◆ 鬼門と課題
京山将弥が一軍初登板を果たしたのは開幕3戦目、4月1日のことだった。
強打者が並ぶスワローズ打線に対し、5回84球を投げて、失点はわずかに「1」。チームに今シーズン初勝利をもたらすと同時に、自らもプロとして1つ目の勝ち星を手に入れた。
5月14日にいったん登録を抹消されることとなったが、ここまで6試合に先発して4勝1敗の成績は「立派」の一言に尽きる。
今永昇太、ウィーランド、濵口遥大という昨シーズン2ケタ勝利トリオが不在の先発ローテを支えた19歳は、この1カ月半の間に何を感じたのだろうか。
まず手ごたえについて尋ねると、京山はしばらく沈黙した後で「特にないですね」とつぶやいた。
「勝てているというのはいいことですけど、手ごたえがあったかというと、自分ではそこまでないと思います」
リーグ4位タイ(5月18日終了時点)にランクインする勝利数を稼いでも、投球内容に満足しているわけではない。
象徴的なのは、2度目の登板以降、イニング途中での降板が続いている点だ。5~6回、球数が100球前後となったところが“鬼門”となっている。
「どうしてもそこで踏ん張れないといいますか。ランナーを出してしまって、悪いリズムをつくってしまう。そこは自分の弱さを痛感しているところです。相手バッターが3巡目にまわる頃で、目も慣れてくる。そこで自分が低く投げきれず、1打席目、2打席目と同じような投球をしていた。だから打たれてしまうのかなと自分では分析しています」
◆ 直面した“一軍”のレベル

手ごたえを聞いた時とは対照的に、自身の課題や一軍のマウンドで感じた壁についての言葉はいくつも並ぶ。京山は言った。
「ファームで投げていた時と比べて失投を見逃してくれませんし、完璧に決まったコースでもヒットされることがありました。まだまだ自分の球のスピード、キレが足りないんだと感じています。たとえば中日戦(4/15)でアルモンテ選手に投げたインコースへの真っすぐ。あのボールは全然悪くない、いいボールだと思ったので、それを打たれたのはちょっとショックというか、ビックリしました」
アルモンテに驚きの一発を浴びたところで降板した京山は、中9日を置いた4月25日、カープ戦に先発した。田中広輔への死球で始まった初回に1点を失うと、2回には4安打と4四球で打者一巡。結局、このイニングを投げきることなくマウンドをあとにした(1回2/3・7失点)。これだけ早いタイミングで降板を余儀なくされたことは、自身の野球人生を振り返っても過去にはないという。
さらに5月6日のジャイアンツ戦では、6回2アウトまで取りながら、阿部慎之助とゲレーロに連続被弾。続く岡本和真にヒットを許したところで無念の交代となった。
試合を重ねるごとに、対峙する打者への警戒心は強まった。ただひたすらにキャッチャーミットめがけて投げていたデビュー戦のころから、心理状態が次第に変化していったのも無理はない。
「低く、低く(投げなければ)というイメージがより強くなっていきました。それを意識し過ぎたせいか、制球も悪くなってしまった」
京山の精緻なコントロールは、ピッチングを組み立てるうえで大きな武器となるものだ。しかし、痛打の記憶が低さへの過度な意識を生み、持ち味であるはずの制球をも乱す結果となってしまった。
プロ初登板のスワローズ戦では1つだけだった四球が、同じ相手と戦った直近5月13日の試合では7つを数えた。京山がいまぶつかっている壁がそこにあることを如実に示す数字だと言えるだろう。
◆ 冷静と熱情と…

京山が投球している姿を見ていて感じるのは、高卒2年目、まだ10代とは思えぬ冷静さだ。
「自分では、そんなに落ち着いているピッチャーではないと思ってます。まだまだ(精神的には)19歳未満というか。ただ、動揺していることを見せるのは自分の弱さを出すことになると思うし、スキが生まれて、そこに付け込まれてしまうので、表情には出さないようにしています」
実際のところ、マウンドに立つ若い右腕の心中は決して穏やかではないという。
雨が次第に強まる中で行われた5月13日のスワローズ戦、3-3の同点で迎えた3回表に絶体絶命のピンチが訪れる。連打と四球でノーアウト満塁。降雨コールドの可能性を考慮すれば、何としてもリードを許したくないシチュエーションだった。
「あの時はしびれました」と振り返る京山は、三振、ショートフライ、サードゴロと1つずつアウトを重ね、無失点で危機を乗りきる。何事もなかったかのようにベンチに駆け戻った時の心境を、こう明かす。
「あそこで点を取られるか取られないかはすごく大きかった。(最後のアウトを取った時)自分の心の中では叫んでました」
それを表に出さないところが京山らしさであり、投手向きの性格の持ち主であることをうかがわせる。
◆ 大いなる伸びしろ
登録を抹消されたいま、強化のポイントに挙げたのは、一軍で通用するボールを投げるための“体づくり”だ。
「しっかり食べて、しっかり走って、強い体づくりをやっていきたい。1年目からやってはきましたが、まだまだ足りないので。そこを重点的にやって、結果的に強い球が投げられるようになれればと思っています」
取材の中で唯一、若者らしさを感じさせたセリフは「おいしいごはんを食べている時がいちばん幸せ」――。
食べて、鍛えて、強くなる――その余地が19歳の右腕にはまだまだ残されている。