今年から導入した新たな試み

　西武は近年、新しい「選手寮（若獅子寮）」や12球団最大級の広さを誇る「室内練習場（ライオンズ トレーニングセンター）」を完成させ、ファームの本拠地「CAR3219フィールド」の改修も行うなど、環境面の改善を進めてきた。その他にも様々なものごとを導入しているが、新たに導入したもののひとつが、ファームの遠征地（浦和、戸田、ジャイアンツ球場）で稼働する「キッチンカー」だ。

　このキッチンカーは、試合前に選手やチームスタッフへ季節に応じて冷たい麺類、温かい麺類や日替わりでカレー、牛丼などの丼ぶり、豚肉の生姜焼き、グリルチキンなどの主菜、フルーツ、サラダ、おにぎりなど、さまざまなメニューを提供することができる「西武オリジナル」仕様となっている。


　西武は昨年5月、帝京大学と業務委託契約を締結し、管理栄養士が一軍とファームに、それぞれ1名ずつ状況に応じて帯同している。ファームを担当している葛西真弓氏（帝京大学スポーツ医科学センター助教）は、「これまでファームでは、遠征先での昼食はお弁当がメインでした。お弁当だと選択肢がなく、自分のコンディションに合わせて食事を選択する余地がありませんでした。特に食欲が落ちてしまう夏場にはなかなか食が進まず、“食べない”という選択に陥ってしまう選手もいました」と昨年を振り返る。

　さらに葛西氏「夏は、35度以上にもなる環境下で、一軍にあがるためのパフォーマンスを発揮しないといけない。そのためには、しっかりと食事をとってエネルギーを補給し、試合に向けて準備をする必要があったんです」と、キッチンカー導入の背景を語った。そのため、2020年が明けてすぐに、ファームの育成に携わるスタッフが一堂に会して「食」をテーマにした話し合いを実施。そこで西武球場前駅に並ぶ「キッチンカー」の発想が出てきたという。

さまざまなハードルを越えた思い

　しかし、遠征地にキッチンカーを置く場所があるのか、提供方法はどのようにするのか、衛生面は問題ないのか、道中でキッチンカーが動かなくなってしまったときはどうするのか…などなど、本稼働までにはさまざまなハードルが……。そこで、食事提供を担うフジ産業株式会社がスタッフ総出で何度も議論を重ねて対応策を検討。葛西氏とフジ産業株式会社のインストラクター糸井信寿氏、キッチンカーのノウハウを持つ調理担当高野英之氏の3名で、各球場をまわって、趣味レーションを繰り返し行った。

　現在では、葛西氏がメニューボードに記入した「本日のオススメメニュー」を横目に、若獅子たちは「今日はどれにしようか？」と、それぞれが選んだ食事がトレーの上を彩っていく。高卒ルーキーの川野涼多選手も「“第二のおふくろの味”みたい」と笑顔を見せる。食事に関する相談にくる選手もいるとのことで、選手たちの意識も着実に変化してきているようだ。

　それでも葛西氏は、「ここ（ファーム）での食事は、上（一軍）でしっかり活躍するための身体づくりの一環だと思っている。強い身体を作って上（一軍）に送り出してあげたいし、食に対して自分で考えて動けるよう、意識を高めていってもらいたい」と現状に満足することなく、若獅子たちのさらなる飛躍を信じて奮闘を続けている。