ニュース 2018.12.21. 18:00

“選ばれなかったけど選ばれた”男たち 決してネガティブでない人的補償

無断転載禁止
西武・内海哲也 (C) KYODO NEWS

巨人は7人が補償で流出


 2018年も残りわずかとなり、プロ野球のストーブリーグも徐々に動きが少なくなってくるところ。そんな中、20日に球界を揺るがすビッグニュースが飛び込んできた。

 巨人の内海哲也が西武に電撃移籍。プロ入りから巨人一筋15年、長らくエースとしてチームを支えてきた男が、FAの人的補償という形で巨人を去ることになった。

 “人的補償”とは、FA権を行使した選手を獲得した球団が、その選手の前所属球団に対して代償として払う補償のひとつ。獲得球団は外国人選手と直近のドラフトで獲得した新人選手を除いた所属選手の中から「28名」まで獲得制限をかけることができる(いわゆる「プロテクト」)が、そこから漏れた選手は獲得可能選手として前球団へ通知される。もし指名された選手が移籍を拒否した場合、その選手は資格停止となってしまう。

 28名の「プロテクトリスト」は門外不出のため、誰が守られていたのかは分からない。ただひとつ、内海ほどの功労者でもプロテクト内に入らなかったという事実だけが浮き彫りとなり、野球ファンに大きな衝撃が広がった。


 かつては毎年のようにストーブリーグの主役を張ってきた巨人。何人もの大物FA選手を獲得してきた分、多くの代償も払ってきた。

 FA制度が現行のルールになった2008年以降で絞ってみても、巨人がFAで獲得した選手は14名。この中には補償の必要がなかったCランク選手が4名、そしてまだ補償が決まっていない丸佳浩も含まれている。丸を除き、すでに完了した移籍のなかで、補償を必要としたケースは9例。そのうち7度は人的補償を選択されているのだ。

 特に近年では、2013年に大竹寛を獲得した際の補償で移籍した一岡竜司が広島で大ブレイク。ここ2年連続で59試合に登板するなど、新天地でブルペンに欠かせない存在へと成長を遂げ、チームの3連覇に大きく貢献している。また、2016年に山口俊を獲得した際にも、有望株として期待された平良拳太郎が補償という形で流出。移籍初年度に新天地でプロ初勝利を挙げると、今季は5勝(3敗)をマークするなど着実に成長を見せている。

 今回、内海ほどの功労者までプロテクトが回らなかったのは、こうした“過去の失敗”が大きく関係しているということが推察できる。特に巨人ほどの戦力を誇るチームでは、単純に守りたい選手に印をつけていけば「28」の枠では足りない。だからこそ、他球団は巨人に対して積極的に人的補償を求める。“9分の7”という高い確率がそれを証明している。

 内海の移籍について、球団からの「移籍は大変残念でなりません」というコメントにはファンからも多くのツッコミが入ったが、きっとこれが球団の本音。巨人は内海を「守らなかった」のではなく、「守ることができなかった」のだ。


▼ 巨人のFA獲得と補償(現行制度=2008年以降)
2009年 藤井秀悟 ※補償なし
2011年 村田修一(←→ 藤井秀悟)
2011年 杉内俊哉 ※金銭
2013年 大竹 寛(←→ 一岡竜司)
2013年 片岡治大(←→ 脇谷亮太)
2014年 相川亮二(←→ 奥村展征)
2014年 金城龍彦 ※補償なし
2015年 脇谷亮太 ※補償なし
2016年 山口 俊(←→ 平良拳太郎)
2016年 森福允彦 ※補償なし
2016年 陽 岱鋼 ※金銭
2017年 野上亮磨(←→ 高木勇人)
2018年 炭谷銀仁朗(←→ 内海哲也)
―――――
2018年 丸 佳浩 [未定]


相手からは「一番」に選ばれたということ


 内海の衝撃も冷めやらぬなか、20日夜にはオリックスが阪神へFA移籍した西勇輝の人的補償として、3年目右腕の竹安大知を獲得したことを発表した。

 2015年のドラフト3位で阪神に入団した24歳の右腕は、ここまでの3年間のキャリアで一軍登板3試合というこれからの投手。2017年のプロ初登板・初勝利を経て、飛躍に期待がかかった今季は2試合の登板で勝ち負けなしに終わったものの、ファームでは14試合の登板で6勝負けなし、防御率1.30という圧巻の成績を残しており、一岡のような大ブレイクに期待がかかる。


 一般的に“プロテクト漏れ”となると、すなわち「球団から必要とされていない選手」という認識が強くなってしまうが、内海にしても竹安にしても、決してそういう訳ではない。その時のチーム状況や流れ、交渉相手のチーム状況なども鑑みた上で、たまたま28個のイスに座れなかったというだけなのだ。

 「プロテクトリスト」には選ばれなかった2人であるが、逆に言えば西武・オリックスからは「一番に欲しい」と思われた選手だということ。求められて移籍することは、大きなチャンスである。突然の移籍ではあるが、彼らの新天地での爆発に大いに期待したい。


▼ 過去の「人的補償」移籍選手

<1995年>
・川辺忠義(巨人⇒日本ハム)
└ 河野博文の補償


<2001年>
・平松一宏(巨人⇒中日)
└ 前田幸長の補償

・ユウキ(近鉄⇒オリックス)
└ 加藤伸一の補償


<2005年>
・小田幸平(巨人⇒中日)
└ 野口茂樹の補償

・江藤智(巨人⇒西武)
└ 豊田清の補償


<2006年>
・吉武真太郎(ソフトバンク⇒巨人)
└ 小久保裕紀の補償

・工藤公康(巨人⇒横浜)
└ 門倉健の補償


<2007年>
・赤松真人(阪神⇒広島)
└ 新井貴浩の補償

・岡本真也(中日⇒西武)
└ 和田一浩の補償

・福地寿樹(西武⇒ヤクルト)
└ 石井一久の補償


<2010年>
・高浜卓也(阪神⇒ロッテ)
└ 小林宏之の補償


<2011年>
・藤井秀悟(巨人⇒横浜)
└ 村田修一の補償

・高口隆行(ロッテ⇒巨人)
└ サブローの補償


<2012年>
・馬原孝浩(ソフトバンク⇒オリックス)
└ 寺原隼人の補償

・高宮和也(オリックス⇒阪神)
└ 平野恵一の補償


<2013年>
・鶴岡一成(DeNA⇒阪神)
└ 久保康友の補償

・一岡竜司(巨人⇒広島)
└ 大竹寛の補償

・藤岡好明(ソフトバンク⇒日本ハム)
└ 鶴岡慎也の補償

・脇谷亮太(巨人⇒西武)
└ 片岡治大の補償

・中郷大樹(ロッテ⇒西武)
└ 涌井秀章の補償


<2014年>
・奥村展征(巨人⇒ヤクルト)
└ 相川亮二の補償


<2016年>
・金田和之(阪神⇒オリックス)
└ 糸井嘉男の補償

・平良拳太郎(巨人⇒DeNA)
└ 山口俊の補償


<2017年>
・尾仲祐哉(DeNA⇒阪神)
└ 大和の補償

・高木勇人(巨人⇒西武)
└ 野上亮磨


<2018年>
・内海哲也(巨人⇒西武)
└ 炭谷銀仁朗の補償

・竹安大知(阪神⇒オリックス)
└ 西勇輝の補償



ポスト シェア 送る

もっと読む

  • ALL
  • De
  • 西

メジャーリーグ

高校・育成