話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、FA宣言で4球団による争奪戦が展開され、15日に「ロッテへの移籍が濃厚」と報じられた、楽天・美馬学投手にまつわるエピソードを取り上げる。
「『優勝するために力を貸してほしい』と言われました。すごい思いを感じました」(11日、ロッテとの初交渉後、美馬コメント)
プロ野球のストーブリーグも、いよいよ佳境に入って来ました。
「必要とされるチームでプレーしたい」とFA宣言した楽天の右腕・美馬。「関東の球団でプレーしたい」という本人の意向を受けて、巨人・ヤクルト・ロッテの3球団が獲得に名乗りを挙げ、宣言残留を認める楽天も含め4球団による争奪戦が展開されていましたが、15日朝、スポーツ各紙が「美馬がロッテ入団の意思を固めた」と報道。ロッテ移籍が濃厚な状況となりました。
そうなれば、今オフもFA選手獲得による補強を目指していた巨人にとっては、出鼻をくじかれた格好になります。
美馬は、茨城県出身の33歳。中央大学から東京ガスを経て、2010年、ドラフト2位で楽天入り。1年目の2011年はリリーフ投手として23試合に登板しましたが、右ヒジを痛め長期離脱。翌2012年から、当時の指揮官・星野仙一監督の提案を受け、ヒジへの負担が少ない先発に転向し、8勝を挙げました。
2013年は、シーズン終盤、また右ヒジに違和感を覚えましたが、すぐに復帰。ロッテとのクライマックスシリーズ(CS)・ファイナルステージ第3戦で「プロ初完封」を飾ると、巨人との日本シリーズでは、第3戦・第7戦に先発。いずれも無失点で2勝を挙げ、日本一に大きく貢献。シリーズMVPに輝いています。
このとき、巨人の指揮官は原辰徳監督(第2期)でしたが、地味ながらしっかり先発の役割を果たし、ここぞという場面で力を発揮した美馬は「敵ながらあっぱれ」と強くインプットされたに違いありません。
今季(2019年)の美馬は、すべて先発で25試合に登板。楽天は二枚看板の則本・岸が相次いで戦線離脱しましたが、チームで唯一、開幕からローテーションを守り8勝を挙げ、苦しい台所を支えました。
7月19日のソフトバンク戦では、強力打線を相手に8回まで1人の走者も許さないパーフェクトピッチングを披露。「令和初の完全試合」まであと3人に迫りましたが、最終回に四球とヒット2本を許し、惜しくも偉業達成はならず。しかし2年ぶりの完投勝利を達成するなど、力のあるところも見せています。
美馬の9年間の通算成績は、185試合に登板し、51勝60敗。防御率は3.82で、この数字だけを見ると「なぜそんなに人気になるの?」と思うかもしれませんが、毎年ローテの一角を担い、今季もチームトップの143回2/3を投げている安定感が大きな評価につながっています。
こういうピッチャーを「イニングイーター」と言いますが、今回、美馬獲得に乗り出した巨人・ヤクルト・ロッテは、いずれも先発陣の薄さに苦しんだだけに、イニングイーターの美馬はノドから手が出るほど欲しい人材でした。
巨人は、これまで美馬と何度も交渉を重ねており、4度目の交渉となった13日には、宮崎秋季キャンプから一時帰京中だった原監督が、宮崎へ帰る予定を1日延ばして同席。「ジャイアンツで一緒にやろう!」と、熱い思いをぶつけたばかり。
3年総額5億円超、という金額面はロッテと差はなく、過去、他球団との争奪戦にはほぼ勝って来ただけに、ロッテ移籍となれば大きな誤算です。
美馬がロッテ入団に傾いた理由は、同じパ・リーグのため、新たに対戦相手の研究をしなくて済むこともありますが、応援の熱さについても「あのなかでやってみたい、というのはありますね。(対戦していて)プレッシャーになるほどだった」とコメント。
また井口監督と美馬は、マネジメントを依頼している事務所が同じで個人的にも親しく、ロッテの和気あいあいとした雰囲気にも好印象を持っていたようです。
さらに大きな要素が、医療面のケアです。これまで右ヒジを6度も手術している美馬ですが、ロッテとの交渉後に「(自分は何度も)ケガをして来た。そのへん(故障への対応)だったり、聞かせてもらいました」と報道陣に明かしたように、医療体制の充実も判断材料にしていました。
ロッテは、来年(2020年)1月から順天堂大付属医院と、系列の浦安病院と提携。24時間体制の医療態勢を組むと発表。故障を未然に防ごうという新たな試みも、美馬に好印象を与えました。
これまでは「いちばんカネを積んだ球団が勝ち」というマネーゲームの印象があったオフのFA戦線ですが、最近はそれだけではなく、こういう環境面のケアも重要な決め手になって来ているのです。
今オフにFA宣言した6選手のうち、国内移籍を検討中なのは、美馬のほか、鈴木大地(ロッテ)と、福田秀平(ソフトバンク)の2人。年俸がCランクで人的補償も不要な福田には、残留を目指すソフトバンクも含め6球団が争奪戦を展開中ですが、内・外野こなせて何番でも打てる福田が、どういう基準でどの球団を選ぶのか、興味深いところです。
また鈴木については、美馬争奪に関わった巨人・楽天・ロッテの3すくみになっており、巨人・楽天が獲得に成功するのか、それともロッテがチームリーダー流出を阻止するのか。来季のペナントレースの行方にも大きく影響しそうで、何が決め手になるのか、こちらも注目です。
