1安打勝利の立役者
まさに極上の投手戦だった。
16日に京セラドーム大阪で行われたオリックス-楽天の17回戦。オリックスは初回に吉田正尚が放った犠飛による1点を守り抜いての“スミ1”勝利。それどころか、安打も先頭の福田周平が記録した内野安打のみ。「初回・先頭打者の1安打のみでの勝利」が史上5度目というのは驚きだったが、「初回・先頭打者の“内野安打”のみでの勝利」は史上初の珍記録だという。
主役は両先発。楽天の則本昂大は7回まで投げて被安打1、無四球・9奪三振の快投。吉田の犠飛から一人の走者も許さず、20人連続でアウトを奪った。
一方、オリックスの先発・山岡泰輔は8回まで投げて被安打4、四球がひとつ、10奪三振で無失点という内容。特に初回から3回までは3イニング続けて先頭打者に安打を許したが、粘りの投球で本塁は踏ませなかった。
「相手投手がいいピッチャーですし、なんとか負けないように投げました」と山岡。則本の好投にも乗せられるかたちでゼロを並べ、これで7月8日の楽天戦から15イニング連続で無失点を継続。2連勝で今季の勝ち星も7勝まで伸ばし、過去2シーズン届かなかった2ケタ勝利というところも近づいてきた。
威力を増した宝刀「スライダー」
瀬戸内高から社会人・東京ガスを経て、2016年のドラフト1位でオリックスに入団した山岡。高校時代から大きな注目を集めていた右腕で、入団当初から即戦力として大きな期待を受けていたものの、1年目は8勝11敗、2年目は7勝12敗と2年続けての負け越し。なかなか勝ち運に恵まれない不運な部分もあったとはいえ、期待も大きかった分、やや物足りない成績に終わっていた。
それが、今季は前半戦だけで6勝2敗と4つの貯金。オールスターからの中2日での登板となった後半戦初登板も白星で飾り、これで7勝2敗。ハーラートップで並ぶ千賀滉大(ソフトバンク)・有原航平(日本ハム)まで2勝差と迫っており、最多勝争いも射程圏に。自身の通算成績も22勝25敗とし、個人の“借金完済”も目前となっている。
3年目の飛躍。その要因を数字から紐解いてみると、大きく改善されているのが「被打率」と「与四球率」だ。
▼ 「被打率」と「与四球率」・3シーズンの比較
2017年:被打率.247/与四球率3.38
2018年:被打率.247/与四球率3.39
2019年:被打率.204/与四球率2.52
単純に安打を打たれる確率が下がり、与える四球の数も減らすことができているということは、それだけ安定した投球ができている証拠。防御率も過去2年は3点台後半だったのが、今季は16日の快投もあって3.01まで良化した。
さらにもう一歩踏み込むと、今季は伝家の宝刀・スライダーが例年以上に猛威をふるっていることが分かる。今度は「スライダー」の被打率を過去3年で比較してみよう。
▼ 「スライダーの被打率」・3シーズンの比較
2017年:被打率.247(186-46) 被本4 与四死15 奪三振71
2018年:被打率.213(141-30) 被本3 与四死17 奪三振49
2019年:被打率.153(131-20) 被本1 与四死13 奪三振42
山岡の最大の武器と言えば、縦に大きく変化するスライダー。この劇的な数字の変化の裏には、もちろんスライダーそのものの質の向上ということも考えられるが、今季特に目につくのがカットボールとのコンビネーションで打者を翻弄するシーンだ。16日の試合でも、『パ・リーグ.com / パーソル パ・リーグTV』の公式Twitterで特集動画が作られているほど、小さな変化と大きな変化の絶妙な使い分けが好結果につながっている。
加えて、割合は多くないものの、今季からフォークも投じるようになり、「同じ縦系の変化球がある」という意識を相手に植え付けている点も、山岡のスライダーにより脅威にもたらす要素となっているのではないだろうか。
山岡の背中を押す新女房
自身初の2ケタ勝利、さらには初のタイトル争いへ――。後半戦の活躍に期待がふくらむ山岡を、さらに後押ししてくれそうなのが“新たな伴侶”の存在だ。
7月2日に公示されたトレードでオリックスに加入した捕手の松井雅人。電撃トレードは当初こそスティーブン・モヤの方に大きなスポットが当たっていたものの、松井も加入直後の7月3日から一軍に昇格。ここまで5試合の出場とレギュラー奪取までには至っていないものの、山岡とは2試合コンビを組んで2連勝。相手に1点も与えていない。
初コンビを組んだ7月8日、山岡は試合後に「初めて松井雅さんとバッテリーを組んで、いいリードをしてもらったので、いいピッチングが出来ました」と松井のリードを絶賛。西村徳文監督も「山岡はすばらしいピッチングをしてくれた。松井雅もうまくリードしてくれたね」とバッテリーを称え、ここで次回のチャンスも手にする。
そして、迎えた16日の試合は上述の通り。再び山岡を見事に導いて“スミ1”勝利を演出。試合後、山岡はこの日も「序盤はランナーを出して球数も多くなってしまいましたが、雅さんがしっかりとリードしてくれたので抑えることができました」と女房役への感謝を述べ、指揮官も同じように「よく0でしのいでくれました。松井雅は前回もそうですが、今日も山岡のいいところを引き出してくれました。好リードですよね」とバッテリーの活躍を賞賛した。
期待され続けた大器は磨かれた武器と新たな伴侶を力に、エースへの階段を登っていくことができるか。勢いに乗るオリの23歳右腕から目が離せない。
文=尾崎直也