話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、10月22日の中日-DeNA戦で、今季6度目の完封勝利を飾った中日・大野雄大投手にまつわるエピソードを取り上げる。
「きょうだけは、ほめてください!」(大野)
10月22日、ナゴヤドームで行われた中日-DeNA戦。中日の先発は、エース・大野雄大でした。大野は直前の4試合で3度の完封勝利を記録。さらにこの試合を迎えるまで、36イニング連続で得点を許していませんでした。
チームも20・21日と4位・DeNAに2連勝。8年ぶりのAクラス入りを確実にするためにもここでDeNAを3タテしておきたいところ。大野は序盤から「これぞエース」というピッチングを披露します。一方、中日打線は初回、無死満塁のチャンスをつくりながら、ビシエドの犠飛による1点のみ。DeNA先発・平良を打ちあぐね、試合は1-0のまま投手戦の展開になりました。
8回、大野はオースティン、宮﨑を打ち取りますが、ここでDeNA・ラミレス監督は代打攻勢に出ます。これが的中。梶谷・中井が連続ヒットを放ち、中井の盗塁もあって2死二・三塁。さらに代打・楠本……一打逆転のピンチを迎えたところで、大野にスイッチが入りました。ファウルで粘る楠本に投じた8球目、139キロのフォークで空振り三振! その瞬間、大野はグラブを叩き、マウンドで雄叫びを上げました。
最終回は、神里のピッチャーゴロを“背面キャッチ”するシーンも。大野は、被安打6、無四球、9奪三振で今季(2020年)6度目の完封勝利を飾り、自身5年ぶりとなる10勝を挙げました。結局、味方の援護は初回の犠飛だけでしたが、「1点あれば十分」という貫禄のピッチング。苦しい展開のなかで挙げた1-0の完封勝利は、大野にとっても格別の思いがあったのでしょう。お立ち台で「ほめてください!」と叫んだのも頷けます。
これで大野は、連続イニング無失点記録を45回に伸ばし、大矢根博臣が1956年に記録した40回1/3の球団記録を64年ぶりに更新。左腕では、400勝投手・金田正一が国鉄スワローズ時代にマークした64回1/3(=日本記録)に次ぐ歴代2位となりました。しかし大野が「ほめてください!」と言ったのは、そんな個人記録のことではありません。
「ライデル(クローザーのR・マルティネス)がいなくなって、(中継ぎの)祖父江さんと福が(20・21日と)2連投していた。野手のみんなもしんどい。何とかしたい、とマウンドに上がった」
救援陣はフル回転で疲弊気味、打線もなかなか点が取れない……チームが苦しいときに何とかするのがエースです。野球は、打者が1人でいくら打とうが、味方投手がそれ以上に失点したら負ける競技。しかし投手が完封すれば、絶対に負けることはありません。「自分1人の力で何とかできる唯一のポジション」……それがピッチャーであり、故に完封勝ちの多さは投手の勲章でもあるのです。
「ゼロに抑えることは素晴らしいと思う。それを目指してピッチャーはやっている。ゼロに抑えたら負けない」
大野が「ほめて欲しい」のは、エースの責任を果たし、チームを救い、勝利に貢献できたこと、その1点に尽きます。シーズン6完封は、2018年に菅野が記録した8完封以来。その菅野は、互いに認め合い、また個人タイトルを争うライバルでもあります。試合後、大野は関西弁でしみじみとこう語りました。
「(無失点記録を続けるのは)ホンマにしんどい。菅野くんも開幕から13連勝して、こんな感じで、毎週しんどかったんやろうな……」
チームを支える大黒柱として活躍、「開幕投手が無傷の13連勝」という日本記録をつくった巨人・菅野。この偉大な記録は先日ストップしましたが、その間の辛さは、記録を継続中の大野には痛いほどわかるのでしょう。
今季、大野は菅野と2試合投げ合っています。7月3日の東京ドームでは、7回2失点と力投しましたが、中日打線が菅野に完封され黒星。「(菅野は)先発投手はこうあるべき。というのを成績でも発言でも残していて、尊敬している。彼につられていい投球ができた」とライバルを讃えつつ、次こそはリベンジを、と心に期するものがありました。
