ブレイク前夜
「体力的にはきつかったですけど、個人的にはすごく楽しかったと思います」。
ロッテの種市篤暉がプロ3年目の今季、プロ初勝利を含むチームトップの8勝を挙げ飛躍を遂げた。
プロ2年目の昨季はシーズン後半にプロ初登板を果たすと、7試合に一軍登板したが、プロ初勝利を挙げることができなかった。1年目のオフはウエートトレーニングやランニングなどを中心に行ったが、2年目のオフは「体作りは3年間、ちゃんとやろうと思ってやっていたので今年も継続していくことと、今年は鴻江さんから教わったことを1年間やろうと思っています」とソフトバンク・千賀滉大らが行っている自主トレに参加し、体の使い方など様々なことを学んだ。
「(オーストラリアの)ウィンターリーグのときはあまりよくなかったですし、投げていて調子が良い、悪いだけだったので、直す技術もなかった。ここが悪いからこうなるということも分からなかったので、そこはキャッチボール、ブルペンから良くなかったときの感覚のときに直せる動きを覚えてきたと思っています」。
種市の昨年との違いにイチ早く気が付いたのが、今季“柿の種バッテリー”で話題を呼んだ柿沼友哉だ。1月26日にロッテ浦和球場で行った自主トレで、ブルペンに入った種市の球を受けた柿沼は「種市も千賀さんと(自主トレを)やってきて、ブルペンで色んな事を意識して投げているのを感じましたね。クイックが速くなっていたり、ボールの強さもそうですけど、レベルアップしているように感じました。(制球も)まとまっていますよ。すごくよかった。もともと動くようなストレートの感じのピッチャーだったんですけど、あまり動かずに強さがさらに増しているように感じましたね。結構楽しみです」と太鼓判を押した。
種市は「昨年は7試合も投げさせてもらって、不甲斐ないピッチングしかしていない。そこはずっと思い出しながらオフも過ごしていた。ローテーションを入るのは目標ですけど、石川さん、涌井さんを超えられるようにやっていきたいなと思います」と宣言し、春季キャンプに突入した。
勝負の春季キャンプ
2月1日、勝負の春季キャンプがスタート。今年のロッテは春季キャンプ初日に紅白戦が実施され、種市もマウンドにあがった。しかし、0回2/3を投げて2安打、2四死球、1失点。
「紅白戦はあまりよくなかったですけど、ビデオを見て悪いところもありましたし、試合になってくるとアップアップしちゃう。技術的なところを考えられなくなっていたので、冷静になって今の球はこういう形だったからというのを、この前の紅白戦でできなかったと思います」と冷静に振り返った。
またこの時期、カットボールの挑戦の記事が多く出ていた。「記事では出ていましたけど、自分の中では今は使えないと思っています。練習して使えないと思ったら使わないですし、千賀さんに教えてもらったというのはありますが、自分が投げたいという部分が大きかったので練習していたというだけです。ストレートが消えそうになっているので、ブルペンでも使えるレベルではないと今の段階では思っています」と春季キャンプではこのように話していたが、結局ストレートが消える可能性があるためシーズン中は投げなかった。
開幕一軍へアピール
約2週間の春季キャンプが終わり、一軍生き残りをかけたサバイバルレースが本格的に始まった。種市は2月23日に行われた西武との練習試合では、3回を2安打無失点に抑え、金子侑司への2球目には150キロを計測。
「あの日はボール自体バラバラでしたけど、指にかかったボールが多くて押し込めていたと思うので、そこは良かったんじゃないかなと思います」。
種市は結果を残し続けた。3月2日の中日とのオープン戦では、3回をパーフェクト。3月13日時点で、一軍の練習試合、オープン戦で8回を無失点に抑えた。
先発ローテーションの争いが熾烈のなかで「ライバルがいますし、みんな結果を残しているので、右が多い中で、そこは結果を残さないと入れないと思いますし、強烈なピッチングをしたいと思います」と話した。
3月15日のラミゴ戦でリリーフ登板すると、この日からリリーフでの調整となった。17日のDeNA戦で1回を2失点だったが、21日の阪神戦では「バランスも良かったですね。あの時の映像を前からも後ろからも見ていましたけど、すごい良かったんじゃないかなと思います」と、先頭の大山悠輔を6球連続ストレートでライトフライ、続く福留孝介はストレートで追い込み、最後はフォークで空振り三振、ナバーロはフォークで空振り三振に仕留め、1回を2奪三振無失点に抑えた。
