清宮との縁
日本ハムのドラフト1位ルーキー・清宮幸太郎が2月24日のオープン戦・中日戦に代打で出場。注目の“初打席”は空振り三振に倒れたが、ゴールデンルーキーの1打席は大きく報じられた。
奇しくも清宮のデビューと同じ日、那覇市のセルラースタジアムでデビュー戦のマウンドに登った男がいた。DeNAのドラフト5位・桜井周斗。日大三高時代は清宮の天敵として名を馳せた左腕である。
桜井が脚光を浴びるキッカケとなったのが、2016年の秋季東京大会・決勝戦。当時すでに翌年のドラフトの目玉として注目を集めていた清宮を、5打席連続三振に斬ったのだ。キレ味抜群のスライダーで、高校球界屈指のスラッガーを翻弄。“清宮キラー”として一気にその名を轟かせた。
翌年の夏、日大三は準々決勝で東海大菅生に完封負け。甲子園出場はおろか清宮との再戦も叶わず、清宮擁する早稲田実も決勝戦で東海大菅生に敗れた。
しかし、2人はすぐに再会する。U-18・W杯に挑む侍ジャパンU-18の一員に選ばれたのだ。思いもよらなかった同じユニフォームでの再会。それも桜井は打者としての能力を買われ、主に5番を任された。4番・清宮の後ろである。
悲願の世界一には届かなかったが、3位決定戦で地元・カナダに勝利。過去2大会続いていたメダルは死守した。
28年ぶりの記録
迎えた秋。目玉の清宮は7球団競合の末に日本ハムへ入団。桜井はDeNAから5位指名を受け、2人揃ってプロの門を叩いた。
投打に高い評価を受けていた桜井だが、プロに入るにあたって“投手一本”を宣言。「高校時代の最後は悔いが残った」という“投手”で、プロの世界に挑むことを決意する。
春のキャンプは二軍スタート。沖縄・嘉手納で土台作りに励んでいたが、突然一軍から声がかかる。二軍の練習試合を視察したアレックス・ラミレス監督たっての希望で、オープン戦開幕戦での一軍デビューが決まった。
相手は巨人。先頭はポジション獲りへアピールを続けていた昨年のドラ1・吉川尚輝だった。かんたんに2ストライクと追い込むと、最大の武器であるスライダーで遊ゴロ。ひとつアウトを取るが、続く打者は打ち取った当たりながら二塁手が失策。走者を背負うことになったが、18歳の左腕は落ち着いていた。
右打者の山本泰寛を一ゴロに打ち取ると、続く和田恋は空振りの三振。1回を投げて無安打、1奪三振のデビュー。しかも、勝利投手のおまけ付き。高卒ルーキーによるオープン開幕戦での白星は、あの石井琢朗(当時は忠徳)で実に28年ぶりという記録だった。
新たな武器
そんな記録もさることながら、最も評価を上げたのは右打者を翻弄した“新たな武器”だ。
山本、和田を討ち取ったのはいずれも速球だったが、間に見せたのがチェンジアップ。なんとこれはプロに入ってから習得したボールだった。
習得を目指しながら悩んでいたところを、同期のドラ1・東克樹に相談。握りを教わると、さらに前年のドラ1・浜口遥大にもアドバイスを求めた。教わった2つのボールを初登板で駆使し、いきなり結果を出してみせたのだから末恐ろしい。
清宮だけでなく、安田尚憲(ロッテ)や中村奨成(広島)ら、高い評価を受けてプロ入りした選手が多数いるこの世代。ドラフト時の評価に差はついたが、プロに入ってからは横一線。3月30日に1年目のシーズンが始まり、全員のキャリアがゼロからスタートする。
幸いなことに、DeNAにはお手本になる左腕がたくさんいる。化けるにはこの上ない環境だ。5年後、10年後に“清宮世代”を振り返った時、桜井周斗はどんな立ち位置になっているのか。今からたのしみにしたい。