フリーアナウンサーの節丸裕一が、スポーツ現場で取材したコラムを紹介。今回は、プロ3年目となる今年、14試合で両リーグトップタイの8勝とブレイクを果たした中日・柳裕也投手を分析する。
昨季チームで唯一の2桁勝利(13勝)を挙げたガルシアが去った中日に、救世主が現れた。プロ3年目の柳裕也。ドラフト1位で入団し、即戦力として期待されながら、プロ1年目の一昨年(2017年)は1勝、2年目の去年(2018年)は2勝。ところが今年(2019年)は、ここまで14試合に先発して両リーグトップタイの8勝、わずかに2敗。防御率もセ・リーグ5位の2.86という活躍だ。
「1、2年目の情けなさが僕の原動力になっているのは間違いないです。トレーニングしていてキツイと思っても、ああいう思いはしたくないという気持ちがモチベーションになっている。それぐらい悔しい思いはしましたから」
柳はプロ入り前まで、常に世代の先頭を走って来た。小学校6年時に軟式野球の全国大会で優勝、中学校時代はシニアの日本代表として、アメリカで開かれた少年野球全米選手権大会で優勝し、最も優れた投手に贈られるサイ・ヤング賞を受賞した。「いや、それはなんちゃってですよ」と本人は謙遜するが、その後は横浜高校に進んで、春2回、夏1回、甲子園に出場。明治大学では1年春から登板し、2年秋からは主力になり、3年からは大学日本代表に入り、4年時の日米大学野球選手権大会では日本の優勝に大きく貢献。大会MVPと最優秀投手賞を受賞した。
ドラフト1位で中日とDeNAから指名され、抽選で中日。プロに入れば1年目から1軍でバリバリ活躍するイメージを持ち、「新人王も獲りたいと思ったし、自分自身への期待もありました」と振り返る。
しかし、プロ入りしてからの2年間は怪我との闘いだった。1年目に右ひじを痛め、その後背中。去年も同じ背中を痛めた。
「同世代の活躍はテレビで見ていました。ピッチャーだけじゃなく、野手も。みんなが活躍しているのに、自分は満足に投げることもできていない。本当に悔しかった」
「こんなもんで終わるわけにはいかない」という強い気持ちと、怪我の再発への恐怖。苦しい日々が続いたが、今年は開幕からローテーションを守り続け、6月末までの14先発はリーグ最多タイだ。
「今年は、オフに吉見さんと一緒にトレーニングさせていただいたんですけど、そこでしっかり準備ができてキャンプ、シーズンを迎えられたことが大きいとは思います。体幹を中心にバランス重視のトレーニングで、僕には合っていたんじゃないかと」
周囲からは「成長した」「良くなった」と評されることもあるが、本人の感覚は全く違う。
「自分がいままでよりレベルアップしたわけではない。ようやく自分のボールが投げられるようになって来ただけですね」
これは強がりではなく、冷静に自分を見つめてもいる。
「たしかに勝ち星はついて来ているんですけど、勝った試合がすべて良かったわけじゃないし、今年は絶好調、というわけでもない。実際、相手を圧倒しているというより、何とか粘っているという試合がほとんど。もちろん、粘ることは大切ですけど、まだまだ全てにおいてレベルアップして行かなければ、と思っています」
今年のキャンプでは伊東ヘッドコーチから多用するように助言を受けた高めの速球は「空振りが取れたり、打ち取ったりできている」と手応えを感じている。そして、学生時代から柳の代名詞とも言える武器だったカーブも伊東ヘッド、阿波野コーチらからどんどん使うように言われた。
「ゆるいボールを使うのは勇気がいるんですけど、段々使えるようになって来ましたね。真っ直ぐとカットボールだけだと苦しくなって来る。チェンジアップがいいときは効果的なボールになるけど、よくない日もあるので、カーブで緩急を効かせるのは有効だと思います」
アメリカではいまや常識となったフライボール革命は日本球界にも確実に浸透しつつあり、低めのボールを振り上げるような打者が増えて来た。こうした打撃に対しては、高めの速球と緩いカーブが効果的であることはメジャーリーグで証明済み。柳はいまの野球に最もマッチするピッチングスタイルの1人と言えるかもしれない。
常々「長いイニングを投げられるようにしたい」と話す柳だが、ここへ来て投球回は一気に伸び、投球内容も圧倒的になりつつある。自身の5連勝がスタートした5月25日以降の6先発の防御率は1.71。6月にかぎれば、防御率0.87、WHIPは0.90だった。
6月30日の阪神戦は勝ち星こそつかなかったが、8回を4安打無四球無失点10三振無失点。「投げている感覚はいちばん良かったかもしれないです」と手応えを感じている。
最後に本人に今年の目標を数字で、と尋ねてみた。
「どうですかね。数字は大切だし、意識しているんですけど、まだ1年間フルにやったことさえないので、自分のなかで基準の数字がないんです。今年は勝ち星も防御率もイニングも全部、1つでも少しでも積み上げられるように、いい数字を残せるように、目の前の試合を1つ1つ頑張って行きたいです。シーズンが終わったら、今年の数字が自分のなかでの基準になるのかもしれないですけど」
