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敗軍の将から見た原・巨人のV

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5年ぶり37度目のセ・リーグ優勝を決め、坂本勇(左)と抱き合う巨人・原監督=横浜

白球つれづれ2019~第38回・原・巨人の凄み


 巨人が5年ぶりのリーグ制覇を果たした。指揮官・原辰徳は流した涙を「還暦過ぎると涙腺が弱くなる」とインタビューに答えた。それも確かだが、左翼スタンドに陣取るファンの前に歩を進める時、阿部慎之助と肩を組みながらポツリと漏らした一言の方がより真実に近かったはずだ。

「久しぶりでうれしいな」

 球団史上ワーストタイの4年連続V逸を受けての再々登板。名門球団の再建を託された全権監督の前には茨の道が待ち受けていた。大黒柱・菅野智之の度重なる腰痛離脱。新外国人R・クックやC・ビヤヌエバらの不振。核弾頭と期待した吉川尚輝の故障。さらに抑え投手の不在など、計算通りにいかない戦力をやりくりしての勝利は、想像以上に苦しい戦いを凌いだもの。だから、涙があふれ出た。

 チームにとって138試合目にたどり着いた栄光のゴール。勝者がいれば敗者もいる。残り5球団の監督たちは、今季の原巨人をどう分析したのだろう? 以下は敗軍の将が語った言葉を要約した。

▼ DeNA:A・ラミレス
「その日その日を勝ちに行く気持ちが強いチーム」

▼ 広島:緒方孝市
「主力がチームを引っ張っていく中で、若い力と新しい力が出てくるのを感じた」

▼ 中日:与田 剛
「二死からでも長打、単打を絡めて得点が出来る。代打陣も強力」

▼ 阪神:矢野燿大
「丸が加わったことで坂本との相乗効果が大きかった。原監督の経験値も大きい」

▼ ヤクルト:小川淳司
「育成から支配下登録された選手が活躍したり、指揮をとった原監督の采配を含め総合的な強さがあった」


豪胆無比な指揮官


 彼らの言葉から原・巨人の勝因を読み取ると、常勝軍団のスピリット、若手の台頭、丸の加入効果、原采配の巧みさ、などが浮かび上がって来る。

 優勝した9月21日のDeNA戦(横浜)の戦いには、今季の原・巨人の苦悩と強さが、ある意味、集約されていた。勝負を決めにいく2位との直接対決でプロ初登板初先発に起用したのが、高卒ルーキーの戸郷翔征。まず原の大胆用兵に驚かされる。

 その戸郷が5回途中まで2失点に抑えると、ここから6投手をつぎ込んでの総力戦。9回に同点打の小林誠司は指揮官に最も叱咤された男なら、延長10回の決勝打は育成から這い上がった増田大輝が放った。坂本勇人や丸佳浩が打って山口俊や菅野が活躍する横綱相撲もあれば、無名に近い戦士をグラウンドに送り出して、白星をもぎ取るのも指揮官の醍醐味だ。

 優勝決定時までに興味深い数字がある。今季起用した投手は32人で、延べにすると629人。第一次原政権1年目の2002年は25投手の起用で延べ459人だから、いかにつないで、凌いだかがわかる。

 同じく打線の組替えを見ると110通り、これも昨年から比べると25通りも多い。さらに支配下登録の68選手中実に60選手が一軍を経験している。


 かつてのV9巨人や西武の黄金期には完投能力のある先発陣が確立されて、打線もほぼ固定されていた。それから見ると今の巨人は未完成のチームであり発展途上である。そんなチームだからこそ「実力至上主義」を掲げて一・二軍全選手を使い切る原の采配と用兵がひと際、光る。

 「決断が速くて、その決断通りに試合を動かせるのが凄い」。原野球をこのように表現する選手は多い。懐の深さ、引き出しの多さに腹のくくり方。そして勝負への執着。名将は、また新たなスタイルを手にしてクライマックスシリーズから日本シリーズを見据えている。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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