燦然と輝く“怪童”の偉業
長いトンネルの出口が、いよいよ見えてきただろうか──。
報道レベルではあるが、5月に入り日米両国でプロ野球の具体的な年間試合数、開幕日が報じられるようになってきた。リーグからの正式発表はまだないものの、日本では「6月19日」の開幕で「120試合」、アメリカでは「7月初旬」の開幕で「80試合」、というのがひとつの目安として注目を集めている。
野球協約には「ホーム・ゲームの数は、60試合を最低数とする」と明記されており、“年間120試合”がシーズン成立の条件という決まりがある。NPBは協約の改定も視野に入れつつ、これから新たな開幕日を選定していくということになるが、いずれにせよ143試合からの試合数削減は不可避だろう。
仮に120試合でのシーズン実施となれば、1953年のパ・リーグ以来67年ぶりということになるが、実はこのシーズンに偉業を達成した男がいた。昨年、村上宗隆(ヤクルト)の活躍によって、その名を何度も見聞きした中西太(西鉄)である。
“怪童”と呼ばれた中西は、プロ2年目のシーズンに打率.314・36本塁打・36盗塁という驚異的な成績でトリプルスリーを達成。20歳を迎えるシーズンでの快挙達成は、いまも破られることなく史上最年少記録として残っている。
もちろん、この最年少記録もすごいのだが、やはり“120試合”でトリプルスリーを達成してしまうという点にも触れないわけにいかない。この時の成績を現在の143試合制に換算すると、日本ではいまだに達成者がいない「40-40(40本・40盗塁)」にも届いていたのでは…という大暴れ。
当然、67年もの時が経てば、野球道具も変わり、野球のスタイルも変わる。2020年の感覚で一概に比較することはできないが、もし今季が既報の通りの120試合制となれば、“怪童”の凄さを改めて感じることができるかもしれない。
Mr.トリプルスリーなら…
同時に、こういった話になれば、現在の球界にも期待したい男がいる。プロ野球史上唯一のトリプルスリー複数回達成、「ミスター・トリプルスリー」こと、ヤクルトの山田哲人だ。
2015年~2016年に史上初の「2年連続トリプルスリー」に輝き、2017年に記録は途切れたものの、翌2018年にもう一度達成。昨季も打率が.271で届かなかったが、35本塁打・33盗塁で2部門はキッチリとクリアしている。
この男であれば、120試合制でもやってくれるのでは…?そんな期待を胸に、今回は山田がレギュラーの座を掴んだ2014年以降の、「チーム120試合消化時点」の成績に注目。どれほどの数字を残していたのか調べてみた。結果は以下の通り。
【チーム120試合消化時点・山田哲人の年度別成績】
※(カッコ)内は年間成績
▼ 2019年
出 場:119試合(142試合)
打 率:.280(.271)
本塁打:31本(35本)
盗 塁:28個(33個)
打 点:77点(98点)
▼ 2018年 ☆トリプルスリー達成
出 場:118試合(140試合)
打 率:.310(.315)
本塁打:30本(34本)
盗 塁:30個(33個)
打 点:77点(89点)
▼ 2017年
出 場:120試合(143試合)
打 率:.237(.247)
本塁打:20本(24本)
盗 塁:13個(14個)
打 点:63点(78点)
▼ 2016年 ☆トリプルスリー達成
出 場:110試合(133試合)
打 率:.332(.304)
本塁打:33本(38本)
盗 塁:29個(30個)
打 点:85点(102点)
▼ 2015年 ☆トリプルスリー達成
出 場:120試合(143試合)
打 率:.328(.329)
本塁打:33本(38本)
盗 塁:26個(34個)
打 点:85点(100点)
▼ 2014年 ※年間144試合制
出 場:119試合(143試合)
打 率:.331(.324)
本塁打:22本(29本)
盗 塁:11個(15個)
打 点:73点(89点)
こうして見ると、トリプルスリーを成し遂げた年に関しては、いずれも120試合時点で「3割・25本・25盗塁」を達成。2018年に至っては、すでに「3割・30本・30盗塁」に到達している。
山田が「30本・30盗塁」に達したタイミングも、2015年が124試合目、2016年は128試合目、2018年は114試合目。昨季も122試合でクリアしているだけに、決して不可能ではないだろう。
ちなみに、通算4度目のトリプルスリー達成となれば、3度のバリー・ボンズを抜いて世界的に見ても前人未踏の領域。それも120試合で達成となれば、その偉業はさらに輝きを増す。
開幕日はいまだ未定のままではあるが、具体的な話も徐々に出てきているということは、その時が着実に近づいて来ているのは間違いない。
2020年は、男にとってプロ10年目の節目の年──。昨年の村上につづいて、もう一度“怪童”の名を蘇らせるような活躍ができるか。今年も山田哲人から目が離せない。