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新監督も兼任! 楽天・石井一久GMが“二刀流”を引き受けた理由

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【プロ野球楽天石井一久GM就任会見】就任会見で記者の質問に答える楽天・石井一久新GM=楽天生命パーク=2018年8月27日 写真提供:産経新聞社
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、11月12日に記者会見、GM(ゼネラル・マネージャー)と兼任で新監督に就任すると発表した、楽天イーグルス・石井一久GM兼監督にまつわるエピソードを取り上げる。

「GMに就任したときから、僕の使命は『(イーグルスを)常勝チーム、骨太のチームにする』……そこを肝に銘じてやって来た。監督になってもそのスタンスは変わらず、しっかりやって行きたい」(12日の会見、石井GM兼監督)

オフに大型補強を行いながら4位に終わったことで、三木肇監督の進退が取り沙汰されていた楽天イーグルス。果たして、チーム編成を預かる石井GMはどんな決断を下すのか? 12日に発表された答えは、予想の斜め上を行くものでした。何と、「石井GM自身が新監督に就任する」と発表したのです。まさに前代未聞の仰天人事でした。

石井氏の正式な肩書きは「取締役GM兼監督」。過去、日本球界でGMと監督を兼任した例はありません。近い例を探すと、1993年から「代表取締役専務兼監督」という肩書きでダイエー(現ソフトバンク)の指揮を執った根本陸夫氏が浮かびます。

西武の管理部長として選手獲得に辣腕をふるい、“球界の寝業師”と呼ばれた根本氏。ダイエーのオーナー・中内功氏に請われる形で、1993年に西武フロントを辞してダイエーへ移ると、ここでも剛腕ぶりを発揮しました。西武から主砲の秋山幸二をトレードで、エースの工藤公康をFAで獲得。2人ともチームの柱となり、のちにソフトバンクの監督になったのはご存知のとおりです。

ただし根本氏も、監督と編成の仕事を兼務したのは最初の2年間だけでした。チームの下地が整った3年目の1995年からは、自ら招聘に当たった王貞治監督(現ソフトバンク球団会長)に後を譲り、以後は編成面で王監督をバックアップ。常勝軍団の礎を築きました。

チーム編成は、アマ球界や、他球団で持て余されている選手の動向も睨みながら情報を集め、水面下で選手に近いキーパーソンと会い、他球団に先んじて動くことが重要。監督業との兼務はそもそも無理なのです。

根本氏はダイエー以前に、広島・クラウン(在任中、西武に球団売却)でも監督経験がありましたが、石井氏は監督経験はおろか、コーチ経験もありません。本来、勝つための戦力を整えるGM職と、与えられた戦力をうまく采配して戦う監督業はまったく別なもの。「本当にやって行けるの?」と不安視する声があるのも、また無理からぬところです。

また楽天は昨年(2019年)オフ、チームを3位に導いた平石洋介監督(現ソフトバンクコーチ)を1年で解任したばかり。今年(2020年)もまた三木監督を1年で退任させました。来年もし結果が出なければ、今度は石井氏も同じ目に遭うかも知れません。

「大型補強して結果が出なかった責任は、GM自身で取れ」という、球団側の“無茶振り”にも思える今回の人事。それをあえて引き受けたのは、おそらく石井氏にはある程度の自信と成算があるからでしょう。監督就任会見で語った、このコメントからもそれが窺えます。

「東北の皆さんに愛されるだけではなく、“愛されながら強いチームにすること”が僕の使命。覚悟をもって取り組んで行こうと思っています。何を言われようが、ブレずにまい進して行くだけだと思います。決意表明として話したい」

余程の自信がなければ、ここまでキッパリとは言い切れないでしょう。この自信はどこから来ているのでしょうか?……思えば2年前の2018年9月、石井氏が楽天のGMに就任したときも「本当にできるの?」という声が上がりました。GM就任後、石井氏がチーム編成面で果たした主な仕事を振り返ってみると……。

