フォーカス・レコードホルダー ~安打(シーズン)~
「新型コロナウイルス」の問題で未だ開幕の見通しが立っていないプロ野球。前に進むことができない今こそ、過去の偉大な記録にフォーカスを当てて振り返ってみよう……ということで始まったこの企画。
その名の通り、過去の記録にスポットを当て、“歴代No.1”の記録を持っている選手を中心に振り返ろう、というのがテーマ。今回取り上げるのは「シーズン安打」。早速だが、NPBの歴代トップ10を見てみよう。
▼ 歴代最高記録・安打(シーズン)
2位 214本 マット・マートン [阪神/2010]
3位 210本 イチロー [オリックス/1994]
4位 209本 青木宣親 [ヤクルト/2010]
5位 206本 西岡 剛 [ロッテ/2010]
6位 204本 アレックス・ラミレス [ヤクルト/2007]
7位 202本 青木宣親 [ヤクルト/2005]
8位 198本 長谷川勇也 [ソフトバンク/2013]
9位 195本 小笠原道大 [日本ハム/2001]
9位 195本 川端慎吾 [ヤクルト/2015]
9位 195本 秋山翔吾 [西武/2018]
危機的状況からの5打数5安打
これまでの記録とは違い、トップ10のほとんどを2000年以降の記録が占めている「シーズン安打」。すべてを超えてその頂点に君臨するのが、今季からメジャーリーグのシンシナティ・レッズでプレーする秋山翔吾である。
1988年4月16日生まれ、数々のスターを輩出している“88年組”の一員。横浜創学館高から八戸大を経て、2010年のドラフト3位で西武から指名を受けてプロのキャリアをスタートさせた。
ルーキーイヤーから開幕スタメンを張り、いきなり110試合に出場。1年目の打率は.232とさすがにプロの壁に苦しんだが、安定感あるプレーでレギュラーの座を守り続け、プロ入りから毎年100試合以上に出場を記録。それどころか、2015年から昨季までは5年連続で全試合・フルイニング出場を達成している。
今回取り上げるのは、連続全試合出場がはじまった2015年。思わぬ不振に苦しんだ前年の戦いを経て、オフには右肘のクリーニング手術も実施。不安のなかで始まった年だったが、後に本人は野球ができなくなった期間に様々なことを考え、打撃フォームを見直すことができたのが大きかったと振り返っている。
その言葉の通り、フタを開けて見れば開幕から絶好調。なんと6月14日・63試合目の時点で早くもシーズン100安打に到達。特に5月・6月の好調ぶりはすさまじく、「2カ月連続の月間40安打」は1994年のイチロー以来という快挙だった。
6月3日から7月14日にかけては31試合連続で安打を放ち、こちらはNPB歴代3位という好記録。夏場に入っても7月は月間打率.354、8月は.343と調子を落とすことなく歩みを進め、8月終了時点でその数は「188」に。初の大台超えはもちろん、マット・マートンが持っていた日本記録も視界に入ってきた。
ところが、周囲からのプレッシャーもきつくなってくる9月に入ると、その勢いに陰りが。シーズン200安打に到達したのが9月13日のことで、この時点で残り試合は「12」。その後は4試合で1安打と、徐々に日本記録が遠ざかっていく。
しかし、9月21日から“一日一善”を続けていくと、9月30日のオリックス戦では5打数5安打の固め打ち。一気にマートンの「214」に肩を並べて見せる。
そして、翌10月1日のシーズン最終戦。「遊ゴロ」・「空振り三振」と2打席凡退で迎えた第3打席、ブライアン・バリントンから三塁への内野安打を放ち、これが新記録の「215」。その次の打席でもレフトへの三塁打をマークし、最終的な安打数を「216」としてシーズンを終えた。
本人はその後の会見で、「偉大な先輩方の上に名前があるのが恥ずかしいような気持ち」と正直な感想を口にしていたが、そんな部分も秋山らしさ。大記録よりもチームに貢献することを最優先に考え、この年も一番嬉しかったことは、開幕前から掲げていた「全試合フルイニング出場」を達成できたことだと振り返っていた。
その秋山が新記録を打ち立てて以降、シーズン200安打の壁を超えた選手は現れていない。令和へと時代が変わり、最初に200安打の壁を打ち破る選手は一体誰なのか。そして、「216」を超えて行く選手は現れるのだろうか……。
▼ 秋山翔吾(2015)
143試合 打率.359(602-216) 本塁打14 打点55
得点108 二塁打36 三塁打10 塁打数314
盗塁17 盗塁刺17 犠打7 犠飛2 四球60 死球4
三振78 併殺打6 長打率.522 出塁率.419