山本昌さん・スペシャルインタビュー
新型コロナウイルスの影響により、予定よりも3カ月遅れて開幕した2020年のプロ野球。「無観客」でのスタートに、「交流戦」や「オールスター戦」の中止、セ・リーグでは「クライマックスシリーズ」も中止となるなど、さまざまな面から“異例のシーズン”と言われた中で、なんとか全12球団が120試合の短縮日程を消化することができた。
そんな歴史上類を見ない“異例のシーズン”を、プロ野球解説者たちはどう見たか…。
今回はセントラル・リーグの特別協賛スポンサーである株式会社JERAの協力の下、2020年のセ・リーグを振り返るスペシャルインタビューを実施。中日ドラゴンズOBの山本昌氏に、コロナ禍のプロ野球についてお話を伺った。
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撮影=兼子愼一郎
文・構成=尾崎直也
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「正直ショックだった」巨人の4連敗
上でも触れたような“異例のシーズン”、JERAセントラル・リーグの戦いを制したのは読売ジャイアンツ。2位の阪神に7.5ゲーム差をつけてのリーグ連覇だった。
しかし、日本シリーズでは前年に続いてソフトバンクに4連敗。昨季から数えて8連敗という屈辱を味わっている。
「10年間で9回、パ・リーグのチームが優勝しているんですよね。去年も力の差があるなと感じましたけど、今年のジャイアンツは特に意地を見せたいと思っていたはずなんですよね。去年は菅野投手が万全ではなかったというところもありましたので、今年こそは、と。それでも4連敗でしたので…。それも、パ・リーグにはソフトバンクに勝ち越しているチームがあるという状況。セ・リーグに32年在籍した私も正直ショックでした」
長らく球界の盟主として君臨していた球団だけに、その衝撃は大きい。日本シリーズが閉幕すると、各所から「どうやったらソフトバンクを、パ・リーグのチームを倒せるのか」といったテーマで様々な議論が沸き起こった。
「私もね、『山本さん、何か改革案ありますか?』とよく聞かれました。すぐどうにかできる改革案なんかはないんですよ。ないかもしれませんけど、ただ、こうしたらいいんじゃないか…というのはいくつかあります」
長らくセ・リーグで戦い、引退後も解説者として日本のプロ野球を見続けてきた山本昌さんが考える“案”とは…?
ここでは「2つ」のポイントを挙げてくれた。
提言1:交流戦の改革
日本シリーズ終了後、しばしばポイントとして挙げられたのが「DH制」について。12月14日には巨人が改めてリーグの理事会で指名打者制度の導入を提案したことが報じられたが、その直後に導入が見送られたことも追って報道された。
今回のインタビューでも、やはり“DH問題”についての話題はあがった。
「ソフトバンクにはデスパイネという専門家がいますね。一方で、セ・リーグのチームが日本シリーズでDHを使う場合、たいていは代打の一番手、もしくはレギュラーの守備に少し不安のある選手を回して、代わりに守れる選手を入れる。やっぱりここで“専門家”がいるかどうかというのは、1人でも大きなポイントになる」
しかし、山本昌さんは「すぐにDH制をなくせとか、そういうことはあまり思わないです」と言う。
「ピッチャーがバッターボックスに立って、そこでバントを決めるかどうかで流れが変わったり、代打を使うことによる継投で流れが変わったり、そういったおもしろさがセ・リーグの野球にはあると思う」
その前提の中で、山本昌さんが“提言”したいこととは…?
「来年からすぐ、というわけにはいかないでしょうけど、交流戦の試合をもう一度3試合ずつ、ホーム&アウェーの36試合制にする。そして、そこを全試合DH制ありで戦ったらいいと思います」
思い返して見ると、かつての交流戦は相手リーグと総当たりのホーム・ビジターで各球団36試合を戦っていたが、3年目の2007年から2連戦の24試合制に変更。現在は3連戦に戻したものの、「総当たりのホーム・ビジター」をやめた18試合制と徐々に縮小されてきた。
「36試合が交流戦でDH制ありとなると、シーズンの4分の1くらいはDHのことを考えた戦いになる。そうすれば、セ・リーグ各球団のチームづくりも変わってくると思うんですよ。どうしても一軍の枠には制限があって、セ・リーグだと守れる選手を重視しがち。パ・リーグのように打てればOKという選手を積極的に使うことができないので、それではDHの専門家は育ちません。チームづくりが変わっていけば、その差は縮まってくるのかなと」
提言2:ポストシーズンの改革
つづけて、山本昌さんはもう一つの提案をする。
「これだけ周りの方々からパ・リーグの方が上なんじゃないかという話題も挙がりましたので、クライマックスシリーズをセ・パ混ぜてやったらどうかな、という」
構造はこれまでと同じ、セ・パの優勝チームはシードとしてファイナルステージから登場。今回の案はその下、ファーストステージを対のリーグの2位・3位で争う、という考え。2020年に当てはめてみると、阪神(セ2位)と中日(セ3位)でファーストステージを実施し、勝ち上がった方がソフトバンク(パ1位)と対戦。日本シリーズの出場権をかけて戦う、ということだ。
この場合、ファイナルステージから登場する巨人(セ1位)がロッテ(パ2位)、もしくは西武(パ3位)に敗れる可能性もあり、その時は同一リーグのチーム同士で日本一の座をかけて戦う、という可能性も出てくる。
「そういう仕組みでやってみる、というのもおもしろいかなと思います。パ・リーグ同士になれば、やっぱりパ・リーグ強かったなと。セ・リーグの危機感もさらに増してきますし、セ・リーグ同士になれば、当然その逆ですね。リーグ同士の意識がより強くなってくるかなと思いますし、ちょっとずつ互いの差が縮まって来ないかなと。全然、現実味はない話なんですけどね」
かつては人気も実力もセ・リーグという時代から、「人気のセ・実力のパ」と呼ばれる時代に移り、今では人気の面でもパ・リーグが勢力を拡大中。こうして互いが互いを意識し、刺激し合ってレベルを高め合ってきた。
この10年で見えた“差”を受け入れて、この悔しさを乗り越えていくことができるか。2020年代、セ・リーグの逆襲に期待したい。
山本昌さんスペシャルインタビュー・動画はコチラ
今回の記事で取り上げた「対パ・リーグ」の話題はもちろんのこと、
今季のセ・リーグで印象に残ったシーンの振り返りや、
来季ひそかに注目している選手・チームについてもたっぷりと伺いました!