話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、1959年に行われた天覧試合でサヨナラアーチを放った、巨人・長嶋茂雄選手の「バット」にまつわるエピソードを取り上げる。
新型コロナウイルス感染拡大のため、日本のプロ野球同様、メジャーリーグも開幕が延期されていますが、この影響で、「エッ?」というニュースが飛び込んで来ました。
米国の老舗バットメーカー「ルイビルスラッガー」が、工場および博物館を一時閉鎖することになったというのです。当然、バットの生産は停止。従業員も一時帰休とのこと(米スポーツ専門サイト「the Score」の記事より)。
1884年、ケンタッキー州ルイビルで創業したルイビルスラッガー。いまもルイビルに本拠を構え、手作業の部分は熟練のバット職人たちが腕を振るっています。
工場に併設されている博物館は、約36.5メートルもある、世界一巨大なバットのオブジェが目印。ベーブ・ルースをはじめ、新旧のスター選手たちが使ったバットも展示してあり、見学ツアーに申し込むと、バットを製作中の職人の技を実際に見ることができます。
地元の観光名所にもなっているほどですが、公式サイトを覗いてみると「Temporarily Closed」(=臨時休業)のアラートが出現。記事は本当でした。
ルイビルスラッガーのバットは、メジャーリーガーの多くが愛用しています。シーズンが開催されていない現在、新規発注が途絶えており、生産停止に至った模様です。
もし仮に経営破綻という事態になったら、シェアの大きさから見ても、米球界に与える影響は甚大です。一刻も早く、このコロナ禍が終息してくれることを願って止みません。
ところで、ルイビルスラッガーのバットは、日本球界でも昔から愛用されて来ました。ミスタージャイアンツ、長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督もその1人です。
ミスターが残した数々の伝説のなかでも特に有名なのが、1959年(昭和34年)6月25日、史上初の「天覧試合」で阪神・村山実から放ったサヨナラ本塁打です。あの歴史的アーチも、ルイビルスラッガーから生まれました。
この試合についてはさんざん語り尽くされていますので、屋上屋を架すことはしませんが、改めてスコアを見ると、いろいろな発見があります。
ミスターはサヨナラ弾とは別に、5回、0-1の場面で、阪神先発・小山正明から同点ソロアーチを放っています。天覧試合で1試合2発というのも、まさにミスターならでは。
この1発が坂崎一彦の連続弾を生み、巨人が2-1と逆転しますが、6回に阪神も、巨人先発・藤田元司から3点を奪い再逆転。2-4と巨人劣勢の場面でチームを救ったのが、高卒ルーキー・王貞治でした。
この大舞台に10代の新人がスタメン出場しているのも驚きますが、王は何と7回に同点2ランを後楽園球場のスタンドに叩き込んでいます(まだ一本足打法を始める前です)。
ちなみに、ミスターとの「ONアベック弾」はこの試合が最初。ONは入団当時から大舞台に強かったのです。
4-4の同点で迎えた9回裏……天皇・皇后両陛下の観戦は「9時15分まで」というお達しが出ていました。タイムリミット3分前の9時12分に、サヨナラ本塁打できっちり試合を終わらせたミスター。でき過ぎなドラマですし、こういう痺れる場面で本当に打ってしまうところが、ファンを惹き付けた所以でもあります。
さて、話をバットに戻しましょう。ミスターがこの試合で使ったバットは、記念のサイン入りで長嶋家に保存されていますが、2017年、野球博物館で特別に展示されたことがあります。ときどき一般公開されるのですが、このときは「26年ぶりに公開」ということで、まだ実物を見たことがなかった筆者はすぐに足を運びました。
2017年に展示された天覧試合のバット(撮影・筆者)
ガラスケースに収められたそのバットには「Louisville Slugger」と「Al Kaline」の刻印が。「アル・ケーライン・モデル」と呼ばれるこのバットは、デトロイト・タイガースで活躍。通算3007安打を記録した「ミスター・タイガース」こと、アル・ケーライン氏が愛用したバットを模したものです。
ケーライン氏は残念ながらつい先日、4月6日に85歳で亡くなられましたが、実物を見て奇遇な「ミスターつながり」に気付いた次第です。
そしてもう1つ、気になったことが……この記念バットには、本人直筆で「天覧ホーマー 十二、十三号」と記してあるのですが、よく見ると「ホー■ー」と1ヵ所黒く塗りつぶしてあり、その横に「マ」と書き直してあるのです。
これは筆者の推測ですが、黒塗りの部分がやや台形になっていることから、おそらくミスターは「ホーマー」と書こうとして、「ホームラン」という単語が頭をよぎり、「ホームー」と書いてしまったのではないでしょうか。
