“換気”のための施策が思わぬ事件を呼んだことも… (C) Kyodo News

◆ “異例のシーズン”に起こった珍事

 新型コロナウイルスの感染拡大により、ペナントレースの開催も危ぶまれた2020年のプロ野球…。

 開幕は予定よりも3カ月遅れ、当初は「無観客」の状態からのスタート。「交流戦」や「オールスター戦」も中止となり、セントラル・リーグでは「クライマックスシリーズ」も中止に。シーズン途中にコロナの感染者が出たチームもあったが、どうにか120試合の日程を全チームが消化することができた。

 まさに“異例のシーズン”となった今年の戦いだが、いまになって振り返ってみると、本当にさまざまな出来事があった。そこで今回は、「プロ野球B級ニュース」でお馴染みの久保田龍雄氏に、2020年の野球界で起こった“珍事件”を掘り起こしてもらった。

 第1回目は、「コロナ禍での開催で起きた珍事 編」だ。

◆ 「放送ブース」から声が聞こえる…

 上でも触れた通り、今季は「無観客開催」という異例のスタートとなった中、当初は“静かな球場”ならではの珍事も相次いだ。

 実況アナの声がベンチまで聞こえてきて、「これでは試合にならない」の苦情が出たのが、6月21日のヤクルト−中日だ。

 3−0とリードした中日の9回の攻撃が始まる前、与田剛監督がおもむろにベンチを飛び出し、嶋田哲也球審に何事かを訴えている。すると、嶋田球審は駆け足で一塁側のヤクルトベンチに向かい、ネット裏席上段にある放送ブースを指差しながら、高津臣吾監督に説明を始めた。

 与田監督が訴えたのは、「放送ブースから“捕手がインコースに構えた、アウトコースに構えた”の声が聞こえてくる。何とかならないか」というものだった。

 神宮球場の放送ブースは、シャッターの開閉式で、窓などの仕切りがないうえに、比較的グラウンドにも近いため、テレビやラジオの実況の声がそのまま聞こえてきたという次第。通常ならば観客のざわめきや鳴り物応援にかき消されて聞こえないのだが、無観客試合のため、ヒアリング可能になってしまったのだ。

 確かに守っている側としては、捕手の構えた位置が相手に筒抜けになると、投手がどのコースに投げてくるか事前にわかってしまい、大変まずい事態である。その後、球場側は6月23日の阪神戦から実況席前面に透過性のシートを張り、音漏れ防止に努めることになった。

◆ 録音された「鳴り物応援」は耳障りと不満も

 また、ソフトバンクの本拠地・PayPayドームでは、6月21日の開幕第3戦(ロッテ戦)で、応援のムードを高めようと、録音された鳴り物応援の音声を流していたが、ロッテの吉井理人投手コーチが試合後、「ものすごく耳障りでした」とブログに記すなど、無観客試合ならではの問題が相次いで浮き彫りに…。

 5000人を上限に有観客となった7月18日の楽天−西武でも、ネット裏のファンが西武の捕手・森友哉の構える位置を見て、「インコース!」などと打者に教える行為が問題になった。静かに観戦するファンがほとんどだったので、声がグラウンドの選手たちにも届いてしまったのだ。

 その後、球場側は悪質な行為を繰り返す観客には退場を求めることも含めて、巡回を強化することになった。

◆ オリックスがロッテに「同一カード6連敗」

 感染予防対策の一環として、パ・リーグが8月下旬まで実施したのが、「同一球団との6連戦」だった。なるべく移動を少なくするのが目的だったが、この変則日程の割りを食ったのがオリックス。6月23日から28日までのロッテ6連戦に、プロ野球史上初の“6戦全敗”を喫したのだ。

 敵地・ZOZOマリンに乗り込んでの戦いは、初戦を「5−6」で落とすと、2戦目以降も「4−6」、「0−5」、「5−6」、「1−2」とズルズル連敗…。そして、最終日の6戦目も、8回に同点まで追いついたものの、その裏、レアードに決勝ソロを浴び、「5−6」で敗れた。

 6敗のうち、なんと4敗までが1点差負けとあって、西村徳文監督(当時)は「勝てるゲームが何試合かあったのに、一番、最悪のことになってしまった」とガックリ…。

 通常の3連戦だったら、たとえ3連敗しても、翌日から対戦相手が変わるので、気持ちを切り替えることもできるが、6日間ずっと同じチームと戦いつづけると、最後まで悪い流れを引きずってしまうようだ。

 この6連戦だけが原因ではないが、結果的に6連勝のロッテはCS進出、6連敗のオリックスは最下位と大きく明暗を分けた。

◆ 阪神・矢野監督が試合中に審判と激しい口論

 “3密”防止のために換気を奨励したことが、思わぬトラブルを誘発したのが、9月26日のヤクルトvs阪神だ。

 1点を追う阪神は7回二死一塁、代打・髙山俊がショート後方に飛球を打ち上げ、西浦直亨が落球する間に、一塁走者・小幡竜平が一気に本塁を突いたが、石山智也球審の判定は「アウト!」。

 矢野耀大監督がリクエストを要求したが、リプレー検証を待っている間、次打者の近本光司が、ネット裏の記者席にいた記者から、何らかのアクションで「セーフ」という伝達を受けた。

 そして、近本がその情報を井上一樹打撃コーチに伝えたことを、審判団が「外部からの情報伝達の疑いがある行為」と判断。8回表の攻撃終了後、責任審判の森健次郎二塁塁審が、投手交代を告げるためにベンチを出てきた矢野監督に注意した。

 これに対し、矢野監督は「そんなんするわけない」と否定。ここから話し合ううちに興奮して口論に発展。試合は約5分間中断した。

 試合後、森審判は「どこの新聞社の人間かとかいうことを記者席に向かって聞いていた。たまたま(矢野監督が)交代を告げに来たときに、その場で話になってしまっただけ」と説明したが、中断の間、何の説明もなく待たされていたスタンドのファンは「一体どうなっているの?」とイライラしどおしだった。

 その後、該当記者ら関係者の聞き取り調査で、当時換気のため記者席の窓が開いており、映像を見ていた記者の「セーフ」の声やジェスチャーを近本が見聞きして反応した可能性が強いとして、情報伝達行為はなかったという結論に落ち着いた。

 感染防止対策で窓を開けていたことが、回りまわって、試合進行を妨げてしまうのだから、コロナという奴は本当に厄介だ。

文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

【久保田龍雄・プロフィール】
1960年東京都生まれ。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

この記事を書いたのは

久保田龍雄

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