「オープン戦から手応えがありましたし、打者の反応も自分のなかでは手応えがあった。キャンプの時点で今年はわくわくしている状態だった。シーズンに入ってからも、オープン戦のようなピッチングができればなと思います。一軍にいれる事が大事なので全力で頑張りたいと思います」。プロ3年目で初めて、開幕一軍の切符を掴んだ。
キャッチボールで掴んだ有吉さんスライダー
開幕一軍を掴んだ種市は、開幕直後に任されたポジションはロングリリーフだった。
「いつ投げるかわからないですけど、心の準備を毎日しています。常にブルペンにいったら緊張感をもってやっている。マウンドでは相手打線をとめるというよりは、自分のボールを全力で投げる事しか考えていないです」。
4月5日のソフトバンク戦では、4回から先発・岩下大輝の後を受けてマウンドにあがり「(相手先発が)千賀さんだったのでちょっと力が入っちゃったというのもありますし、バランスもそんなによくなかった。あんまりう〜んという感じです」と話しながらも自己最速タイの153キロを計測。
またこの試合で、打者・松田宣浩の初球に「有吉さんに3日前ぐらいにスライダーを教えて下さいと言って、教えてもらった。有吉さんとキャッチボールをずっとしていて、スライダーが捕りにくいなと思ったし、ストレートっぽいなと聞いて、練習する時間があんまりなかったですけど、ぶっつけ本番で投げました」とチームメイトの有吉優樹から教わったスライダーを投じた。
“有吉さんスライダー”に加え、5月くらいからはショートバウンドさせるスライダーを徐々に投げ始め、右打者から多くの空振りを奪い投球の幅を広げていった。
プロ初勝利
ロングリリーフで8試合に登板して、2ホールド、防御率0.90と結果を残していた種市に先発のチャンスが訪れる。4月29日の楽天戦で今季初先発を果たした。
この日は立ち上がりから素晴らしいストレートを投げ込んだ。特に初回一死走者なしから田中和基に投じた初球、2球目の空振りを奪ったストレートは素晴らしかった。「めちゃくちゃ感触が良かったです。あと浅村さんの3球目と、田中さんの1、2球目はできるだけ力を抜いて投げようと思って、トップをつくるまではリラックスしようと思って投げて、いい感じでボールが伸びていったと思います」と本人も納得のいったストレート。
4回以降は苦しみながらも「リードした場面だったので、これを逆転されたらダメだなと思って気合いを入れてました。連打されましたけど、そこは粘れたので、今年中継ぎで経験があったからかなと思います」と5回を2失点に抑えプロ初勝利を挙げた。
「一つの目標、通過点だと思うので、今満足してしまったら負けてしまうと思う。去年みたいになってしまう。日々成長していけるように考えてやっていこうかなと思います」。
「勝ちたいというより技術をあげたい。今のままでもまだまだ勝てないと思う。この前はリリーフ陣が頑張ってくれたおかげ、野手が打ってくれたおかげで勝てたようなもの。たった5回しか投げていないので、投げる体力も技術も考えていかないといけないなと思います」。
先発3連勝も
このプロ初勝利で先発ローテーションを掴んだ種市は、5月6日の日本ハム戦では、「1球でも1イニングでも長く投げようと思いましたし、6イニングは絶対にいきたいと思いましたけど、リリーフ陣に申し訳わけなかった」と話しながらも、5回1/3を投げ2失点で2勝目。
5月16日のオリックス戦では、「ストレートはう〜んと感じましたね」と話したように、この日の登板では「スライダーは良かったと思いますよ。空振りも取れたし、三振も取れたし」と右打者に対してスライダーの三振が多かった。6回を2失点で3勝目を挙げた。
3連勝で勢いに乗る種市だったが、5月30日の日本ハム戦では4回11安打8失点でノックアウト。日本ハム打線が種市のボールを見切っているように見えた。「癖ですね。思いっきりでていました。いい落ちのフォークでも見逃されていたのもあった。多分癖が出ていると思う。意識してやっていきます」。
交流戦でセの打者をねじ伏せる
交流戦前最後の登板は悔しい結果で終わり、交流戦に突入した。交流戦初登板となった6月6日の阪神戦を7回6安打3失点に抑えた。4回以降は、上から叩きつけるような投げ方に見えた。「そうですね。テイクバックをちょっと小さくしましたね」と明かした。
6月13日のDeNA戦は、7回1失点で4勝目。5月に悩んでいたストレートも「良かったですね。強いていうなら球が高かったので、そこはカウントを取るときは低くって思っていたんですけど、外には高くいってしまったなと。そこだけは、後悔しています」。
