優勝球団の先発投手成績は
昨季13年ぶりの2位で4年ぶりにAクラス入りを果たしたマリーンズ。今季は1974年以来の勝率1位でのリーグ優勝、2010年以来の日本一を目指す。
リーグ制覇するためには、昨季チーム打率リーグワースト.235、リーグワースト2位の461得点の打線の強化も必要になってくるが、それと同様に昨季以上に強固な投手陣を作っていく必要があるだろう。
昨季は新型コロナウイルス感染拡大によりプロ野球の開幕が3カ月遅れ、120試合制に短縮されたが、今季は再び143試合行われる予定となっている。143試合制となった15年以降、優勝チームの先発陣に注目してみると、その年ごとに状況が違うため単純に比較はできないが、優勝しているチームということもあり16年の日本ハム以外は、先発の勝ち星は全て1位となっている。チーム防御率2年連続リーグワーストで2連覇した西武も、チーム先発防御率は18年がリーグ5位、19年がリーグワーストながら、打線が強力だったこともあり、先発の白星が伸びた。チーム先発防御率が悪いので、早いイニングで先発投手がマウンド降りていると思いきや、18年、19年ともに先発の投球回数はリーグトップの数字だった。
“打”の西武以外の優勝したチームの先発成績を見ると、チーム防御率は1位と2位しかない。不安定な投手陣を補うだけの打線があれば西武のようにリーグ連覇できるが、基本的には先発陣が試合を作り、安定した投球を見せていく必要があるだろう。
▼優勝球団の先発投手成績
()はリーグ順位
・2015 ソフトバンク
67勝38敗 911回1/3 防3.31(勝利:1位、投球回:1位、防御率:1位)
【主な先発】
武田翔太 13勝6敗 164回2/3 振163 防3.17
スタンリッジ 10勝7敗 144回1/3 振81 防3.74
摂津 正 10勝7敗 134回 振92 防3.22
中田賢一 9勝7敗 155回1/3 振130 防3.24
・2016 日本ハム
61勝40敗 849回1/3 防3.25(勝利:2位、投球回:4位、防御率:2位)
【主な先発】
有原航平 11勝9敗 156回 振103 防2.94
大谷翔平 10勝4敗 140回 振174 防1.86
・2017 ソフトバンク
68勝37敗 833回1/3 防3.46(勝利:1位、投球回:4位、防御率:2位)
【主な先発】
東浜 巨 16勝5敗 160回 振139 防2.64
バンデンハーク 13勝7敗 153回 振162 防3.24
千賀滉大 13勝4敗 143回 振151 防2.64
・2018 西武
65勝39敗 858回1/3 防4.17(勝利:1位、投球回:1位、防御率:5位)
【主な先発】
多和田真三郎 16勝5敗 172回2/3 振102 防3.81
菊池雄星 14勝4敗 163回2/3 振153 防3.08
榎田大樹 11勝4敗 132回2/3 振98 防3.32
・2019 西武
54勝44敗 809回 防4.64(勝利:1位、投球回:1位、防御率:6位)
【主な先発】
ニール 12勝1敗 100回1/3 振51 防2.87
高橋光成 10勝6敗 123回2/3 振90 防4.51
今井達也 7勝9敗 135回1/3 振105 防4.32
松本 航 7勝4敗 85回1/3 振65 防4.54
・2020 ソフトバンク
57勝28敗 678回 防3.11(勝利:1位、投球回:2位、防御率:1位)
【主な先発】
千賀滉大 11勝6敗 121回 振149 防2.16
石川柊太 11勝3敗 111回2/3 振103 防2.42
東浜 巨 9勝2敗 119回 振102 防2.34
和田 毅 8勝1敗 85回2/3 振75 防2.94
マリーンズの先発陣
話を再びマリーンズに戻すと先発陣は昨季、石川歩が21試合中19試合で6イニング以上投げたように、基本的に長いイニングを投げる傾向にある。先発陣が昨季投げた700回2/3はパ・リーグトップ。
