ワールド・シリーズ第7戦~試合後の会見では、目を赤くしながらも気丈に質問に答えたドジャース・ダルビッシュ有=2017年11月1日、ドジャー・スタジアム 写真提供:産経新聞社

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、現役3監督が解任される事態に発展した、米メジャーリーグの「サイン盗み騒動」と、その“被害者”の1人・ダルビッシュ有投手にまつわるエピソードを取り上げる。

今オフ、MLB(メジャーリーグ)を揺るがせたアストロズの「サイン盗み疑惑」。アストロズは2017年、球団初のワールドシリーズ制覇を成し遂げましたが、当時アストロズに所属していたマイク・ファイアーズ投手らが、この年と翌2018年の一時期に、チームぐるみで相手のサイン盗みをやっていたと“告発”。

その手法というのは、本拠地ミニッツ・メイド・パークの外野に設置したカメラで相手捕手のサインを盗み見て、音で打者に球種を伝えていた、というものです。映像解析によるサイン盗みはMLBが禁じている行為で、この証言はファンに大きな衝撃を与えました。

MLBはさっそく調査に乗り出し、13日(日本時間14日)、コミッショナーのロブ・マンフレッド氏は「そういう事実があった」と“クロ認定”。関係者の処分を発表しました。

アストロズのジェフ・ルーノーGMとAJ・ヒンチ監督には、1年間報酬なしの停職。アストロズには2020年・2021年のドラフト1巡目と2巡目の指名権剥奪と、罰金500万ドル(約5億4700万円)の厳しい処分が課せられました。特に2年間ドラフト上位指名権を奪われることは、チーム編成上、非常に大きな痛手となります。

これを受け、アストロズはルーノーGMとヒンチ監督の解任を発表しましたが、騒動はこれだけで止まりません。翌14日(日本時間15日)、レッドソックスはアレックス・コーラ監督を解任しました。

コーラ監督は2017年、アストロズのベンチコーチを務めており、今回のサイン盗みの首謀者とも言われています。2018年からレッドソックスの監督に就任。1年目にしてワールドシリーズを制し、名将だと評判になっていましたが、レッドソックスでも映像を使ったサイン盗みを行っていたのでは? という疑惑が浮上。評価は一変しました。

コーラ監督の名前はMLBの調査報告書にも上がっており、本人はもちろん、レッドソックスにもMLBから処分が下るのは必至と見られていて、チームが先手を打って処分した形になります。

さらに16日(日本時間17日)、今度はメッツが「選手時代にサイン盗みに関わっていた」として、元アストロズのカルロス・ベルトラン監督を電撃解任。ベルトラン監督は、昨年(2019年)11月に就任したばかりで、新監督が1試合も指揮を執ることなくチームを去るという異例の事態になりました。

現役3監督が解任されることになったサイン盗み騒動。ここであらためて注目されたのが、2017年、ドジャース時代にアストロズとワールドシリーズで対戦した、ダルビッシュ有(現カブス)です。

ダルビッシュは、このワールドシリーズで第3戦と第7戦に登板。いずれも打ち込まれ、王座を逃す一因になったため、ドジャースファンから“Yu Garbage”(ユウはゴミ)とまで罵倒されました。しかし、相手にサインを盗まれていたことが明らかになると、この2度のKOも見方が変わって来ます。SNSでは、ドジャースファンから「ダルビッシュに謝ろう」という声も出ており、「申し訳なかった」という書き込みがあふれる事態に。

今回、「もしかすると、アストロズのワールドシリーズ制覇自体が通り消されるのではないか?」という噂もありましたが、この件に関してダルビッシュも英語でツイッターを更新。

「If the Dodgers are planning a 2017 World Series parade, I would love to join! So if that is in the works, can someone make a Yu Garbage Jersey for me?」

(ドジャースが2017年ワールドシリーズのパレードをやるなら、喜んで参加したい! もし実現したら、誰か「Yu Garbage」というネーム入りのユニフォームを作ってくれない?)

とユーモアと皮肉を込めてツイート。さっそく、背中に「Yu Garbage」と書かれたドジャースのユニフォーム画像をアップしたファンに、「I like it.」(いいね)と返しました。

またダルビッシュは、自らのYouTubeチャンネルで、このサイン盗み騒動について触れ、自分の考えを語りました。

「二塁ランナーが捕手のサインを覗き見て、打者に伝えることは多々あるし、その延長という感じで、アストロズも罪悪感なくやっていたと思う。だが、テクノロジーを使い始めると話が変わって来る。いくら配球を考えても、打者が先に球種を知っていたら、投手としては厳しい。そうなると駆け引きが成立しないし、野球じゃなくなる」

また、3年前のワールドシリーズの件にも触れ、「アストロズが何をやっていようが、抑えたピッチャーはいる。ワールドシリーズの結果は変えたくないし、ファンにいろいろ言われたことも含めて、それを乗り越えたことが自分の財産になっているので、謝罪とかは要らない」

これに対して、ファンからますます賞賛の声も上がっていますが、そもそも野球の魅力は、生身の人間同士が、鍛え上げた技を戦わせるところにあります。

「何でも最先端、というのがアメリカの野球のよくないところ。日本の野球は、そういう方向にテクノロジーを使ってほしくない」と語ったダルビッシュ。アスリートとして警鐘を鳴らす意見に、あらためて耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

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ベースボールキング編集部

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