グラウンドに銭は落ちている!
――金村さんは「グラゼニ」という言葉を知っていますか?
「知ってますよ。(南海で監督を務めた)鶴岡一人監督が言った名言なんですけどね。僕ら近鉄と南海で試合をやってたとき、グラウンドにホンマに10円玉が落ちてましたよ。投げられて(笑)投げてきよるんですよ(笑)10円玉をいっぱい集めたことありますけどね(笑)ホンマにグラウンドに落ちとるどー言うて」
――やはりプロ野球はやった分だけ跳ね返ってくる実力の世界ですか?
「そうですね。もちろん実力の世界ですけど、裏を言うと、プロの世界でも人脈とか多いですよ。大学派閥とかもね。僕が近鉄に入った時の4番だった栗橋(茂)さんは、駒沢大を出ていましたけど、本当の一匹狼でしたから。未だに独身でスナックやっているというのが現状ですからね(笑)」
――グラゼニという漫画は主人公が中継ぎのサウスポーで、常に相手の年俸をチェックしていて、自分より低いと強気でいけるけど、高いと弱気になってしまうんですが
「昔のパ・リーグの連中に似てますよね。だから昔は実力のパ、人気のセゆうて、セ・リーグに負けるなと。妬みやっかみの世界ですよ。野村(克也)さんの根っこですよね。」
契約更改もさまざま…
――金村さんは、近鉄、中日、西武と3球団を経験していますが、それぞれ待遇は違いましたか?
「違いますね。幸い強いチームにいたので、本当に弱いチームではあまり経験をしていないですが、待遇はひどかったですね。近鉄なんて野茂(英雄)が5年連続最多勝で5年目に現状維持や言うた球団ですからね(笑)」
「野茂が納得いくまで保留すると言って保留繰り返したら社長が入院し、電話交渉して最終的には現状維持から5000万アップしたからね。だから1回で印鑑押すやつアホやと。ただ栗橋さんは、男は金で汚いことは言うなと言ってずっと一発サインでしたよね。一発サインで丸められて帰ってきて酒を飲んで愚痴を言っているタイプ(笑)なんで上がらないんだと言いながら(笑)」
「当時のパ・リーグは、噂でしかないですけど、門田(博光)さんとか、鈴木啓示さんとか、山田久志さんとか、超一流の人はノータックスでもらっていると。で、残りの70人を下げるために一番最初に推定で安く発表する。そうすると、それ以上は欲しいと絶対に言えませんから(笑)推定ですけどね」
「西武だけはパ・リーグではなくて、堤オーナーがトップダウンで球団を作った。だから東尾(修)さんなんかは、9800万のときは200万キャッシュで持っていって1億にしようと。プライドをね。カッコええな思いましたよ。ウチのトップはというと、先に発表してやがると(笑)」
――契約更改ではチーム内で情報交換などは?
「なかったですけど、中継ぎでノートに自分の球数を全部メモしている投手とかはいましたけどね。(当時の評価は?)どんぶり勘定。だから西武で驚いたのが、ちゃんと数字で“進塁打”とかもポイントを付けていて。近鉄なんてどんぶりだったので、何のポイントもないですよ」
「一番打者が一番多くバッターボックスに立つとか言うような球団ですから(笑)だから常に大石大二郎だけは上がるみたいな(笑)チームの顔で。だから阿波野(秀幸)が入ってきたら、その当時の西崎(幸広)の年俸を見てから阿波野を決めようみたいな。チームの顔にさえ出しておいたらいいみたいな考え(笑)」
――契約更改で交渉をうまく運ぶコツはありました?
「僕は栗橋さんと一緒でずっと一発更改。いま後悔しても遅いですけど、毎年保留しとったら良かったなと(笑)あるとき、子ども3人できて、僕が契約更改いったとき、僕が(1988年に西武と近鉄が最終戦まで優勝を争った)10.19の3日くらい前に骨折して試合出れず優勝を逃し、翌年は開幕前に主治医が治ったと言ったら治ってなくて、開幕の日に手術して、その時に優勝した」
「すると社長が、レギュラーのお前がおらへんから急に外国人とって、金がようけかかったと言って(笑)当然上がらない。子供できたからミルク代あげてくれと言ったら、おう上げたろと。そしたら、ミルク代は月ナンボやと。ウチ母乳やと。こんな会話しかできないのかと(笑)それが実情の契約更改でしたよ」
FAで75%ダウンの悪夢
――中日へはFAで行かれましたよね?
