2 金石 ●
森祇晶監督率いる西武と、阿南準郎監督率いる広島が激突。ともに就任1年目の新人監督同士という顔合わせとなった。
初戦は延長14回時間切れ引き分けとなるも、第2戦からは広島が3連勝。しかし、西武が第5戦に投手・工藤公康のサヨナラ安打でシリーズ初勝利を挙げると、そこから連勝で3勝3敗1分のタイに。日本シリーズ史上初となった“第8戦”に勝利した西武が3年ぶり6度目の日本一を達成した。MVPは1勝1敗2セーブ&第5戦で起死回生のサヨナラ打を放った工藤が受賞。
ちなみに、この翌年からパ・リーグの本拠地開催試合で指名打者制が導入されることとなったため、パ球団所属投手がサヨナラ打を放ち、かつそのまま勝利投手となったという例は、この工藤以降出ていない。
口は災いのもと…?
▼ 1989年:巨人-近鉄
第1戦(藤井寺) ● 斎藤 3 - 4 阿波野 ○
第2戦(藤井寺) ● 桑田 3 - 6 佐藤秀 ○
第3戦(東京ド) ● 宮本 0 - 3 加藤哲 ○
第4戦(東京ド) ○ 香田 5 - 0 小野 ●
第5戦(東京ド) ○ 斎藤 6 - 1 阿波野 ●
第6戦(藤井寺) ○ 桑田 3 - 1 山崎 ●
第7戦(藤井寺) ○ 香田 8 - 5 加藤哲 ●
藤田元司監督率いる巨人と、仰木彬監督率いる近鉄が対戦。ともに“マジック”と評された采配に定評のある指揮官ということもあって、監督対決にも大きな注目が集まった。
このシリーズが今なお語り草となっているのは、近鉄・加藤哲郎の「巨人はロッテより弱い」(※この年ロッテは最下位だった)という発言によるところが大きい。これに発奮した巨人が4連勝で逆転日本一に輝いた、というストーリーとして広く知れ渡っている。
しかし、実際のところ「ロッテより弱い」は加藤自身が発言したコメントではなかったことが判明している。後にテレビ番組などで“この事件”に関する特集も多く組まれたが、真相としてはヒーローインタビューで語った「シーズンの方がよっぽどしんどかった」というコメントが、メディアによって婉曲して伝えられてしまったということのようだ。
それでも、“この一件”が崖っぷちの巨人を奮い立たせてしまったのは事実。短期決戦の怖さをよく表したシリーズとなった。