●2018年オフ……FAで浅村栄斗を西武から獲得、新外国人ブラッシュとブセニッツ獲得

●2019年オフ……FAで鈴木大地・トレードで涌井秀章をロッテから獲得、オリックスからロメロ獲得、メジャー帰りの牧田和久を獲得

浅村・涌井・牧田は、いずれも石井氏が西武に在籍していたときのチームメイトでもあります。「お友達補強」と揶揄されましたが、今季の浅村は本塁打王、涌井は最多勝のタイトルを獲得。投打の柱となり、牧田もチームトップの24HP(2勝22ホールド)を挙げました。

この他、昨年のドラフトでは、大物高校生投手・佐々木朗希(現ロッテ)を1位指名し外すと、目標をサッと即戦力野手に切り替え、小深田大翔(大阪ガス)を指名。小深田は今季新人王候補にも挙げられる活躍を見せました。

さらに今年のドラフトでは、4球団競合の大学ナンバー1左腕・早川隆久(早稲田大)の交渉権を自ら引き当てています。まったく経験がなかったにもかかわらず、GMとしてかなりいい仕事をしたと言えるでしょう。

「だから監督としても成功する」という単純なことは言いませんが、石井氏はクレバーであり、選手を見る目をちゃんと持っているのは確かです。そして、忘れちゃいけない、ヤクルト時代に野村克也監督から「ID野球」の薫陶を受けた“野村チルドレン”でもあるのです。

2020年は石井氏にとって、恩師が鬼籍に入った年でもありました。その野村氏は楽天の第2代監督を務め、最下位の弱小チームを4年かけて2位まで引き上げ、2009年、初のCS進出を果たして退任しました。その地ならし、種まきがあって、2013年の日本一があったのは誰もが認めるところです。

かつて「投手出身者は、監督として大成しない」とよく語っていた野村氏。「ピッチャーは自己中心的な性格じゃないとやって行けない。監督の仕事はその逆で、他人に細かい配慮ができる繊細さが必要」というのが理由ですが、皮肉にも、楽天を日本一にしたのは投手出身の星野仙一監督でした。

星野氏は現役引退後、テレビのキャスター業を経験。伝えたいことをどう表現したら、相手によく理解してもらえるかを学んだことが、後に監督業をやる上で大いに役立ったと語っています。野村氏の「投手出身者は、監督として大成しない」という言葉の真意は、「監督業は、現役時代の経験だけに囚われない、複眼的思考を持つことが重要」ということなのでしょう。

石井氏も現役引退後、吉本興業にまず契約社員として入社。いち会社員として、スポーツ選手のマネジメント業務を経験しています。未経験にもかかわらずGMとして成果をあげられたのは、その経験も役立ったのでしょう。またマネジメントの仕事は、監督(英語では「フィールド・マネージャー」)の仕事にも通じます。

今回、監督兼務の話を受けたのは、亡き恩師に対し「投手出身で監督には向いてなさそうな僕でも、ちゃんと成功できるってことを証明してみせますよ。見ていてください!」という気持ちもあったように思います。

「この仕事って『非難いっぱい、称賛少し』という仕事だと思う。しっかりとそこは、何を言われても、自分の信念を貫いて行こうと思ってます」「僕は褒めて欲しいとも思っていない。ただこのチームを強くしたい、魅力的なチームにしたい、最終的な目標に向かって頑張っているだけなので」(12日の会見、石井GM兼監督)

ヒール役になるのも辞さず、と宣言した石井氏。今オフも間違いなく活発な補強やトレードを行うのでしょうが、しばしばそれはファンの反感を買うことがあります。

ドライな補強と“地元に愛されるチーム”をどう両立させるのか? 自ら集めた新たな手駒でどう戦い、頂点を狙うのか?……そこは“全権監督”の腕の見せどころ。来年のパ・リーグは、ますます面白くなりそうです。
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