「僕はFAでも、75%ダウンした最悪のFAでしたから(笑)ただ星野(仙一)さんと知り合っただけという(笑)僕がFAで手を上げた時に星野さんが戻ってくると。そういう噂が流れてから中日の選手が頑張り出して、勇退する高木守道さんがもう1年残留することになった。」
「星野さんには1億の3年契約くらいと言われていたのに、急に話が変わって、もう1年あとになった。僕はどうしたらいいやと(笑)そしたら球団社長が、星野が何を言ったかわからないがと。こんなん入団のときと同じ会話やと(笑)とることはとる。でもウチには金がない。支度金だけ、12月に支度金だけ用意すると。契約金から支度金に代わって、最高の引っ越し屋できてくれと(笑)で、年俸は現状維持で。引っ越し代は請求してくれと。で、わかりました、行ってから頑張ろうと」
「最初はマンション買って借金しようと思っていたけど、マンションが決まり契約の2日前というときに阪神淡路大震災に遭って契約できず、賃貸になり、その年に活躍できず、星野さんが戻ってきたら年俸50%ダウンになって、もう大阪に帰れと(笑)」
「いや、いらんのやったら仙さんの手で首にしてくれといったら、年俸50%ダウンでもいいのかと。僕は労働組合やっていたので、25%以上は下がらないと思っていて『いいです』って言ったらホンマに50%ダウン(笑)本人の了解があれば大丈夫と(笑)」
「それもピカイチという中日ファンがあつまる中華料理屋で契約しましたから。FA選手でも、こんな選手はおらへんやろなと(笑)本社に行ったのは入団発表の1回だけ。その次は年俸50%ダウンの契約をピカイチという中華料理屋で球団代表と(笑)ビールと餃子と手羽先で。申し訳ないけど50%ダウンでと言われ、わかりましたと。」
「で、次の年に優勝争いして、130試合ベンチウォーマーで、試合に出ずクビかなと思ったら、最終戦で長嶋ジャイアンツとの試合に先発してタイムリーヒットを打って、また契約すると。次は秋季キャンプの沖縄で契約更改。25%ダウン。だから中日に行って75%ダウンですよ。」
「次の年がナゴヤドーム元年ということで、もう最後やと思って死ぬほど練習して調子は良かったんですけど、立浪の打球を受けて骨折し、そのまま開幕。開幕して1週間ほどしたら連絡があって、西武にトレードやと。今度は自分のベンツに服だけ詰めて家族を残して西武ライオンズの寮に入ったんですよ。」
西武と近鉄の違いとは…
――そこから寮に!?
「33歳で寮に入ったら、松井稼頭央、大友(進)、小関(竜也)、高木大成、森慎二などがいて、トレードの理由を聞いたら、右バッタ―がいないというので編成の人が中日の余剰戦力を見ていたら、オレがキレキレやと。でも高いやろと思って調べてみたら安いと(笑)すぐ獲れ!ってなって、そのおかげで即入団が決まり、入団発表をして、今日から出ろと言われて、いやいいですと(笑)帰って荷物を用意して来週来ますといって、寮に入ったんですよ。」
「で、近鉄戦で初打席初本塁打を打ち、そこから寮にずっと住んで。そうすると奇跡的に優勝して。優勝旅行に行って、契約更改にいったら、君の契約が一番難しいと言われ、また年俸が上がる。西武って凄いなと。出塁率まで見てくれる。つなぎの野球で。」
「近鉄ではそんなこと言われたこともない(笑)誰を上げたから、誰を下げなアカンとか、枠があるからとか(笑)近鉄は数十億のパッケージになっていて、その中でやる。二軍なんかは全員が食堂に呼ばれてこれにハンコ押せと(笑)それがイヤで辞めたやつもいましたからね。それが西武は出塁率まで見てくれると。」
「僕がピンチヒッターの切り札やったら提案させてくださいと言って。それはドラゴンズのときにピカイチで言われたんですけどね。あまりに下げてかわいそうだから、来年はインセンティブで戻すと。でも試合に出れなかったからインセンティブを勝ち取れなかった(笑)」
「西武ではピンチヒッターとしてコーチ兼任でやってくれと。お立ち台にのったら100万円くれと。そしたら、それいいねと。上限1000万までで。そんなのやってくれましたよ。だからピンチヒッターの時はひと際気合が入ってましたよ。これでお立ち台や思ったら。」
奇数で終わる年俸…?
――当初、どのくらい稼ごうとか考えていました?
