記憶に新しい成田翔の活躍
第100回全国高校野球選手権記念大会で、秋田代表・金足農が旋風を巻き起こしている。8月20日の準決勝では春夏3度の優勝を誇る強豪・日大三(西東京)を2-1で下し、ついに決勝進出。秋田県勢の決勝進出は第1回大会での秋田中以来、実に103年ぶりの快挙である。
その旋風の中心にいるのは、最速150キロ右腕・吉田輝星。伸びのある直球に加え、試合展開により“ギアを上げる”ことができる技術、フィールディング、状況判断能力など、あらゆる面で秀でた逸材だ。その吉田擁する金足農は、秋田県のみならず東北勢悲願の甲子園初制覇をかけ、2度目の春夏連覇を狙う王者・大阪桐蔭(北大阪)に挑む。
夏の甲子園では1998年から2010年まで13年連続で初戦敗退を喫するなど、苦戦を強いられてきた秋田県勢。ただ、低迷期に入るまでの秋田県勢は決して弱小だったわけではない。1984年には金足農が、1989年には秋田経法大付がそれぞれ準決勝に進出。1980年代の10年間における夏の甲子園での成績は、12勝10敗と勝ち越している。ところが、1990年代には7勝10敗、2000年代には先述のように1勝も挙げられず、どん底を味わった。
だが、県勢一丸となってレベルアップを図るべく、2011年に「県高校野球強化プロジェクト」を立ち上げると、その年の夏の甲子園で能代商が3回戦に進出。早速結果を出した。そして、2015年夏の甲子園での秋田商の躍進は高校野球ファンの記憶に新しいところだろう。エースは成田翔(ロッテ)だった。
この年の成田は、初戦となった2回戦・龍谷戦で16三振を奪う奪三振ショーを披露すると、続く3回戦・健大高崎戦は10回161球3失点の粘投で見事勝利。秋田県勢20年ぶりとなるベスト8入りを決めた。残念ながら、準々決勝で仙台育英に3-6で破れはしたが、全国的な強豪相手に見事な接戦を演じてみせた。現在、成田はプロ3年目。そろそろ一軍での飛躍に期待したいところだ。
山田久志、落合博満らレジェンドに続け!
過去には、山田久志(元阪急)、落合博満(元ロッテ他)ら球界のレジェンドを生んできた秋田県。ここで、成田の他、秋田県出身の現役プロ野球選手を挙げてみたい。
【秋田県出身現役プロ野球選手】
石川雅規(ヤクルト) 秋田商/38歳
攝津 正(ソフトバンク)秋田経法大付/36歳
菊沢竜佑(ヤクルト) 秋 田/30歳
石山泰稚(ヤクルト) 金足農/29歳
進藤拓也(DeNA) 西仙北/26歳
成田 翔(ロッテ) 秋田商/20歳
秋田県出身の現役プロ野球選手は6人。成田をはじめ、全員が投手である。最年長は石川雅規(ヤクルト)。秋田商時代の石川は、1997年夏の甲子園に出場。1回戦の浜田戦では和田毅(ソフトバンク)との投げ合いを制して完投勝利を挙げている。あれから21年。38歳のベテラン左腕となった石川は、8月19日の阪神戦で今季5勝目を挙げ、白星を先行させた。前回登板の8月12日の中日戦では勝ち星こそつかなかったが、7回までパーフェクトピッチングという快投を披露。厳しさを増すシーズン終盤に向けて、ベテラン左腕の存在感が増している。
そして、石川の5勝目をアシストしたのが石山泰稚(ヤクルト)。甲子園出場経験こそないが、金足農出身で今夏の甲子園を席巻している吉田の直接の先輩だ。セットアッパーとして今季の開幕を迎えた石山だが、5月からはクローザーに定着。シーズン途中での配置転換だったものの、ここまで21セーブを挙げ、見事な守護神ぶりを見せている。
現時点で吉田の進路は大学進学が濃厚と報道されている。しかし、多くの球界関係者をうならせる完成度の高さ、ファンを魅了するアグレッシブな投球スタイルをプロが放っておくはずがない。石川らに続いてプロで活躍し、ゆくゆくは山田や落合のようなレジェンド級の選手になってもらいたい。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)