秋の関東王者を撃破!
8月10日に開幕した『2020年甲子園 高校野球交流試合』も、このあとの第3試合と17日の3試合を残すのみ。残念ながら中止となってしまった今年の「春のセンバツ」への出場を決めていた32校が、1試合限りの夢舞台に挑んでいる。
大会5日目の第2試合は、21世紀枠でセンバツ初出場を決めていた帯広農(北海道)が登場。農業高校ということで、部員の大半はこの一戦をもって野球を引退、農業の道へ進むというチームが、1試合限りの夢の舞台で躍動した。
相手は昨秋の関東王者・健大高崎。甲子園で数々の実績を残し、“機動破壊”というチームカラーを定着させた強豪校だが、帯広農はそんな相手のお株を奪うような攻撃で襲い掛かる。
2回、一死から水上流暢が四球を選んで出塁すると、つづく菅結汰は追い込まれながらもバスターでレフトに弾き返す安打を放ち、村中滉貴も安打で続いて一死満塁。外野フライで二死となるも、9番の2年生・谷口純也がしぶとく一二塁間を破る適時打。二者を還し、2-0と先制に成功した。
直後に1点を返されたものの、3回表は先頭の佐伯柊が内野安打で出塁。続く打者は三振に倒れるも、4番・前田愛都の打席で佐伯が果敢にスチール。ここで相手捕手の二塁送球が逸れ、外野へと抜ける間に走者は三塁へ。一死三塁とチャンスを拡大する。
すると、前田は直後の3球目をスクイズ。見事に投手前へ転がし、すぐさま点差を2点差に。足を使った攻め、そこから相手のミスに乗じて小技で1点。流れるような攻撃で主導権を渡さない。
その後、5回にもラッキーボーイ・谷口の安打から一死二塁のチャンスを作ると、佐伯がこの日3本目となる安打をセンター前に運び、二塁から谷口が生還。ノッている2人のバットでさらに点差を広げていく。
投げてはエースの井村塁が、6回まで1点でしのぐ力投。被安打6、与四死は2つも、味方の堅守にも助けられながら相手にやりたい攻撃をさせず、ゼロを並べた。
4-1の7回からは背番号9の水上流暢へと繋ぎ、右腕もピンチを背負いながら、ゆるいカーブなどを有効的に駆使して健大高崎打線を翻弄。3回を投げて被安打2、三振も4つ奪う好投で9つのアウトをゲット。灼熱の聖地で終始落ち着いたプレーを見せた帯広農が、うれしい甲子園初勝利を掴んだ。
今年は新型コロナウイルスの影響で春のセンバツ・夏の選手権はともに中止に。帯広農のこの勝利も、どちらの大会の記録にも載ることのない“幻の1勝”になるが、聖地で強豪に立ち向かい、もぎ取ったこの1勝は多くのファンの心に刻まれたはずだ。
試合後、前田康晴監督も「生徒を褒めてあげたい。みんなで元気よく、熱中症に負けず、コロナに負けずを合言葉に戦うことができたと思います。相手が健大高崎さんということで、不安の方が大きかったんですが、選手たちが本当によく頑張ってくれました」と、最後まで堂々と、勇敢に戦い抜いた選手たちを讃えた。
文=尾崎直也