「あっ、いけね!」と慌てて「ム」を塗りつぶすミスターの姿を想像して、「長嶋さんらしいなあ」と、ついホッコリしてしまいました。
新型コロナウイルス感染拡大のため、日本のプロ野球同様、メジャーリーグも開幕が延期されていますが、この影響で、「エッ?」というニュースが飛び込んで来ました。
米国の老舗バットメーカー「ルイビルスラッガー」が、工場および博物館を一時閉鎖することになったというのです。当然、バットの生産は停止。従業員も一時帰休とのこと(米スポーツ専門サイト「the Score」の記事より)。
1884年、ケンタッキー州ルイビルで創業したルイビルスラッガー。いまもルイビルに本拠を構え、手作業の部分は熟練のバット職人たちが腕を振るっています。
工場に併設されている博物館は、約36.5メートルもある、世界一巨大なバットのオブジェが目印。ベーブ・ルースをはじめ、新旧のスター選手たちが使ったバットも展示してあり、見学ツアーに申し込むと、バットを製作中の職人の技を実際に見ることができます。
地元の観光名所にもなっているほどですが、公式サイトを覗いてみると「Temporarily Closed」(=臨時休業)のアラートが出現。記事は本当でした。
ルイビルスラッガーのバットは、メジャーリーガーの多くが愛用しています。シーズンが開催されていない現在、新規発注が途絶えており、生産停止に至った模様です。
もし仮に経営破綻という事態になったら、シェアの大きさから見ても、米球界に与える影響は甚大です。一刻も早く、このコロナ禍が終息してくれることを願って止みません。
ところで、ルイビルスラッガーのバットは、日本球界でも昔から愛用されて来ました。ミスタージャイアンツ、長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督もその1人です。
ミスターが残した数々の伝説のなかでも特に有名なのが、1959年(昭和34年)6月25日、史上初の「天覧試合」で阪神・村山実から放ったサヨナラ本塁打です。あの歴史的アーチも、ルイビルスラッガーから生まれました。
この試合についてはさんざん語り尽くされていますので、屋上屋を架すことはしませんが、改めてスコアを見ると、いろいろな発見があります。
ミスターはサヨナラ弾とは別に、5回、0-1の場面で、阪神先発・小山正明から同点ソロアーチを放っています。天覧試合で1試合2発というのも、まさにミスターならでは。
この1発が坂崎一彦の連続弾を生み、巨人が2-1と逆転しますが、6回に阪神も、巨人先発・藤田元司から3点を奪い再逆転。2-4と巨人劣勢の場面でチームを救ったのが、高卒ルーキー・王貞治でした。
この大舞台に10代の新人がスタメン出場しているのも驚きますが、王は何と7回に同点2ランを後楽園球場のスタンドに叩き込んでいます(まだ一本足打法を始める前です)。
ちなみに、ミスターとの「ONアベック弾」はこの試合が最初。ONは入団当時から大舞台に強かったのです。
4-4の同点で迎えた9回裏……天皇・皇后両陛下の観戦は「9時15分まで」というお達しが出ていました。タイムリミット3分前の9時12分に、サヨナラ本塁打できっちり試合を終わらせたミスター。でき過ぎなドラマですし、こういう痺れる場面で本当に打ってしまうところが、ファンを惹き付けた所以でもあります。
さて、話をバットに戻しましょう。ミスターがこの試合で使ったバットは、記念のサイン入りで長嶋家に保存されていますが、2017年、野球博物館で特別に展示されたことがあります。ときどき一般公開されるのですが、このときは「26年ぶりに公開」ということで、まだ実物を見たことがなかった筆者はすぐに足を運びました。
2017年に展示された天覧試合のバット(撮影・筆者)
ガラスケースに収められたそのバットには「Louisville Slugger」と「Al Kaline」の刻印が。「アル・ケーライン・モデル」と呼ばれるこのバットは、デトロイト・タイガースで活躍。通算3007安打を記録した「ミスター・タイガース」こと、アル・ケーライン氏が愛用したバットを模したものです。
ケーライン氏は残念ながらつい先日、4月6日に85歳で亡くなられましたが、実物を見て奇遇な「ミスターつながり」に気付いた次第です。
そしてもう1つ、気になったことが……この記念バットには、本人直筆で「天覧ホーマー 十二、十三号」と記してあるのですが、よく見ると「ホー■ー」と1ヵ所黒く塗りつぶしてあり、その横に「マ」と書き直してあるのです。
これは筆者の推測ですが、黒塗りの部分がやや台形になっていることから、おそらくミスターは「ホーマー」と書こうとして、「ホームラン」という単語が頭をよぎり、「ホームー」と書いてしまったのではないでしょうか。
「あっ、いけね!」と慌てて「ム」を塗りつぶすミスターの姿を想像して、「長嶋さんらしいなあ」と、ついホッコリしてしまいました。