ロッテ・和田=ZOZOマリン (C) Kyodo News

◆ 第3回:ロッテ・和田康士朗

 「脇が主役を食う」。演劇やドラマの世界でよく使われる言葉だ。主演ほどの出番はなくても、ここぞの場面で異彩を放って芝居そのものを引き立てる。

 野球でも同様なケースはある。ロッテの新スピードスター・和田康士朗選手の今がそうだ。育成出身の3年目、21歳。脇役が主役の座に上り詰めようとしている。

 和田の本格ブレークは今月16日の日本ハム戦から始まった。「1番・中堅」でプロ初の先発出場を果たすと、何と3安打3盗塁の満点デビュー。50メートル5秒8の俊足はすでに注目されていたが、3盗塁すべてが初球から走ったもの。盗塁の極意は「勇気と決断」と言われる。持ち前のスピードに勇気と決断を兼ね備えているから相手の警戒網もかいくぐれる。

 続く18日のソフトバンク戦はノーヒットに終わるが、8回に四球で出ると相手投手の奥村政稔が盗塁を恐れてボークを犯す。すでに塁上に立つだけで脅威なのだ。そして翌19日の同カードでも光速の走りがファンを魅了する。

 初回、四球で出塁すると次打者・中村奨吾との間でランエンドヒット。打球が右中間に弾むのを見届けると一塁から一気にホームへ生還した。さらに5、7回にも2つの盗塁を決めて今季14盗塁はこの時点(8月19日終了時点)でパの単独トップに躍り出る。

 試合出場がチームの半数にあたる26試合(19日現在、以下同じ)だけなのだから、いかにすごい量産ぶりかがわかる。チームも新たな切り込み隊長の勢いを武器に再び首位戦線へと躍り出た。

◆ 育成からの成り上がり

 今春に発売された選手名鑑に和田の名前を見つけるのは難しい。全選手の最後に育成選手欄がある。その中でも最後尾。支配下選手のように顔写真やプロフィールが紹介されているわけではない。背番号122、年俸230万円など、わずかな情報が載るだけだ。

 育成の3年目とは「いつ首を斬られてもおかしくない年」と言われる。元々、支配下選手ほどの期待値はなく、化ければ面白いという程度の存在だ。そんな剣が峰で和田は化けた。

 昨年ファームで23盗塁の俊足を見込まれてキャンプから一軍帯同すると、3月の対楽天練習試合で首脳陣の心をつかんだ。試合終盤の接戦、浅い二ゴロにスタート良く本塁に生還を果たし同点としたのだ。

 コロナ禍による開幕延期などでようやく支配下選手になれたのは6月1日のこと。それでも開幕を迎えた6月19日のソフトバンク戦で井口資仁監督は重要局面でこの秘密兵器を投入した。1点ビハインドの9回二死。あとワンアウトの場面で代走・和田が二盗を決めると中村の適時打で生還。結局、試合は延長戦の末に敗れたが大きな武器を確信するこことなった。

◆ 新たなスター候補生

 昨年来、「神走塁」という表現を多く目にする。侍ジャパンの稲葉篤典監督がここ一番の脚のスペシャリストとして周東佑京選手(ソフトバンク)を抜擢するとズバリ的中。今季は巨人の増田大輝選手が再三の好走塁でチームに勢いをつけている。彼らと比べても和田の走力は遜色ない。

 加えて井口ロッテの大きな売りは「機動力」で、チーム盗塁数「46」は12球団トップ。このまま和田が「1番」に定着するようなら盗塁王のタイトルまで視野に入ってくる。ロッテOBで野球評論家の有藤通世氏も「福本二世の可能性はある」と、シーズン106盗塁、通算1065個の盗塁記録を持つ元阪急の福本豊氏を引き合いに出して、高い能力を評価していた。

 開幕直後の1番打者はソフトバンクからFA移籍した福田秀平選手であり、その後は荻野貴司選手が務めてきた。故障や不調などもあり、和田の抜擢は苦肉の策でもあったが、そうしたわずかなチャンスをつかむのもバイプレーヤーが成り上がるためには必要不可欠なものだ。

 今では、本拠地・マリンスタジアムでは和田が登場するだけで熱い拍手が送られる。塁上に立つだけで味方に何かを期待させ、敵は局限までに神経をとがらせる。ロッテは貴重なスター候補を手に入れた。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)


【荒川和夫・プロフィール】
1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中。

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この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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