◆ 注目のゴールデンルーキーが始動
ついに始まったプロ野球の春季キャンプ。夏場に東京五輪の開催を控える影響から、例年よりも少し早い3月20日に開幕を迎える2020年シーズンだけに、当然その準備期間となるキャンプも前倒しの進行に。キャンプインから約2週間ほどでオープン戦もはじまるだけに、アピールしたい選手にとっては早めの仕上げが必要になる。
このキャンプの時期に最も取り上げられやすいのが、はじめてのシーズンに挑むルーキーたち。特に昨秋のドラフト会議で4球団が競合した“令和の怪物”こと佐々木朗希(大船渡高→ロッテ)や、3球団競合の奥川恭伸(星稜高→ヤクルト)といった目玉には大きな注目が集まり、その一挙手一投足が報じられている。
佐々木で言えば、6日はキャンプ地をめぐりながら各球団を視察している侍ジャパン・稲葉篤紀監督と対面。さすがに高卒でルーキーイヤーの代表入りというと現実味は薄いが、井口資仁監督もかねてから「世界に羽ばたける投手」と口にしているように、いずれは日の丸を背負って戦うことが期待される選手であることは間違いない。この一軍キャンプで受けている様々な刺激を糧に、今後の成長が期待される。
一方、奥川はキャンプ前の自主トレで右ひじの状態に不安を覚えたため、二軍キャンプでじっくりと調整中。それでも、6日には自粛していたスローイングを再開したことが大きく報じられ、その状態を心配していたファンを安心させた。高卒と言えど、昨夏の甲子園やその後の国際試合で見せた完成度の高い投球は、ファンや有識者にも「ひょっとすると1年目から…?」と期待を抱かせるほどのクオリティ。状態さえ万全であれば、佐々木より先に一軍デビューという可能性も大いにあるだろう。
◆ 高卒1年目から2ケタ勝利を挙げた投手は…?
高卒ルーキーが1年目から活躍できるのか──。
この部分に関しては、本人の実力はもちろんのこと、何より“チーム事情”に左右されるところが大きい。もともと戦力的に余裕があるチームであれば、最初から実戦用に仕上げていくようなことはせず、1年目はプロの世界で戦うための身体づくりに力を入れながら、順調であればシーズン終盤で一軍の舞台で見てみようか、くらいの姿勢が基本。より慎重に、1年目は実戦もファームのみ、とする球団も少なくない。
一方、ちょうどそのルーキーのポジションに課題を抱えている球団であれば話は別。プロ年数に関わらず、調子が良さそうだから積極的に使ってみよう、という考えに至ることもある。背に腹は代えられない、育てながら使っていくという方針へのシフト。そのチャンスを掴み、ルーキーイヤーから輝かしい成績を残したという選手も実際にいる。
野手より投手の方が有利、という見方が多い高卒1年目の戦い。“将来のエース候補”たちのなかで1年目から結果を残すのはどれだけ難しいことなのか。今回は「高卒1年目から2ケタ勝利を挙げた投手」について調べてみた。
【高卒1年目に10勝以上挙げた投手】
※ドラフト制以降に限る
▼ 堀内恒夫(巨人/1965年=1位)
[1966年] 33試(181.0回) 16勝2敗 防1.39
▼ 森安敏明(東映/1965年=1位)
[1966年] 44試(207.2回) 11勝11敗 防3.03
▼ 鈴木啓示(近鉄/1965年=2位)
[1966年] 46試(189.0回) 10勝12敗 防3.19
▼ 江夏 豊(阪神/1966年=1位)
[1967年] 42試(230.1回) 12勝13敗 防2.74
▼ 松坂大輔(西武/1998年=1位)
[1999年] 25試(180.0回) 16勝5敗 防2.60
▼ 田中将大(楽天/2006年=高1位)
[2007年] 28試(186.1回) 11勝7敗 防3.82
▼ 藤浪晋太郎(阪神/2012年=1位)
[2012年] 24試(137.2回) 10勝6敗 防2.75
◆ 平成では3人
ドラフト制度がはじまって以降、高卒1年目から2ケタ勝利を挙げた投手というのは7名。1965年の第1回ドラフト会議からは一気に3人も達成者が出ており、その翌年にも江夏豊という大投手が出ているが、1967年からはその流れがピタッと止まる。江夏の次は31年も空き、1999年にようやくバトンを受け継ぐ男が現れた。“平成の怪物”こと松坂大輔である。
前年に横浜高を甲子園春夏連覇に導いたヒーローは、プロ1年目から開幕ローテ入りを果たし、デビュー戦で8回2失点の初勝利。鮮烈なインパクトを残すと、その後も今なお伝説として語り継がれているイチローとの初対決・3K斬りなどで話題を集め、いきなりシーズン16勝で最多勝のタイトルを獲得。高卒投手としては堀内恒夫以来、33年ぶりとなる新人王にも輝いている。
以降は各年代にひとりのペースとなり、“00年代”は楽天の田中将大が1年目に11勝をマーク。松坂以来となる高卒1年目の新人王に輝く。つづく“10年代”には、こちらも松坂と同じように「甲子園・春夏連覇エース」の看板を引っ提げてプロの門を叩いた藤浪晋太郎がちょうど10勝。そこから3年続けて2ケタ勝利を達成し、これまた松坂以来となる偉業を成し遂げた。
10年区切りという観点から見ると、新たな時代のはじまりになる2020年。元号も令和へと変わり、新たなヒーローの登場が待たれるところ。それだけに、佐々木や奥川といった怪物ルーキーの動向に注目が集まるのも仕方がないことかもしれない。
何よりもまずは、“第一歩”を無事に踏み出すこと。この2人に限らず、すべてのルーキーたちのキャリアの船出が順調なものになることを祈りながら、1年目から大活躍を見せる選手が出てきてくれたらこれ以上ない。
藤浪晋太郎の次にこのリストに名前を刻むのは誰か…。新星の登場を楽しみに待ちたい。
文=尾崎直也