◆ 春と夏に格差?
連日熱戦が繰り広げられた選抜高校野球大会。90回の記念大会となった今年は、歴代最強の呼び声すらある大阪桐蔭(大阪)の優勝で幕を閉じた。
白球を追いかける球児たちを見て、多くの野球ファンは活躍した選手たちをプロでも見たいと願うことだろう。特に優勝投手ともなると全国的な注目を集め、秋のドラフト会議でも目玉候補に挙げられやすい。
しかし、同じ“甲子園”と言っても、より大きな注目が集まるのはやはり夏の『全国高等学校野球選手権大会』。春に優勝したチームが続けて夏も出場できるという保証はどこにもなく、またドラフトまでの期間も空いてしまうことから、センバツ優勝投手はさほど注目されないケースもある。
たとえば、最近だと2015年。春のセンバツを制した敦賀気比のエース・平沼翔太はドラフト4位でプロ入り。対して夏を制した東海大相模のエース・小笠原慎之介は、いわゆる“外れ1位”とはいえ中日から1位指名を受けている。どちらも同年の甲子園を制した選手でありながら、ドラフトでは評価が分かれる結果となってしまった。
◆ センバツ優勝投手はリリーフ向き!?
そこで、今回は甲子園優勝投手の“その後”に注目。春と夏に格差があるのかを調べてみた。
検証したのは「現役の選手」で、「甲子園大会で優勝投手に輝いた実績を持つ選手」の通算成績(※2017年まで)。延べ17名いるが、まずは春の優勝投手から見てみよう。
【現役・センバツ優勝投手】
▼ 大谷智久(ロッテ/2002年・報徳学園)
[通算成績] 293試 19勝29敗102ホールド 防御率3.49
▼ 西村健太朗(巨人/2003年・広陵)
[通算成績] 470試 38勝34敗81セーブ・77ホールド 防御率3.12
▼ 福井優也(広島/2004年・済美)
[通算成績] 106試 29勝33敗 防御率4.39
▼ 田中健二朗(DeNA/2007年・常葉菊川)
[通算成績] 198試 10勝12敗1セーブ・50ホールド 防御率3.73
▼ 東浜 巨(ソフトバンク/2008年・沖縄尚学)
[通算成績] 65試 31勝16敗 防御率3.05
▼ 今村 猛(広島/2009年・清峰)
[通算成績] 357試 15勝27敗34セーブ・99ホールド 防御率3.20
▼ 高橋奎二(ヤクルト/2014年・龍谷大平安)
※一軍登板なし
▼ 平沼翔太(日本ハム/2015年・敦賀気比)
[通算成績] 打率.000(8-0) 本0 点0 ※プロでは野手
昨季の最多勝投手である東浜や、巨人で守護神を務めた西村などが活躍しているが、注目したいのがその起用法である。一軍での登板機会がない2名を除き、実に6人中4人が通算2ケタホールドを記録。どちらかというと、リリーフとして起用される選手が多い。
思えば、春夏合わせた甲子園優勝投手のうち、通算100勝を記録したのはたったの9名。春の優勝投手に限れば、野口二郎(中京商)、平松政次(岡山東商)、池永正明(下関商)の3人のみだ。ちなみに、1980年以降はひとりも現れていない。
また、王貞治(早稲田実業)や柴田勲(法政二)のように、打者に転向する者も少なくない。春の優勝投手は、プロ入り後にちがった活躍を見せる者も目立っている。
◆ 近年は苦戦がつづく夏の優勝投手
続いて、夏の甲子園優勝投手を見てみよう。
【現役・夏の甲子園優勝投手】
▼ 近藤一樹(ヤクルト/2001年・日大三)
[通算成績] 196試 33勝49敗1セーブ・16ホールド 防御率4.65
▼ 斎藤佑樹(日本ハム/2006年・早稲田実業)
[通算成績] 74試 15勝23敗 防御率4.24
▼ 高橋光成(西武/2013年・前橋育英)
[通算成績] 37試 12勝17敗 防御率4.07
▼ 小笠原慎之介(中日/2015年・東海大相模)
[通算成績] 38試 7勝15敗 防御率4.38
▼ 今井達也(西武/2016年・作新学院)
※一軍登板なし
▼ 清水達也(中日/2017年・花咲徳栄)
※一軍登板なし
かつては活躍した投手が一定数いた夏の甲子園優勝投手だが、現役で一軍登板のある4人はいずれも通算成績で負け越し。防御率も4点台と振るわない。
一方で、春の優勝投手と違っていずれもメインの起用法は先発。さらに6人中4人がドラフト1位(春優勝投手は8人中4人)というのも、球団から未来のエースとして高い評価を与えられていることがわかる。
最後に、春夏制覇を成し遂げた3人も見てみよう。
【現役・春夏連覇投手】
▼ 松坂大輔(中日/1998年・横浜)
[通算] 363試 164勝103敗2セーブ・3ホールド 防御率3.49
※日米通算
▼ 島袋洋奨(ソフトバンク/2010年・興南)
[通算成績] 2試 0勝0敗 防御率0.00
▼ 藤浪晋太郎(阪神/2012年・大阪桐蔭)
[通算成績] 114試 45勝37敗 防御率3.05
かつての日本のエース・松坂大輔や、2015年に奪三振王に輝いた藤浪晋太郎など、やはりその実力は折り紙付。だが、高校時代の無理がたたってか3人ともケガやスランプに悩まされた、もしくは悩まされているという共通点もある。島袋に至っては、今季から育成選手契約になった。
結論から言うと、プロの世界で活躍している選手も多く、春・夏限らず「大成しない」とは言い切れない。
ただし、“優勝投手”の看板からどうしても注目度は高くなり、それに伴って期待も大きくなってしまうだけに、はじめからハードルが上がった状態でスタートしなければならないというのは苦しいところ。プロの世界で壁にぶつかり、挫折を味わい、それを乗り越えていけるかどうかというのが、“大成”へのカギを握りそうだ。
文=福嶌弘(ふくしま・ひろし)