強いストレート
「強いボールを投げるというのが一番の課題。いろいろと話を聞いて、一軍と二軍の違いを聞いた感じだと、変化球だと逃げられないとおっしゃっていました。まっすぐの強さ、キレ、そういうところをしっかりと磨いていきたいと思います」。
今からさかのぼること約1年半前の2019年10月1日の取材で、ロッテの古谷拓郎は先輩たちの話を聞いて、一軍の舞台で活躍するために、“ストレート”を強化していくことを決意した。
あれから1年半が経ち、「まだ強いボールをコントロールできるまで仕上がっていないんですけど、そこは変わらず追い求めているところです」と今も変わらず“強いボール”を求めて試行錯誤を続けている。
フォーム改革でスピードアップ
話を2020年に戻すと、3月20日のソフトバンクとの一軍練習試合で48球中29球のストレートを投げ、最速148キロを計測。ストレートはほとんどが140キロ台中盤をマークするなど、徐々に成果が形として現れているように見えた。
そんな中、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、プロ野球の開幕が延期となった。開幕がいつになるか見えない中で、古谷はこの期間を有効に活用した。
「自粛期間中のときにオンラインサロンに入ってそこで得た情報をもとに、寮のウエイト場で投球フォームを改革した結果、スピードがあがったかなと思います」。
3月のソフトバンク戦との練習試合のときよりもストレートのスピードがあがり、プロ初登板となった10月10日のソフトバンク戦では、ストレートの最速が152キロを計測するなど、150キロ以上を9度記録。この日投じたストレートは全て145キロ以上だった。
変化球もスピードアップ
スピードが上がったのはストレートだけじゃない。変化球もチェンジアップ、スライダーのスピードが上がり、この春季キャンプの映像を見ていると、カーブのスピードも上がったように見える。今は、全体的にストレートの速さに近い軌道の変化球を投げている。
スライダーについては「曲がり幅を小さくして、球速をあげる意識で投げていましたね」と話す。その中でも筆者個人が印象に残ったのは、昨年プロ初登板でソフトバンクの柳田悠岐から空振りを奪ったスライダー。古谷は「カットとスライダーの間くらいのボール。完璧には投げきれていないんですけど、いいコースにいったので、結果的に空振りが奪えたと思います」と振り返った。
プロ1年目はフォークとチェンジアップを時期によって投げ分けていたが、昨季はチェンジアップを投げていた。そのチェンジアップは、「落差をあまり意識せずに奥行きを出せればと投げている結果、あれくらいの球速のチェンジアップになったと思います」と教えてくれた。
カーブに関しては「これまで投げているカーブを残しつつ、空振りだったり決め球という部分でなかなか決める部分がない。スピードをあげることで奪三振率をあげていったり、高めのストレートとの軌道を近づけるには、今のカーブより速いカーブにした方がピッチトンネルがあってくる。空振りを取るボールにしたいという意図があって、パワーカーブを今練習中ですね」と、速いカーブの習得に励む。
奪三振数も向上
奪三振数もファームでいえば、1年目の19年は50イニング・27奪三振だったが、20年は36回1/3・32奪三振と、奪三振数が飛躍的に向上。
古谷は「ストレートに力が出てきたのもそうですけど、去年ファームが開幕してから夏場に怪我するまでの何試合かは変化球でカウントが取れていた。そこが、大きく違ったところだと思います」と説明した。
制球面に課題
スピードが速くなった一方で、気になるのは制球に苦しむことが増えた点だ。
“頭で思い描いている感覚を自身の体で思うように操れていないことが原因なのだろうかーー。
「イメージと体の動きでまだギャップがあって、思うようなコントロールできていないなというところです」。
「いい時と悪い時のムラが激しい。いいときの調子みたいなものを継続していければ、もう少しよくなるのかなと思います」。
特に、プロ1年目は本人が「コースを突いて、タイミングを外してかわすピッチングをしていた」と話すように、コントロールに苦しむことなく簡単にストライクが取れていた。古谷本人のなかで今の現状にモヤモヤしたりすることはないのだろうかーー。
「指先の感覚が今までと違うところがあって、今まで簡単にストライクを取れていたところに苦しむというのは少し、“気持ちが悪い”というか、そういうところはありますね」。
打撃投手を務めた8日の練習では、藤原恭大に対して2度当ててしまうなど、“らしくない”投球が目立った。
「昨日のまっすぐも全然思うように投げられなかった。まだまだ修正が必要ですし、このままだと開幕一軍スタートは厳しいと自分の中で思っている」と危機感を募らせる。
具体的な修正点については、「まずはまっすぐを完璧にコントロールできなくても、ゾーン内にしっかり強い球を放る。それができてくれば、もう少し形になってくると思う」と話した。
2月11日の紅白戦を皮切りに、先発ローテーション入りをかけた熾烈な戦いが本格化する。「ドラ1の鈴木昭汰さんや中村稔弥さんたちと争うことになると思うんですけど、使ってみたいなと思われるような期待感のピッチングができたらいいなと思います」と意気込む。飛躍の3年目にするためにも、練習試合から力強いストレートで押していき、どんどんアピールしていきたいところだ。マリーンズファンは古谷が一軍のZOZOマリンスタジアムのマウンドで、躍動することを楽しみにしている。
取材・文=岩下雄太