◆ 「ドンピシャ」自画自賛の采配
西武の辻発彦監督は25日、都内で行われたメットライフ生命主催のトークショーに参加。リーグ連覇を報告した。
この1年の声援に感謝を述べつつ、「今年は中心選手が抜けてどうなるか…という不安のなかで始まりましたが、8月に入ってからの選手たちの爆発的な力にも支えられて、得俵いっぱいまで押し込まれながらも“うっちゃり”を決めたという形」と、シーズンを振り返った指揮官。「とにかく選手たちが素晴らしかった。本当に感謝しかない」と、土壇場で底力を見せた愛弟子たちの奮闘を称える。
ポイントになったのが、もっとも苦しいはずであろう夏場の快進撃。なかでも強調したのが、トークショーにも同席した中村剛也を4番に据えるという決断だった。
「6月・7月と4番を打っていた山川(穂高)の調子がどうも上がらなくて。いつどうしようかと思っていたら、あいつオールスターでホームラン打ったんですよね(笑)それをキッカケにちょっと上がってくるかな、と思ったら上がってこなくて。そこはもう苦渋の選択でした」
そんななか、チームを支えていたのが、かつての不動の4番である中村。6月は月間打率.333に5本塁打という活躍を見せると、7月も打率.286で7本塁打。通算400号アーチを劇的サヨナラ弾で飾るなど、不振の山川とは対照的に勢いに乗っていた。
「打撃コーチとも話はしていたんですが、やっぱり中村の調子が良かったというのは大きかった。そこで、山川の凡打の後の姿とかを見ていて、気持ちが出てきていないなと。ここはベテランに頼るしかないか、と。あのタイミングが当たりましたね、今年は。ドンピシャでしたよね(笑)」
指揮官は決断に至った経緯を振り返りながら、ターニングポイントになった采配を自画自賛する。
◆ 中村は「嫌」だった
8月11日(日)のロッテ戦。中村剛也は今季初めて4番に入った。
この決断に関して、辻監督は中村に声をかけたりすることはしなかったという。中村がこのことを知るのは、グラウンドに出る前、ダグアウトのホワイトボードをチラっと見た時。この時のことを振り返った中村は、率直に「えぇ~…」と思ったと明かす。
「正直いうと、雰囲気的に、山川がああいう感じだったので、そろそろ来るか…みたいな(ものは感じていた)。状態も良かったですし、コーチからも『あるかもよ』的な感じはあった」
なんとなく感じ取る空気はあったというが、それが好調キープに繋がったのかと言うと、そうではないらしい。むしろ、そんな空気を察する度に、中村はコーチに「嫌です」と言っていたのだという。
「別に(打順は)どこでも良かったんですけど。あの時はなんか…山川の復調を願っていましたし、山川が4番を打つべきだと思っていて。コーチには『本当に嫌です』と言っていたんですけど、ボードを見た時に、『ああ、きたか…』って」
思いもよらぬ胸中を明かした獅子の主砲だったが、打順の変更も調子に与える影響はなく、以降はどっしりと4番に固定。今季の『4番』時の成績は打率.304(148-45)、10本塁打、42打点というすさまじいもの。チームも8月11日以降は40試合で28勝12敗、勝率にして.700という驚異的なハイペースで勝ち進み、大逆転でリーグ連覇を達成した。
指揮官もターニングポイントに挙げたように、勝負どころでの“4番交代”という決断。そして、その“4番・中村”の活躍なくして、今季の優勝はなかったと言っても過言ではない。
◆ 激闘を終えた10月、指揮官が倒れた!?
苦しいなかで勝ち取ったV2。今季は追いかける時間が長かった分、あまり重圧は感じずに戦っていたというが、やはりソフトバンクと入れ替わったあたりからのプレッシャーは段違いだったと辻監督は振り返る。
「やっぱり、9月24日のロッテ戦ですよね。優勝決定の。ソフトバンクは全部勝つだろうと思っていて、我々は負けたら優勝はないと思って戦ってきた。この日はもう前の晩から眠れない。笑ってはいましたけど、本当にきつかったですよ。精神的に(笑)」
この日も笑顔を浮かべながらの振り返りにはなったが、極限状態での優勝争いはまさに生きた心地がしない中での戦い。それだけに、「2回?一気に5点入ったときは本当に嬉しかった…」と、投手のように打線の援護を喜びながら、「やっぱり一番印象に残っている試合ですね」とした。
残念ながら今年もクライマックスシリーズで宿敵・ソフトバンクに敗れ、悲願の日本一への挑戦権は今年も手にできなかった。極限の優勝争いが終わっても気が休まる瞬間がないまま、悔しい形で幕を閉じた辻西武の3年目。そんな激闘の代償なのか、10月には予期せぬ事態に襲われていたことも明かす。
「実はドラフトの前の夜に倒れたんですよ。貧血で。人生で初めてでしたね。ドラフト前日に救急車ですよ?まぁ救急車が来た時にはもう歩いていたんですけど(笑)」
幸いにも大事には至らず、病院で点滴治療を受けた後、すぐに歩いてホテルまで戻ったと言うが、突然のカミングアウトには会場も驚きを隠せない。
「1年間の疲れがどっと出たのかな…」。そんなエピソードからも、今季がいかに苦しい戦いだったのかが垣間見えた。
気が付けば、もう11月も終盤。あっという間に新年が近づいて来ており、2月になればもう春季キャンプが幕を開ける。オフは長いようで短い。迫りくる2020年シーズンはリーグ3連覇はもちろん、悲願の日本一が大目標になる。
「僕も3年目でしたが、メットライフドームも3年目。同じなんです。連覇はしましたが、去年は札幌で、今年は千葉…。徐々に近づいてきましたね。来年こそはメットライフドームで胴上げがしたいと思っています。応援よろしくお願いします」
群雄割拠のパ・リーグで、就任以来2位・1位・1位と順調な歩みを進めてきた辻西武。リーグ3連覇、そして悲願の日本一を成し遂げ、自身の現役時代に負けない黄金時代を築き上げることはできるだろうか。
文=尾崎直也