話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、4月18日のヤクルト戦で4年ぶりの完投勝利を挙げた35歳のベテラン、阪神・岩田稔投手のエピソードを取り上げる。
「涙が出そうです」
18日に神宮球場で行われた、ヤクルト-阪神戦。ここ7試合で1勝5敗1分けと低迷気味の阪神を救ったのは、この日先発した35歳のベテラン・岩田でした。
昨シーズンは勝ち星なしと不本意な成績に終わり、限界説も囁かれるなか、まだまだできるということを示すために、今季初のマウンドに立った岩田。
「ヤクルト打線はすごい強力なので、そこで引いてしまったら負け。自分のスタイルを全面に出していった結果が、ゴロアウトが多かったっていうことですね」
27個のアウトのうち、半分以上の16個がゴロアウト。徹底的に打たせて取るピッチングで、強力ヤクルト打線を巧妙にかわして行きました。そんなベテランを、打線も援護。4番・大山が2打席連続アーチを放てば、6番・中谷も同じく2打席連発。ルーキー近本もバックスクリーン左に叩き込み、ホームラン5本を含む16安打・13得点を挙げました。
こうなればリリーフ陣の助けはもう不要と、9回まで118球を投げ、みごと完投勝利。2017年10月1日の巨人戦以来564日ぶりの白星で、完投勝ちとなると、15年6月16日の日本ハム戦以来、1,402日ぶりのことでした。
「そんな前でしたっけ?あんまり昔すぎてあんま覚えてないんで。けっこう前ですね。恥ずかしいですね」
と照れながら、大量の援護をくれた打線に感謝。
「(打線爆発は)メッチャすごかったですね。『うわぁ、うわぁ!』って何回言わすねん! みたいになってました。ホンマ、ありがとう!」
昨シーズンは、登板がわずか6試合、0勝4敗に終わった岩田。チームが最下位になったこともあり、昨年暮れの契約更改では、5,000万円から1,200万円減の、年俸3,800万円でサインを余儀なくされました。
「正直、今年で終わるかも……と思っていた部分もあった」と言う岩田ですが、2軍でも心を折ることなく、若手に交じって投げ続けられたのはなぜでしょうか? クラブハウスへの階段を上る際、岩田は記者たちに、自らこう切り出しました。
「中途半端では辞められない。1型の子どもたちが見ているんで……」
「1型」とは、「1型糖尿病」のこと。実は岩田は1型糖尿病患者で、血糖値を下げるため、毎日4、5本のインスリン注射を打っています。糖尿病というと生活習慣病のイメージがありますが、それは「2型糖尿病」。1型は運動不足や過食とは無関係に、インスリンが正常に分泌されなくなる疾患で、子どもの頃に発症するケースが多いことから、かつては「小児糖尿病」とも呼ばれました。
糖尿病患者全体のなかで、1型患者が占める割合はわずか2〜3%。しかし、不養生が原因の2型と一緒にされることも多く、また「ケアが大変」と、幼稚園や保育園に入園拒否されるケースもいまだに多いのが実情です。
岩田は、大阪桐蔭高校2年の冬に発症。病気を理由に、内定していた社会人チーム入りを取り消された過去もあるのです。絶望的な気持ちになるなか出会ったのが、同じ病気を抱えながら、メジャーや巨人でも活躍したビル・ガリクソン投手の著書でした。
そこには「薬で血糖値をコントロールすれば、普通の生活ができるのはもちろん、スポーツを諦める必要はない」と書いてあったのです。
「これで負けていたら、社会で生きていけない。絶対負けない!」
関西大に進学した岩田は、毎日インスリンを打ちながら野球を続け、2005年の大学・社会人ドラフト希望枠で阪神に入団。主力投手として活躍して来ました。
「社会の理解はまだ不十分。血糖値を管理すれば日常生活に支障はないことを、プレーを通じて伝えたい」
そんな思いから、岩田は1勝を挙げるごとに10万円を1型糖尿病の研究基金に寄付。自らプロデュースしたグッズの売上げも贈呈したり、2017年には「岩田稔基金」を設立しています。いまもトークイベントなどの際、1型患者の子どもたちに「勇気をもらってます!」と声を掛けられると言う岩田。