その機会は、9月8日にやって来ます。ナゴヤドームで2人は再戦。大野はその試合まで5試合連続で完投勝利(+2試合連続完封)を挙げており、かたや菅野は開幕9連勝中。「どちらの記録が途切れるか?」という戦いでもありました。
試合は予想どおり、息詰まる投手戦に。先に失点したのは大野のほうでした。3回、2死二塁の場面で、坂本に外角へ落ちる変化球をとらえられ、左翼フェンス直撃のタイムリー二塁打に。さらに8回、亀井に犠飛を打たれ追加点を許します。菅野は7回無失点で降板、後を受けたリリーフ陣が中日打線を抑え、2-0で巨人が快勝。大野はまたしても苦杯をなめましたが、最後まで1人で投げ抜き、連続完投記録は継続。意地を見せました。
「ええピッチャーは、先に点を取られんな。粘りや技を感じた」
試合後、菅野を讃えた大野。もちろん、先に点を与えないことは大野も十分すぎるほど意識してマウンドに上がっていました。しかし、坂本に打たれた先制二塁打は「無理に勝負をしないでおこう」と変化球でかわしたはずが、“技あり”のバッティングで持って行かれたもの。坂本が一枚上手だったと言えばそれまでですが、大野にとっては悔いの残る場面でした。
一方、中日打線にほとんどスキを見せなかった菅野。大野は自分でヒットを2本放ち孤軍奮闘しましたが、得点にはつながりませんでした。菅野の力の入れどころ、抜きどころ、マウンドさばきの上手さを改めて思い知った大野。大野も菅野も、セ・リーグを代表するエースとしてお互いを意識していますし、「負けたくない」と公言しています。高いレベルで競い合えるライバルの存在が、成長の糧となり、2人の驚異的な記録につながったことは間違いありません。
今季の中日-巨人戦はすでに全試合を終えているため、2人の直接対決が見られないのは残念ですが、タイトル争いの決着はこれからです。22日の時点で、防御率1・79、137奪三振とし、2部門で菅野を突き放した大野。菅野で決まり、と思われていた沢村賞の行方も、これでわからなくなって来ました。
「(沢村賞は)狙って取れるもんでもない。あと何試合投げられるかわからないけど、とにかくチームのために腕を振りたい」
残り試合もあとわずか。大野はもちろん、全試合完封するつもりでいます。
「きょうだけは、ほめてください!」(大野)
10月22日、ナゴヤドームで行われた中日-DeNA戦。中日の先発は、エース・大野雄大でした。大野は直前の4試合で3度の完封勝利を記録。さらにこの試合を迎えるまで、36イニング連続で得点を許していませんでした。
チームも20・21日と4位・DeNAに2連勝。8年ぶりのAクラス入りを確実にするためにもここでDeNAを3タテしておきたいところ。大野は序盤から「これぞエース」というピッチングを披露します。一方、中日打線は初回、無死満塁のチャンスをつくりながら、ビシエドの犠飛による1点のみ。DeNA先発・平良を打ちあぐね、試合は1-0のまま投手戦の展開になりました。
8回、大野はオースティン、宮﨑を打ち取りますが、ここでDeNA・ラミレス監督は代打攻勢に出ます。これが的中。梶谷・中井が連続ヒットを放ち、中井の盗塁もあって2死二・三塁。さらに代打・楠本……一打逆転のピンチを迎えたところで、大野にスイッチが入りました。ファウルで粘る楠本に投じた8球目、139キロのフォークで空振り三振! その瞬間、大野はグラブを叩き、マウンドで雄叫びを上げました。
最終回は、神里のピッチャーゴロを“背面キャッチ”するシーンも。大野は、被安打6、無四球、9奪三振で今季(2020年)6度目の完封勝利を飾り、自身5年ぶりとなる10勝を挙げました。結局、味方の援護は初回の犠飛だけでしたが、「1点あれば十分」という貫禄のピッチング。苦しい展開のなかで挙げた1-0の完封勝利は、大野にとっても格別の思いがあったのでしょう。お立ち台で「ほめてください!」と叫んだのも頷けます。
これで大野は、連続イニング無失点記録を45回に伸ばし、大矢根博臣が1956年に記録した40回1/3の球団記録を64年ぶりに更新。左腕では、400勝投手・金田正一が国鉄スワローズ時代にマークした64回1/3(=日本記録)に次ぐ歴代2位となりました。しかし大野が「ほめてください!」と言ったのは、そんな個人記録のことではありません。