そのため、先発投手の指標のひとつにあたるQSも、リーグトップの62だった。石川がリーグトップタイの14QS。美馬学、二木康太、小島和哉の3人も10QSを達成し、10QSを4人以上達成したパ・リーグのチームは、マリーンズだけである。
制球の良い先発が多く、規定投球回に到達した投手のなかで美馬が最も少ない25与四球、石川が次いで26与四球、規定投球回に届かなかったものの二木康太が92回2/3を投げて14与四球と、202与四球はリーグ最少ということも、長いイニングを投げられた要因のひとつではないだろうか。
リーグ優勝するためには、チーム防御率をもう少し改善させる必要がありそうだ。マリーンズの昨季先発防御率はリーグ4位の「4.07」。規定投球回に到達した美馬の防御率3.95、石川が4.25だった。18年と19年の西武を除くと、優勝チームの先発防御率は3点台前半にまとめている。昨季までのように長いイニングを投げつつ、今季は失点数を減らしていきたい。
“勝ち頭”と呼ばれる投手も必要になってくる。昨季マリーンズは8月(.667)と9月(.577)と月間トップの勝率を誇ったが、その時に石川は7月31日の楽天戦から9月4日のソフトバンク戦にかけて6連勝。8月は4試合に登板して、4勝0敗、防御率3.46で月間MVPにも輝いた。美馬も8月11日の日本ハム戦から10月4日の西武戦にかけて自身7連勝している。過去の優勝チームを見ても、1人の投手で貯金を10近く作っているケースが多い。8月、9月のように勝ち星を挙げられる投手が年間通して2人、もしくは時期によって勝てる投手が出てくることが望ましい。
そういった意味でも、二木に期待したい。昨季は開幕直後に不安定な投球で二軍落ちしたが、再昇格した8月以降は同月29日のオリックス戦から10月16日の日本ハム戦にかけて自身6連勝。8月以降は9勝2敗、防御率2.63という成績を残した。
二木は19年の前半戦、威力のあるストレートに、落差のあるフォークで安定した投球を見せていたが、後半はストレートを弾き返され、力強いストレートをシーズン通して投げられなかった過去がある。昨季もそうだが、“力強いストレート”が投げ込めれば、結果を残すことをここ数年で証明してきた。シーズン通して“力強いストレート”を投げ込むことができれば、自身初の2桁勝利も夢ではない。王者・ソフトバンクに相性が良く、19年から7連勝中で、昨季も3勝を挙げるなど非常に頼もしい。二木が美馬、石川を脅かす存在になってくれば、相乗効果で小島、岩下大輝といった他の若手先発陣の上積みに期待がもてそうだ。
現時点で不安点があるとすれば、昨季終盤に加入し4戦4QSを達成したチェン・ウェインが阪神へ移籍し、種市篤暉、西野勇士が右肘手術で開幕から投げられないことに加え、先発投手陣に不調、故障者が出た場合のことを考えると、6番手以降がやや手薄なことか。ここをチャンスと捉え、19年にプロ初勝利を含むチーム最多タイの8勝を挙げた種市篤暉のように、一気に先発ローテーションを掴む投手が出現することを願いたい。
チーム状況やその時のパ・リーグ全体の野球などの違いがあるとはいえ、先発陣の安定はリーグ制覇する上では条件のひとつ。21年シーズン、マリーンズ先発陣がどんな投球を見せるか注目だ。
▼ 主な先発陣の昨季成績 ※成績は先発のみ
石川 歩 21試 7勝6敗 133回1/3 振77 四26 防4.25
美馬 学 19試 10勝4敗 123回 振88 四25 防3.95
小島和哉 20試 7勝8敗 113回1/3 振83 四47 防3.73
二木康太 15試 9勝3敗 92回2/3 振79 四12 防3.40
岩下大輝 16試 6勝7敗 87回2/3 振71 四33 防4.31
中村稔弥 11試 2勝5敗 50回2/3 振27 四22 防4.80
種市篤暉 7試 3勝2敗 46回2/3 振41 四15 防3.47
チェン・ウェイン 4試 0勝3敗 26回 振14 四4 防2.42
文=岩下雄太