「『優勝するために力を貸してほしい』と言われました。すごい思いを感じました」(11日、ロッテとの初交渉後、美馬コメント)
プロ野球のストーブリーグも、いよいよ佳境に入って来ました。
「必要とされるチームでプレーしたい」とFA宣言した楽天の右腕・美馬。「関東の球団でプレーしたい」という本人の意向を受けて、巨人・ヤクルト・ロッテの3球団が獲得に名乗りを挙げ、宣言残留を認める楽天も含め4球団による争奪戦が展開されていましたが、15日朝、スポーツ各紙が「美馬がロッテ入団の意思を固めた」と報道。ロッテ移籍が濃厚な状況となりました。
そうなれば、今オフもFA選手獲得による補強を目指していた巨人にとっては、出鼻をくじかれた格好になります。
美馬は、茨城県出身の33歳。中央大学から東京ガスを経て、2010年、ドラフト2位で楽天入り。1年目の2011年はリリーフ投手として23試合に登板しましたが、右ヒジを痛め長期離脱。翌2012年から、当時の指揮官・星野仙一監督の提案を受け、ヒジへの負担が少ない先発に転向し、8勝を挙げました。
2013年は、シーズン終盤、また右ヒジに違和感を覚えましたが、すぐに復帰。ロッテとのクライマックスシリーズ(CS)・ファイナルステージ第3戦で「プロ初完封」を飾ると、巨人との日本シリーズでは、第3戦・第7戦に先発。いずれも無失点で2勝を挙げ、日本一に大きく貢献。シリーズMVPに輝いています。
このとき、巨人の指揮官は原辰徳監督(第2期)でしたが、地味ながらしっかり先発の役割を果たし、ここぞという場面で力を発揮した美馬は「敵ながらあっぱれ」と強くインプットされたに違いありません。
今季(2019年)の美馬は、すべて先発で25試合に登板。楽天は二枚看板の則本・岸が相次いで戦線離脱しましたが、チームで唯一、開幕からローテーションを守り8勝を挙げ、苦しい台所を支えました。
7月19日のソフトバンク戦では、強力打線を相手に8回まで1人の走者も許さないパーフェクトピッチングを披露。「令和初の完全試合」まであと3人に迫りましたが、最終回に四球とヒット2本を許し、惜しくも偉業達成はならず。しかし2年ぶりの完投勝利を達成するなど、力のあるところも見せています。
美馬の9年間の通算成績は、185試合に登板し、51勝60敗。防御率は3.82で、この数字だけを見ると「なぜそんなに人気になるの?」と思うかもしれませんが、毎年ローテの一角を担い、今季もチームトップの143回2/3を投げている安定感が大きな評価につながっています。
こういうピッチャーを「イニングイーター」と言いますが、今回、美馬獲得に乗り出した巨人・ヤクルト・ロッテは、いずれも先発陣の薄さに苦しんだだけに、イニングイーターの美馬はノドから手が出るほど欲しい人材でした。
巨人は、これまで美馬と何度も交渉を重ねており、4度目の交渉となった13日には、宮崎秋季キャンプから一時帰京中だった原監督が、宮崎へ帰る予定を1日延ばして同席。「ジャイアンツで一緒にやろう!」と、熱い思いをぶつけたばかり。
3年総額5億円超、という金額面はロッテと差はなく、過去、他球団との争奪戦にはほぼ勝って来ただけに、ロッテ移籍となれば大きな誤算です。
美馬がロッテ入団に傾いた理由は、同じパ・リーグのため、新たに対戦相手の研究をしなくて済むこともありますが、応援の熱さについても「あのなかでやってみたい、というのはありますね。(対戦していて)プレッシャーになるほどだった」とコメント。
また井口監督と美馬は、マネジメントを依頼している事務所が同じで個人的にも親しく、ロッテの和気あいあいとした雰囲気にも好印象を持っていたようです。
さらに大きな要素が、医療面のケアです。これまで右ヒジを6度も手術している美馬ですが、ロッテとの交渉後に「(自分は何度も)ケガをして来た。そのへん(故障への対応)だったり、聞かせてもらいました」と報道陣に明かしたように、医療体制の充実も判断材料にしていました。
ロッテは、来年(2020年)1月から順天堂大付属医院と、系列の浦安病院と提携。24時間体制の医療態勢を組むと発表。故障を未然に防ごうという新たな試みも、美馬に好印象を与えました。
これまでは「いちばんカネを積んだ球団が勝ち」というマネーゲームの印象があったオフのFA戦線ですが、最近はそれだけではなく、こういう環境面のケアも重要な決め手になって来ているのです。
今オフにFA宣言した6選手のうち、国内移籍を検討中なのは、美馬のほか、鈴木大地(ロッテ)と、福田秀平(ソフトバンク)の2人。年俸がCランクで人的補償も不要な福田には、残留を目指すソフトバンクも含め6球団が争奪戦を展開中ですが、内・外野こなせて何番でも打てる福田が、どういう基準でどの球団を選ぶのか、興味深いところです。
また鈴木については、美馬争奪に関わった巨人・楽天・ロッテの3すくみになっており、巨人・楽天が獲得に成功するのか、それともロッテがチームリーダー流出を阻止するのか。来季のペナントレースの行方にも大きく影響しそうで、何が決め手になるのか、こちらも注目です。