どちらが勝っても初優勝!決勝戦は14時開始
8月6日(火)に開幕した「第101回全国高等学校野球選手権大会」も、いよいよ22日(木)に行われる決勝戦を残すのみとなった。
3730校の頂点を争う2チームは、石川代表・星稜と大阪代表・履正社――。どちらも高校野球界では強豪として知られるチームではあるのだが、実は甲子園の優勝経験はなし。さらに、星稜には夏の甲子園・100回の歴史のなかで一度も達成されなかった“北陸勢初V”という夢もかかっている。
目の前で見た悪夢を振り払うために…
県内の公式戦は無敗という“一強”ムードもあってか、目の前の相手はもちろんのこと様々な重圧との戦いにも苦しめられ、準々決勝の遊学館戦(2-1)や、延長にもつれた準決勝の鵬学園戦(8-6)など、薄氷の勝利の連続。決勝の小松大谷戦も最終スコアは6-2だが、8回終了時点では2-2の同点。9回表、二死満塁で東海林航介が放った値千金の満塁弾がなければ、どうなっていたかは分からない。
それでも、我々が想像する以上の困難を跳ねのけた選手たちは大きく、たくましく成長した。聖地では初戦の旭川大戦こそ1-0とスコア上は辛勝も、エース・奥川は9回をわずか94球で投げ抜いて3安打完封。圧巻の投球を見せつけると、続く立命館宇治戦では打線がようやくお目覚め。14安打・6得点で快勝する。
迎えた3回戦・智弁和歌山戦はタイブレークまでもつれたまさに死闘。エース・奥川が強打の相手に対して14イニングを投げて3安打・1失点。計23の三振を奪う快投を見せると、14回裏に福本陽生が劇的サヨナラ3ランを放って決着。チームにとって長らく鬼門となっていた“3回戦”をついに突破した。
死闘を経てさらに強くなったチームは、次戦で仙台育英を相手に17得点で完勝。前日に165球を投げたエースを休ませることに成功すると、準決勝の中京学院大中京戦は休養明けのエースが逆転に次ぐ逆転で勢いに乗る相手をシャットアウト。7回10奪三振無失点の投球でチームを勝利に導き、決勝戦への扉が開いた。
大会前から大きな注目を集めた奥川だが、過酷な夏の大会で前評判に違わぬ、いや、それ以上の能力を発揮。ここまで32回1/3を投げて45の奪三振を奪い、失点はわずかに1点だけ。自責は0で、防御率0.00のまま決勝戦を迎えることになった。
そんな完全無欠のエースにも、悔しい想い出はある。夏の甲子園といえば、昨年は2回戦・済美戦で先発。4回を1失点に抑える好投も、自身が降板した後にチームは6点のリードをひっくり返され、9回になんとか追いついて延長に持ち込んだものの、タイブレークで2点を勝ち越した直後に悪夢の逆転サヨナラ満塁弾を被弾。あまりにも残酷な幕切れを目の当たりにし、奥川も人目をはばからずに涙を流した。
先輩たちの想いも胸に、いざ悲願の初優勝へ。奥川は北陸に歓喜をもたらす使者となるか。
ドラマのような展開!笑顔で締めくくることができるか…
一方、履正社は3年ぶり4回目の夏。昨年の春夏甲子園覇者・大阪桐蔭を筆頭に強豪ひしめく大阪の代表として、決勝戦まで登り詰めた。
春は2度の準優勝を誇る強豪校だが、彼らもまた順風満帆に歩みを進めてきたわけではない。昨年の夏、北大阪大会・準決勝では大阪桐蔭をあと一歩、あとアウトひとつというところまで追い詰めながらもまさかの逆転負け。その大阪桐蔭は勢いのまま100回目の選手権を制し、春夏連覇という偉業を達成する。
あと1アウト、1球の怖さを知ったチームは秋の府予選で宿敵・大阪桐蔭を破って5年ぶりの優勝を果たすと、春のセンバツへの切符もゲット。悔しさをバネに強くなった姿を見せたいところだったが、新たな敵が立ちはだかった。星稜・奥川恭伸である。
いきなり1回戦で顔を合わせた両者。強打の履正社と大会屈指の好投手・奥川の対戦には大きな注目が集まったが、結果は奥川の圧勝。履正社打線はわずか3安打に封じられ、17の三振を喫して0-3の完封負け。新たな屈辱を味わった。
試合後、「良い経験をさせてもらった」と語ったのは履正社を率いる岡田龍生監督。悔しさをバネにまた強くなったチームは、春のリベンジと「打倒・奥川」を胸に激戦区の夏をしっかりと勝ち抜き、決勝戦では大阪桐蔭を破って勝ち上がった金光大阪に7-2で快勝。聖地への切符を掴む。
甲子園でも、初戦で霞ケ浦の鈴木寛人、2回戦では津田学園の前佑囲斗とプロ注目の投手を次々に撃破。進化した強力打線は5戦連続の2ケタ安打をマークして、夏は初となる決勝進出を果たした。そして、初めての優勝を目指す決勝戦で、宿敵・奥川との再会を果たすというドラマのような展開…。“最終回”をハッピーエンドで締めくくることができるのか、大きな注目が集まる。
宿敵攻略へ、カギを握るのが絶好調の1番バッター・桃谷惟吹だ。今大会は初戦の霞ケ浦戦・初回先頭の第1打席でいきなり先頭打者本塁打を放つと、ここまで全5試合に1番でスタメン出場して打率.391をマーク。なんとすべての試合で第1打席に安打を放っており、文字通り“リードオフマン”として打線を牽引している。
フルスイングが魅力の選手で、第1打席の安打も「右本」「左二」「中安」「右二」「中三」と実にバラエティに富んだラインナップ。これまで通りに桃谷が先頭で奥川相手にいきなり快音を響かせることができれば、後続の打者に大きな勇気を与えることだろう。
実は2011年以降、夏の甲子園を制しているのは『関東』か『大阪』のチームだけ。今年もこの傾向は続くのか、“令和初代王座”の行方から目が離せない。
文=尾崎直也