――最近の子ども達と昔の子どもたちを比べて思うこと、感じることはありますか?
「『今の若い子たちは』って室町時代でも言ってるんですよ。だから多分100年たっても言ってるんですよ。時代が変化しているから今の子どもと昔の人達が違うのは当たり前なんですよ。本質的なところはあまり変わってないと思うし、きっちりアプローチしたらきっちり返ってくるし、いろんな違いはありますけど時代によって起こって当然のことだと思っているので。軟弱だとかそういうの思わないですね。大人がそういうのを作ってると思いますね」
――OBである筒香嘉智選手(DeNAベイスターズ)が、今年より小学部のスーパーバイザーに就任されました。現役のプロ野球選手としては前例がないことですが、就任の経緯と筒香選手が担う役割について教えてください。
「筒香選手とは特にオフの期間に色々な話をするのですが、やはり野球に対するアプローチ(特に小、中時代)が変わらないといけないと話すことが多くありました。彼の高校時代(横浜高校)やプロの同僚と話をしていても、ケガが多い。その理由は幼少期のやり過ぎ、投げ過ぎに原因があるのではないか?
しかし、今も少年野球の現場はあまり変わっていない。これは何とかしないといけない。では、こちらで小学部を創って、色々と発信をしていきましょうとなったのが経緯です。
現役選手ではありながら、スーパーバイザーという肩書で関わってもらい、特にオフシーズンに子どもらと交流し、また指導者と意見交換をしてもらっています」
――少年野球の指導者が心がけるべきことは何だと思いますか?
「今の時代でいうと自分で考えて行動出来るとか、2つの『創造力』、『想像力』ですよね、ニーズとして求められているのは。ひょっとしたら何十年か前はそれが求められてなかったのかもしれませんね。
言われたことをやる、挨拶出来る、反抗しないというのが世の中に求められているニーズだったのかもしれないですけど、今は明らかにそれが変わってるんですよ。という事は野球に対するアプローチも変わっていかないといけないので、その部分からいうと1番は『答えを与えない』ということ。自分でとにかく出来るように。そのほうが時間かかるんです。特に子どもの間は押し付けてやらした方がすぐ出来ますし。でもそこを大人が我慢する、見守る、そういうことが1番必要だと思います」
――堺ビッグボーイズに見学に来て、その方針をチームに取り入れる中学生の指導者も増えています。それでもなぜ高校野球では広がらないのでしょうか?
「甲子園があるからじゃないですか。負けたら終わりっていうふうになってしまうと、ここ最近特に思うんですけど、あのルールは指導者を非常に苦しめるなと。先生って人格者の人がすごく多いじゃないですか。でもあの世界に行くと、過密日程の中で子どもの疲労が極限に達していても『お前行けるか?』『行けます!』ってなっちゃうんですよ。それをメディアなどが『熱投』って載せるわけじゃないですか。その被害にあうのはいつも子どもなんですよ。
それに向けてうちのスタッフがセミナーで話して、高校の指導者の人が集まってくれたりということを細々ながらやってはいるんです。そういう学校が増えてくれることを切望しています。
『教育って何のためにあるんですか?』って言ったら、もちろん子ども達が大人になったときに役立つことを今やるのが教育ですよね。なのに教育機関が今勝つことを目的にするっていうのは、教育から外れてるんじゃないかと。教育の一環と言ってるけど、それはほんとに教育になっているのか。
子どもが大人になった時に役立つことを教えるのが教育なのに、小学校も中学校も高校も目の前の勝たないといけない目先の成果を求めすぎることで、彼らのデメリットは非常に大きいなと思います」
――最後に野球をやっているお子さんをお持ちの親御さんたちに一言、メッセージをお願いします。
「混沌とした世の中というか、将来日本ってどうなるのかなっていう中で、自分の子どもに対してでき得る限り良い環境だったり教育をさせてあげたいと思うのが親心だと思うんですよね。だからいろいろ調べたり、子どもに対して熱心に考えられてる親御さんが多くなっていると思うんですよ。それはすごく大切なことだと思うんですよ。だからこそ良い距離感というか、あんまり子どもの世界に入りすぎると子どもにとって良くないことがたくさんあるとうちのチームでは心がけてます。
お父さんお母さんによく言っているのは、『見守る事と観察することを大事にしてください』ということです。言いたくなる気持ちはわかるんですけども、そこで一歩我慢する、一歩見守るっていうのが、子どもたちが自立して歩んでいくことの一歩になるので、大人が一歩我慢するのが彼らのためになるんじゃないかなと思います」
(取材・撮影:小中翔太)