「見守ってくれている子どもたちのためにも、まだまだ諦めたらあかん」……そんな思いを胸に、35歳のベテランは、これからもマウンドに向かいます。
「涙が出そうです」
18日に神宮球場で行われた、ヤクルト-阪神戦。ここ7試合で1勝5敗1分けと低迷気味の阪神を救ったのは、この日先発した35歳のベテラン・岩田でした。
昨シーズンは勝ち星なしと不本意な成績に終わり、限界説も囁かれるなか、まだまだできるということを示すために、今季初のマウンドに立った岩田。
「ヤクルト打線はすごい強力なので、そこで引いてしまったら負け。自分のスタイルを全面に出していった結果が、ゴロアウトが多かったっていうことですね」
27個のアウトのうち、半分以上の16個がゴロアウト。徹底的に打たせて取るピッチングで、強力ヤクルト打線を巧妙にかわして行きました。そんなベテランを、打線も援護。4番・大山が2打席連続アーチを放てば、6番・中谷も同じく2打席連発。ルーキー近本もバックスクリーン左に叩き込み、ホームラン5本を含む16安打・13得点を挙げました。
こうなればリリーフ陣の助けはもう不要と、9回まで118球を投げ、みごと完投勝利。2017年10月1日の巨人戦以来564日ぶりの白星で、完投勝ちとなると、15年6月16日の日本ハム戦以来、1,402日ぶりのことでした。
「そんな前でしたっけ?あんまり昔すぎてあんま覚えてないんで。けっこう前ですね。恥ずかしいですね」
と照れながら、大量の援護をくれた打線に感謝。
「(打線爆発は)メッチャすごかったですね。『うわぁ、うわぁ!』って何回言わすねん! みたいになってました。ホンマ、ありがとう!」
昨シーズンは、登板がわずか6試合、0勝4敗に終わった岩田。チームが最下位になったこともあり、昨年暮れの契約更改では、5,000万円から1,200万円減の、年俸3,800万円でサインを余儀なくされました。
「正直、今年で終わるかも……と思っていた部分もあった」と言う岩田ですが、2軍でも心を折ることなく、若手に交じって投げ続けられたのはなぜでしょうか? クラブハウスへの階段を上る際、岩田は記者たちに、自らこう切り出しました。
「中途半端では辞められない。1型の子どもたちが見ているんで……」
「1型」とは、「1型糖尿病」のこと。実は岩田は1型糖尿病患者で、血糖値を下げるため、毎日4、5本のインスリン注射を打っています。糖尿病というと生活習慣病のイメージがありますが、それは「2型糖尿病」。1型は運動不足や過食とは無関係に、インスリンが正常に分泌されなくなる疾患で、子どもの頃に発症するケースが多いことから、かつては「小児糖尿病」とも呼ばれました。
糖尿病患者全体のなかで、1型患者が占める割合はわずか2〜3%。しかし、不養生が原因の2型と一緒にされることも多く、また「ケアが大変」と、幼稚園や保育園に入園拒否されるケースもいまだに多いのが実情です。
岩田は、大阪桐蔭高校2年の冬に発症。病気を理由に、内定していた社会人チーム入りを取り消された過去もあるのです。絶望的な気持ちになるなか出会ったのが、同じ病気を抱えながら、メジャーや巨人でも活躍したビル・ガリクソン投手の著書でした。
そこには「薬で血糖値をコントロールすれば、普通の生活ができるのはもちろん、スポーツを諦める必要はない」と書いてあったのです。
「これで負けていたら、社会で生きていけない。絶対負けない!」
関西大に進学した岩田は、毎日インスリンを打ちながら野球を続け、2005年の大学・社会人ドラフト希望枠で阪神に入団。主力投手として活躍して来ました。
「社会の理解はまだ不十分。血糖値を管理すれば日常生活に支障はないことを、プレーを通じて伝えたい」
そんな思いから、岩田は1勝を挙げるごとに10万円を1型糖尿病の研究基金に寄付。自らプロデュースしたグッズの売上げも贈呈したり、2017年には「岩田稔基金」を設立しています。いまもトークイベントなどの際、1型患者の子どもたちに「勇気をもらってます!」と声を掛けられると言う岩田。
「見守ってくれている子どもたちのためにも、まだまだ諦めたらあかん」……そんな思いを胸に、35歳のベテランは、これからもマウンドに向かいます。