プロ野球選手の自発的な練習
緊急事態宣言が発出された4月7日、森友哉選手を筆頭に、山川穂高選手、外崎修汰選手、川越誠司選手ら計4人がキャッチャー防具をつけてメットライフドームのグラウンドに姿を現した。この日は、“自主練習”が始まった最中で「この時期だからこそできる練習。下半身を鍛えることができるし、バッティングにも活きる」と、発起人の森友哉はニヤリと笑った。
4月上旬、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、チームとしての活動が停止。監督、コーチ、そしてほとんどのチームスタッフは自宅待機となり、選手が個々にメニューを考えて、練習に励む日々が続いた。
そこでは中村剛也が自ら打撃投手を名乗り出たり、栗山巧やスパンジェンバーグは自らマシンにボールをセットし打撃練習を慣行。打ち終わったボールを自らカゴに戻し、また打ち続けるなど、普段では考えられない光景が施設内で繰り広げられていた。
ちなみにチームのS&C(ストレングス&コンディショニング)コーチに言わせると、キャッチャー練習は「下半身の可動域を広げるから、有意義な練習」だという。どれもこの宣言下だからこそ、生み出された練習と言えるだろう。
アマチュア野球の環境も変化
日常が消えてしまった中、「今だからできること」を考えさせられたのは、プロだけではない。8月2日、西武主催の『baseballサミット』では、『新しい野球様式』をテーマに、3人の講師がオンライン上で白熱の講義を行った。
その中でも注目を集めたのが、高知県の土佐塾中学校で顧問を務める結城慎二氏が実践した「休校中の指導方法」。多くの野球指導者が頷き、「参考にしたい」という声が聞かれた。
1人目の登壇者となった結城氏は、生徒たちと直接コミュニケーションをとることが叶わなくなってから、その時期における「明確な目標設定」を実施。まずは、物理的にできないことは捨て、この時期だからできることを実施する。子どもたちの「自己分析力」や「独学志向」を向上させる、ということに重きを置いた。
ここで結城氏が活用したツールが『You Tube』。生徒にやってほしい練習の“実演動画”を限定公開し、その中から“好きなものを選ばせて”実践させ、その成果を動画で結城氏に送り返すというもの。動画を何度も見て視覚で学ぶうちに、関連動画には同様の動画が上がってくるようになり、それを起点に「“野球を学ぶ”こともできる」という仕掛けだ。
また、「スイングスピードを上げるためにはどうすればよいのか」といった課題を与えた際には、生徒たちは自ら考え、実践することで、大多数の生徒がスイングスピードを上げることに成功したという。まさにピンチを逆手にとって、子どもたちの“考える力”を伸ばした約3カ月だった。
野球の可能性と指導者の責務
結城氏は昨今の野球競技者人口の減少に警鐘を鳴らしながら、この時代にいかなる工夫をすれば良いかを自問自答し、実践してきた。共働き家庭が増えているこの時代下で「保護者への負担軽減」、「すべての練習を勝利至上主義としない」、「坊主強制の撤廃」を掲げ、この10年間で部員数が減少することなく、令和元年度には増加を記録したという。
現在、埼玉県では中学の軟式野球部の競技者人口が増えるなど、明るい話題も出始めた。一方でプロ野球の観客動員数も右肩上がり。世の中における、この「娯楽」に対する需要は間違いなく存在する。この未曾有の危機を「どう乗り越えたのか」、それを日本中で共有できたとき、野球の新たな可能性が広がっていくのかもしれない。
今回の『baseballサミット』には、その他にも日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーで鍼灸師の星川精豪氏などが登壇。同氏は、スポーツが長期間の中断を経て再開した後のケガのリスクなどに言及し、成長期の真っただ中にある中学生などは、いきなり通常の練習量に戻すのではなく、ある程度ゆるやかな曲線を描きながら、そのペースを上げていくことの重要性を説いた。
その他にも、この時期に注意すべき「熱中症」の件数は野球が群を抜いて多い(平成31年3月発行:日本スポーツ振興センター発行の「熱中症を予防しよう」より)ことも指摘。子どもたちが長く、健康に野球やスポーツを続けていくための道のりを、指導者が考え作っていくことの重要性も強調していた。