川相昌弘さん・スペシャルインタビュー
新型コロナウイルスの影響により、予定よりも3カ月遅れて開幕した2020年のプロ野球。「無観客」でのスタートに、「交流戦」や「オールスター戦」の中止、セ・リーグでは「クライマックスシリーズ」も中止となるなど、さまざまな面から“異例のシーズン”と言われた中で、なんとか全12球団が120試合の短縮日程を消化することができた。
そんな歴史上類を見ない“異例のシーズン”を、プロ野球解説者たちはどう見たのか…。
ベースボールキングでは、プロ野球OBで解説者である川相昌弘さんにコロナ禍で行われた今季のプロ野球についてインタビュー。今季のセ・リーグを独走した巨人における川相昌弘的MVPを選んでもらった。
主役を支えた縁の下の力持ち
何を語るにしても“異例の”という言葉が付きまとった2020年。特に開幕時期がずれ込んだことで日程が過密となり、選手たちにかかる負担も大きくなった。そんな中でリーグ連覇を成し遂げた巨人における「今季のMVP」を川相さんに尋ねると、少し意外な?選手の名前を挙げた。
今季のリーグMVPは、史上初の開幕13連勝を飾り投手タイトル2冠も達成した巨人の菅野智之投手だった。その他にも、本塁打と打点のタイトルを獲得し、4番として特に序盤のチームを支えた岡本和真選手、キャプテンとしてチームを牽引し、徐々に状態を上げて2000安打も達成した坂本勇人選手など、MVP獲得票の上位には巨人の主力どころが名を連ねたが、川相さんは今季の巨人における最大の不安要素をカバーした存在として、「鍵谷陽平投手」を選んだ。
「今年のジャイアンツがスタートする上で一番僕不安を抱えてたのはピッチャーだったと思うんです。山口(俊)が抜けた穴を誰が埋めるのか。本当に信頼できるピッチャーは菅野しかいない。だから、戸郷なのかサンチェスなのかと言われたが、この二人はやってみなきゃわからなかった。そんな中、年間を通して一番厳しい場面で投げていたのが、巨人の最多登板投手である鍵谷だったと思います」
今季の鍵谷はチーム最多の46試合に登板、3勝1敗13ホールド、防御率2.89という数字を残し、様々なシチュエーションでチームを救うピッチングを披露した。まさにシーズン全体を通しての貢献度という意味では、非常に大きな役割を果たした選手のひとりであり、現役時代に“いぶし銀”と呼ばれるプレーの数々で、陰ながらチームを支え続けた川相さんらしい視点だったと言えるかもしれない。
「開幕直後からテレビつければピッチャー交代で、ランナーが溜まった場面で鍵谷がよく出てきて、そこを抑えて、という場面が多かった。7月中旬くらいに楽天から高梨(雄平)が移籍してきて、チーム2位の登板数で頑張ったんですけど、最初から最後まで厳しい場面というか、負けているところでも投げてるのが鍵谷だった。これは、気持ちの持っていき方を含めて難しいことなんです。だから、どんな場面で行くかわからない中で、よく頑張ったと思う。最多登板も含め、投手陣全体を支える存在として大きかった」
川相さんは、途中加入で抜群の存在感を示した高梨の名前も挙げつつ、「ああいう縁の下の力持ちみたいな人がいるからこそ、メインの人たちが光る。そういう点で鍵谷は、本当によく耐えて頑張ったなと思うので。彼にMVPをあげたい」と語り、過密日程の中でフル回転し、試合の“つなぎ役”としてチームを支え続けた右腕にスポットを当てた。
先日、NPBアワーズの表彰式に置いて、リーグMVPを受賞、史上初の開幕13連勝を成し遂げた菅野が「チームメイトがつなげてくれた記録」と語ったように、ひとつの栄誉や記録の裏には、様々な選手の頑張りがある。
特に今年は、コロナ禍にあって、リーグやチーム関係者の努力がなければ開幕に漕ぎつけることはできなかったし、シーズンを完走する上でも専門家や医療従事者の存在は欠くことのできないものだった。そして何より、無観客によって浮き彫りとなったファンの存在の大きさと有り難さーー。そういった存在の大きさを再認識・再確認したシーズンにあって、陰ながらチームを支え続けた右腕を選出した川相さんの視点は、今季を象徴するものだったと言えるのかもしれない。
文=平野由倫(ひらの・よしのり)