ようやく本領を発揮しはじめた世代を代表する右腕の投球に後半戦も注目して行きたい。
昨季チームで唯一の2桁勝利(13勝)を挙げたガルシアが去った中日に、救世主が現れた。プロ3年目の柳裕也。ドラフト1位で入団し、即戦力として期待されながら、プロ1年目の一昨年(2017年)は1勝、2年目の去年(2018年)は2勝。ところが今年(2019年)は、ここまで14試合に先発して両リーグトップタイの8勝、わずかに2敗。防御率もセ・リーグ5位の2.86という活躍だ。
「1、2年目の情けなさが僕の原動力になっているのは間違いないです。トレーニングしていてキツイと思っても、ああいう思いはしたくないという気持ちがモチベーションになっている。それぐらい悔しい思いはしましたから」
柳はプロ入り前まで、常に世代の先頭を走って来た。小学校6年時に軟式野球の全国大会で優勝、中学校時代はシニアの日本代表として、アメリカで開かれた少年野球全米選手権大会で優勝し、最も優れた投手に贈られるサイ・ヤング賞を受賞した。「いや、それはなんちゃってですよ」と本人は謙遜するが、その後は横浜高校に進んで、春2回、夏1回、甲子園に出場。明治大学では1年春から登板し、2年秋からは主力になり、3年からは大学日本代表に入り、4年時の日米大学野球選手権大会では日本の優勝に大きく貢献。大会MVPと最優秀投手賞を受賞した。
ドラフト1位で中日とDeNAから指名され、抽選で中日。プロに入れば1年目から1軍でバリバリ活躍するイメージを持ち、「新人王も獲りたいと思ったし、自分自身への期待もありました」と振り返る。
しかし、プロ入りしてからの2年間は怪我との闘いだった。1年目に右ひじを痛め、その後背中。去年も同じ背中を痛めた。
「同世代の活躍はテレビで見ていました。ピッチャーだけじゃなく、野手も。みんなが活躍しているのに、自分は満足に投げることもできていない。本当に悔しかった」
「こんなもんで終わるわけにはいかない」という強い気持ちと、怪我の再発への恐怖。苦しい日々が続いたが、今年は開幕からローテーションを守り続け、6月末までの14先発はリーグ最多タイだ。
「今年は、オフに吉見さんと一緒にトレーニングさせていただいたんですけど、そこでしっかり準備ができてキャンプ、シーズンを迎えられたことが大きいとは思います。体幹を中心にバランス重視のトレーニングで、僕には合っていたんじゃないかと」
周囲からは「成長した」「良くなった」と評されることもあるが、本人の感覚は全く違う。
「自分がいままでよりレベルアップしたわけではない。ようやく自分のボールが投げられるようになって来ただけですね」
これは強がりではなく、冷静に自分を見つめてもいる。
「たしかに勝ち星はついて来ているんですけど、勝った試合がすべて良かったわけじゃないし、今年は絶好調、というわけでもない。実際、相手を圧倒しているというより、何とか粘っているという試合がほとんど。もちろん、粘ることは大切ですけど、まだまだ全てにおいてレベルアップして行かなければ、と思っています」
今年のキャンプでは伊東ヘッドコーチから多用するように助言を受けた高めの速球は「空振りが取れたり、打ち取ったりできている」と手応えを感じている。そして、学生時代から柳の代名詞とも言える武器だったカーブも伊東ヘッド、阿波野コーチらからどんどん使うように言われた。
「ゆるいボールを使うのは勇気がいるんですけど、段々使えるようになって来ましたね。真っ直ぐとカットボールだけだと苦しくなって来る。チェンジアップがいいときは効果的なボールになるけど、よくない日もあるので、カーブで緩急を効かせるのは有効だと思います」
アメリカではいまや常識となったフライボール革命は日本球界にも確実に浸透しつつあり、低めのボールを振り上げるような打者が増えて来た。こうした打撃に対しては、高めの速球と緩いカーブが効果的であることはメジャーリーグで証明済み。柳はいまの野球に最もマッチするピッチングスタイルの1人と言えるかもしれない。
常々「長いイニングを投げられるようにしたい」と話す柳だが、ここへ来て投球回は一気に伸び、投球内容も圧倒的になりつつある。自身の5連勝がスタートした5月25日以降の6先発の防御率は1.71。6月にかぎれば、防御率0.87、WHIPは0.90だった。
6月30日の阪神戦は勝ち星こそつかなかったが、8回を4安打無四球無失点10三振無失点。「投げている感覚はいちばん良かったかもしれないです」と手応えを感じている。
最後に本人に今年の目標を数字で、と尋ねてみた。
「どうですかね。数字は大切だし、意識しているんですけど、まだ1年間フルにやったことさえないので、自分のなかで基準の数字がないんです。今年は勝ち星も防御率もイニングも全部、1つでも少しでも積み上げられるように、いい数字を残せるように、目の前の試合を1つ1つ頑張って行きたいです。シーズンが終わったら、今年の数字が自分のなかでの基準になるのかもしれないですけど」
ようやく本領を発揮しはじめた世代を代表する右腕の投球に後半戦も注目して行きたい。