数々の苦境を乗り越えて
今年1月のロッテ浦和球場。午前9時過ぎに一人、室内練習場で黙々とトレーニングをしている選手がいた。今年7年目を迎える捕手の吉田裕太(28)だ。
昨季は開幕一軍を掴み、岩下大輝投手が先発したときはスタメンマスクを被って好成績を残した。ロッカーが隣の岩下とコミュニケーションを重ね、好結果を積み重ねることで自信を深めていった。
しかし、6月7日の巨人戦で左足を負傷し、翌8日に「左大腿二頭筋肉離れ」により一軍登録を抹消。シーズン終盤の9月4日に再び一軍の舞台に戻ってきたが、出場機会はほとんどなく、復帰後の出場は2試合にとどまった。
吉田は「前半戦は一軍に入れたけど、ケガがあったので悔しいシーズンでした」と振り返り、2020年シーズンに向けて、打撃、守備面のレベルアップを誓った。
話を1月に戻すと、今年はじめて会った1月6日、吉田の眼光からは“今季にかける並々ならぬ思い”、“今年はやってやるぞという強い気持ち”が、こちらにも伝わってきた。
ロッテ浦和球場での自主トレでは、午前9時すぎには室内練習場に姿があった。室内練習場でトレーニングをしたあと、屋外でダッシュやノックを行う。午後からは室内練習場に戻り、ティー打撃やマシンを相手に打撃練習を繰り返し、夕方過ぎまで汗を流した。
春季キャンプは二軍スタートだったが、今季初実戦となった2月8日の楽天モンキーズとの国際交流試合に途中出場し安打をマーク。その後は再び二軍でキャンプを過ごし、2月23日に行われた琉球ブルーオーシャンズとの練習試合でアピールの機会を得るも、走塁中に左のふくらはぎを痛めてしまう。チームを離れて帰京した後、同27日に順天堂大学浦安病院で「左腓腹筋内側部筋挫傷」との診断を受けた。
3月に入ってからロッテ浦和球場での試合前の練習を見ていると、全体練習からは外れ、キャッチボールやランニングを行っている。それでも、3月21日の楽天二軍との練習試合前には、先発・山本大貴がマウンドに上がる前、三塁ベンチ前でキャッチボールを受けたり、その他の二軍練習試合でも、マリーンズの攻撃中、ベンチ前で投手のキャッチボールを受けるなど、チームのために今できることをしっかりとやっている。
報道陣に対して、いつも明るく声をかける吉田。故障後も本人はケガをして苦しいはずだが、そういった姿を一切見せることはなく、いつもと変わらない。
プロ野球は3月20日に開幕を予定していたが、新型コロナウイルスの拡大の影響で開幕が4月24日以降に延期となり、さらなる延期も間違いない情勢だ。選手たちにとっては、シーズンがいつ開幕するかわからない難しい状況だが、出遅れていた選手たちにとってはコンディションを整えるまたとない機会。これまで同様、この苦境を乗り越えた先に、必ず光は見えてくる。その努力を野球の神様は見ているはずだ。
文=岩下雄太