その有効性が議論の対象となって久しい送りバント

◆ 「確実にチャンス」?「アウトを献上」?

 今年の甲子園で旋風を巻き起こしたチームと言えば、秋田代表の金足農。エース・吉田輝星というスターも誕生したが、最も衝撃を与えたプレーというと、準々決勝・近江戦で見せた“2ランスクイズ”を挙げるファンも多いのではないか。

 負ければ終わりの一発勝負が高校野球の醍醐味。なんとかして“1点”を取りに行くべく、出塁すればまず送って走者を得点圏に…というのが定石だ。しかし、さまざまなデータ分析が進んだ近年は送りバントの有効性が議論の的となることも度々あり、「送りバントは極力しない」と明言する監督も出てきた。

 なかでもその流れが強いのがメジャーリーグ。いまからちょうど20年前の1998年、メジャー全体で記録された犠打数は「1705」個。以降の20シーズンで、唯一1998年を上回ったのが2004年の「1731」犠打。2005年以降はしばらく増えたり減ったりを続けていたが、2011年の「1667」犠打をピークに昨季まで6年連続で減少。昨季はついに1000を切って「925」犠打まで減少している。

 今季は現地2日終了時点で「715」犠打。これはシーズン換算すると「846」犠打ペースとなり、昨季を下回ることが濃厚となっている。1998年と比べると、20年で半減することになるのだ。

 前でも少し触れたように、セイバーメトリクスが浸透したここ十数年、“アウトをひとつ献上する”送りバントの有効性は統計的に否定される傾向にあり、それが数字となって現れている格好。また、近年のフライボール革命も犠打数減少を後押ししていることは間違いない。

◆ バントが“奇策”に…?

 次に、今季の犠打数をいくつかの観点から見ていきたい。

 まずはリーグ別の数字。これはナ・リーグのチームが「486」個の犠打を記録している一方、ア・リーグは「223」犠打と半数以下に。というのも、今季の715犠打のうち約半数が投手によって記録されているもの。指名打者制度を採用しているア・リーグが圧倒的に少ない要因はそこにある。

 つづいてチーム別の数字を見てみると、なんと5チームのシーズン犠打がいまだに1ケタ台となっている。メジャー最少はブルージェイズの「3」個。次いでアスレチックスとレッドソックスが「6」個。エンゼルスは「7」個、ヤンキースが「9」個で続く。ちなみに、昨季までのシーズン最少記録が2016年・レッドソックスの「8」犠打。今季は複数のチームがこれを塗り替えることになりそうだ。

 一方、ナ・リーグは全15チームが20個以上の犠打を記録している。ただし、そこから投手の犠打を除いた場合、15チームのうち9チームが一気に1ケタ台へ。最少はフィリーズの「4」個で、ア・リーグのチームと比べても少ない部類になる。

 「送りバントの有効性」が議論され始めてからかなりの年月が経つが、ここ数年は特に減少傾向が強まっていることが分かる。近い将来、送りバントが“奇策”となる日が来るのかもしれない。
 

【メジャーリーグの総犠打数】※直近20年
1998年:1705
1999年:1603
2000年:1628
2001年:1607
2002年:1633
2003年:1626
2004年:1731
2005年:1620
2006年:1651
2007年:1540
2008年:1526
2009年:1635
2010年:1544
2011年:1667
2012年:1479
2013年:1383
2014年:1343
2015年:1200
2016年:1025
2017年:925
2018年:715(年間846犠打ペース)

※数字は現地時間2日(日本時間)終了時点

文=八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊・プロフィール】
1976年、和歌山県出身。大学卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。日本にファンタジーベースボールを流行らせたいという構想を持ち続けている。

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八木遊

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