「前半戦までに5勝はしたい。あと2試合くらいなので、そこで2つどっちも勝てるように頑張りたいなと思います」。
前半戦で5勝の目標を掲げるも、細菌性胃腸炎で7月5日に一軍登録を抹消されたこともあり、前半戦での5勝達成はならず。それでも4勝1敗、防御率3.96の成績を終え「オープン戦から結果が出ると信じて開幕して、中継ぎで少しは結果を出せた。先発もやりたかったので、先発で勝ててよかったです」と確かな成長を感じさせる前半戦となった。
後半戦はエース級の働き
後半戦に入ってからは、エース級の働きを見せた。
7月21日○ 5回2失点(vs日本ハム)
7月28日- 5回2失点(vs楽天)
8月4日○ 7回0失点(vs楽天)
8月11日- 7回2失点(vs西武)
8月18日● 6回2失点(vsオリックス)
8月25日○ 8回2失点(vsソフトバンク)
8月4日の楽天戦で10奪三振、続く11日の西武戦が12奪三振をマークするなどこの時期、ショートバウンドをさせるスライダーが威力を誇り、奪三振の数が増えた。数字で見ても前半戦はスライダーでの奪三振が52回1/3を投げて6個、後半戦は64回1/3を投げて26個と増加。それに伴い奪三振数も前半戦の53個から後半戦は82個と大幅にアップした。
スライダーで空振りが取れるようになっているから三振が増えているのではと質問すると、種市は8月7日の取材で「自分もそう思います。前回(4日の楽天戦)はスライダーで三振1個かな。浅村さんくらいですかね。スライダーをケアしている分、いろんなボールがバッターの頭の中にあると思うので、スライダーが決め球にできることは投球の幅が広がることなのかなと思います」と手応えをつかんだ。
得点圏に走者を出してからも粘って抑えるのが印象的だった。「なんとか得点圏にランナーがいっても、ランナーを返さないという気持ちで投げています。試合を崩さないようにしたいと思います」。走者を出してからは「思いっきりギアをあげるだけです」と力の配分がうまくできるようになった。
ただ、「被打率がちょっと高いので早く追い込みたいなと思う中でボール先行してしまうのが、よくないところ」と反省することも忘れなかった。
9月に入ってからも登板した4試合全て、6イニング以上を投げ、シーズン最終登板となった9月22日の日本ハム戦は、クライマックス・シリーズ進出に向け絶対に負けが許されないなかでのマウンドも「連敗していたので、負けたら終わりだと思っていた。やることは変わらないと思って、自分のできることに集中して投げられたと思います」と8回5安打9奪三振0失点でチームに勝利をもたらした。
充実のシーズンも反省
チームはクライマックス・シリーズ進出とはならなかったものの、種市はプロ3年目の今季、チームトップの8勝、負け数もわずかに2つ。防御率3.24、奪三振の数は規定投球回に到達していないが、リーグ4位の135だ。
「抑えられてよかったし、去年は初勝利も挙げられなかった。今年は順調に勝てて課題も見つかっていいシーズンだったと思います」と自己評価しながらも、「このままだったら来年は活躍できるかはわからない。もっとレベルアップしないといけないなと思います」と危機感を募らせた。
「やっぱり体もしんどかったですし、しんどいのは技術がないからだと個人的には思っています。体がそんなに強くないからしんどいのもあると思う。どっちの面で鍛えていきたいと思います」。
それを踏まえてシーズンオフは「やりたいことをめちゃくちゃ考えています」と明かし、ウエートトレーニングを多く取り入れていく予定だという。
そんな種市は、常時150キロを投げて打者を抑えていくという目標がある。
「ストレートを軸で投げたいというのはありますし、個人的にはストレートでガンガン押していけるピッチャーになりたい。単純にかっこいいと思うので、個人的には27球のアウトより27個の三振が好き。理想なピッチャーになりたい。豪腕はかっこいいし、三振取れる人もかっこいい。そんなピッチャーになりたいです」。
理想のピッチャーを求めて、このオフも厳しいトレーニングを積み、来年はさらなる進化した姿、ワクワクした投球を見せてくれることだろう。種市篤暉は、まだまだこんなモノじゃない。数年後、必ずや球界を代表するエースに上り詰めるはずだ。将来的に今季は、その足がかりの1年だったといえるようになって欲しい。
取材・文=岩下雄太