「そんなのは全然。頑張れば皆一緒だと思っていた。頑張れば大きな家が建つんやと思ってましたよ。ただ、無理だなと思うのに2年はかからなかった。辞めなあかんなと。つくづく思いましたよ。だから18年間やりましたけど、金はたまらなかったですね。家を建てたいという欲求も消え、ただ見栄でベンツは乗り続けましたけどね。見栄だけでやってました」
「やっぱり他所の同年代のあいつは、あんだけもらってんのかと。まぁ、新聞紙上の情報ですけどね。だから当時の広島と近鉄は仲が良かったですよ。二軍の年俸もでますから、球団によって奇数で終わるって(笑)偶数で終われよと(笑)12等分ですから。どんなシリアスな戦いを契約更改でカープもやっているのかと(笑)二軍の最低年俸は240万なんですけど、249万ってこれなんやねんと(笑)奇数で終わるのは、当時の僕の記憶では近鉄とカープしかなかった」
「で、労働組合ができて、二軍は一銭もあがりませんけど、何年かしたら最低年俸が徐々に上がっていったんですよね。僕のときは一軍が360万、二軍が240万で入団して、そこから一時、労働組合ができたとき最低年俸が一軍で800万くらいになったときがあって、そしたら1試合でもピンチランナーに出ると日割りでくれるんですよね。それを計算して、ピンチランナーでも出してくれ出してくれと」
「だから、頭角を現した2年目、3年目の給料が一気に3倍くらいになったり。だけど次の月はまた年俸に戻るからがっつり下がる。だから二軍の投手なんかは、何年もやっていて、あるとき1年目のルーキーが二軍のピッチャーに入ってきたときは、年俸800万で入ってきて、二軍で4、5年やっているのに400万、500万くらいで。チーム内はぎくしゃくしますよね。」
――やはり同期や似たタイプの選手は気になったんですね
「もちろん。新聞見て、あいつこんなにもろてんのかと。あいつベンツ買いよったとかね。当時は住所も名鑑に出てましたからね。住所、乗っている車、年俸、個人情報ダダ漏れですよ(笑)だから少しでもよく見せたいというのもありましたし、だから仲良くはなれなかったですよね」
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【前編】憧れのプロ入りも…驚きの“格差”!? 実際に体感したプロ野球の裏側
取材・構成=平野由倫(ひらの・よしのり)
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朗報『グラゼニ(第1話~第8話)』の一挙再放送が決定!
見逃した人もまだ間に合う!!
▼ 日時
6月2日(土)午前10時30分~
▼ チャンネル
BSスカパー!(BS241)
※スカパー!加入者は無料
アニメ『グラゼニ』
放送日時:毎週金曜・22時30分 ☆再放送多数
原作:森高夕次/漫画・アダチケイジ「グラゼニ」(講談社『モーニング』連載)
監督:渡辺 歩(「ドラえもん」「宇宙兄弟」監督)
シリーズ構成・脚本:高屋敷英夫(「めぞん一刻」「逆境無頼カイジ」シリーズ構成)
キャラクターデザイン:大貫健一(「MAJOR」「ガンダムビルドファイターズ」キャラクターデザイン)
音楽:多田彰文(「ポケットモンスター劇場版」「魔法使いプリキュア」ED主題歌)
音響監督:辻谷耕史(「昭和元禄落語心中」「シムーン」)
音響制作:Ai Addiction(「地獄少女 宵伽」「ノラガミ」)
アニメーション制作:スタジオディーン(「昭和元禄落語心中」「GIANT KILLING」「さんかれあ」)
チャンネル:BSスカパー!(BS241/プレミアムサービス579)・スカパー!オンデマンド
※視聴方法
スカパー!のチャンネルまたはパック・セット等のご契約者は無料でご視聴いただけます。
・公式サイト:https://www.bs-sptv.com/gurazeni/
・公式Twitter:@sptv_gurazeni
製作:スカパー!・講談社
▼ 原作「グラゼニ」とは…
週刊『モーニング』(講談社)にて2010年12月より連載中の漫画「グラゼニ」。
成果主義であるプロ野球を“夢を売る徹底した格差社会”として、
「カネ」をテーマにプロ野球のシビアな世界と生活を懸けたプロ野球選手の日常を描く作品です。
リアルな描写で野球界でのファンも多く、第37回講談社漫画賞を受賞。
その他、「このマンガがすごい!2012」ではオトコ編・第2位に、
「全国書店員が選んだおすすめコミック2012」では8位にランクインするなど注目を集めました。