「ライデル(クローザーのR・マルティネス)がいなくなって、(中継ぎの)祖父江さんと福が(20・21日と)2連投していた。野手のみんなもしんどい。何とかしたい、とマウンドに上がった」
救援陣はフル回転で疲弊気味、打線もなかなか点が取れない……チームが苦しいときに何とかするのがエースです。野球は、打者が1人でいくら打とうが、味方投手がそれ以上に失点したら負ける競技。しかし投手が完封すれば、絶対に負けることはありません。「自分1人の力で何とかできる唯一のポジション」……それがピッチャーであり、故に完封勝ちの多さは投手の勲章でもあるのです。
「ゼロに抑えることは素晴らしいと思う。それを目指してピッチャーはやっている。ゼロに抑えたら負けない」
大野が「ほめて欲しい」のは、エースの責任を果たし、チームを救い、勝利に貢献できたこと、その1点に尽きます。シーズン6完封は、2018年に菅野が記録した8完封以来。その菅野は、互いに認め合い、また個人タイトルを争うライバルでもあります。試合後、大野は関西弁でしみじみとこう語りました。
「(無失点記録を続けるのは)ホンマにしんどい。菅野くんも開幕から13連勝して、こんな感じで、毎週しんどかったんやろうな……」
チームを支える大黒柱として活躍、「開幕投手が無傷の13連勝」という日本記録をつくった巨人・菅野。この偉大な記録は先日ストップしましたが、その間の辛さは、記録を継続中の大野には痛いほどわかるのでしょう。
今季、大野は菅野と2試合投げ合っています。7月3日の東京ドームでは、7回2失点と力投しましたが、中日打線が菅野に完封され黒星。「(菅野は)先発投手はこうあるべき。というのを成績でも発言でも残していて、尊敬している。彼につられていい投球ができた」とライバルを讃えつつ、次こそはリベンジを、と心に期するものがありました。
その機会は、9月8日にやって来ます。ナゴヤドームで2人は再戦。大野はその試合まで5試合連続で完投勝利(+2試合連続完封)を挙げており、かたや菅野は開幕9連勝中。「どちらの記録が途切れるか?」という戦いでもありました。
試合は予想どおり、息詰まる投手戦に。先に失点したのは大野のほうでした。3回、2死二塁の場面で、坂本に外角へ落ちる変化球をとらえられ、左翼フェンス直撃のタイムリー二塁打に。さらに8回、亀井に犠飛を打たれ追加点を許します。菅野は7回無失点で降板、後を受けたリリーフ陣が中日打線を抑え、2-0で巨人が快勝。大野はまたしても苦杯をなめましたが、最後まで1人で投げ抜き、連続完投記録は継続。意地を見せました。
「ええピッチャーは、先に点を取られんな。粘りや技を感じた」
試合後、菅野を讃えた大野。もちろん、先に点を与えないことは大野も十分すぎるほど意識してマウンドに上がっていました。しかし、坂本に打たれた先制二塁打は「無理に勝負をしないでおこう」と変化球でかわしたはずが、“技あり”のバッティングで持って行かれたもの。坂本が一枚上手だったと言えばそれまでですが、大野にとっては悔いの残る場面でした。
一方、中日打線にほとんどスキを見せなかった菅野。大野は自分でヒットを2本放ち孤軍奮闘しましたが、得点にはつながりませんでした。菅野の力の入れどころ、抜きどころ、マウンドさばきの上手さを改めて思い知った大野。大野も菅野も、セ・リーグを代表するエースとしてお互いを意識していますし、「負けたくない」と公言しています。高いレベルで競い合えるライバルの存在が、成長の糧となり、2人の驚異的な記録につながったことは間違いありません。
今季の中日-巨人戦はすでに全試合を終えているため、2人の直接対決が見られないのは残念ですが、タイトル争いの決着はこれからです。22日の時点で、防御率1・79、137奪三振とし、2部門で菅野を突き放した大野。菅野で決まり、と思われていた沢村賞の行方も、これでわからなくなって来ました。
「(沢村賞は)狙って取れるもんでもない。あと何試合投げられるかわからないけど、とにかくチームのために腕を振りたい」
残り試合もあとわずか。大野はもちろん、全試合完封するつもりでいます。