DeNA・森敬斗

◆ 球団、そしてファンからの大きな期待

 横浜DeNAベイスターズにとって、いやファンにとって、森敬斗はまぎれもなく“期待の星”だ。

 いつ一軍のグラウンドで輝くのか、誰もが心待ちにしている。

 U-18ワールドカップなどで活躍した森は、2019年のドラフト会議で1位指名され桐蔭学園高校からDeNAに入団した。

 高卒野手のドラ1指名は2009年の筒香嘉智以来であり、2012年にDeNA体制となってから、森の入団まで毎年のように大卒の即戦力投手を指名してきたことを考えれば、球団の期待の大きさが窺われる。

 長い期間ポジションを任すことのできる生え抜きの高卒ショートストップを育てる――。これが球団の大きなミッションであり、急務でもある。

 内野の守備の要であり、高いレベルの技術や判断力が必須のショートではあるが、現在DeNAの一軍は、大和を筆頭に倉本寿彦と柴田竜拓が任されている。

 ただ大和は33歳、倉本は30歳、そして柴田は27歳と年齢層が高く、次世代のショートの育成は必須。森は昨年のルーキーイヤーと今季、ファームでそのほとんどをショートとして試合に出場し英才教育を受けている。

 「もともと守備には自信がなかったのですが、この1年で少しは安定感も出てきて上達しているとは感じています」

 抜群の反応の良さと俊足を活かした守備はダイナミックでありスピード感がある。

 一方で、勢いあまって無駄な動作が見受けられることもあるが、肩も強く見ていてプロらしい心躍る雰囲気を持ち合わせている。

◆ 不動の遊撃手として期待される資質

 ベイスターズの近代史を紐解いても、高卒ショートとして通用したのは進藤達哉や石井琢朗、石川雄洋ぐらいしかおらず、森にはぜひ内野の中心選手として近い将来、不動の遊撃手としてチームを牽引してもらわなければならない。

 もちろん一軍で通用するにはバッティングも重要だ。

 昨季はファームで58試合に出場し打率.210、本塁打2と厳しい数字が並び、本人も「もう少しやれるのではないかと思っていたのですが、こんなにも打てないものかと悩みました」と振り返っている。

 ただ、シーズン後半になるにつれ、ボールに力負けすることなく、自分のスイングができるようになってきた。

 また、今季は課題だった甘いボールを仕留められるようになり、ここまでファームで打率2割台半ばとまずまずの数字を残している。

 さらに盗塁の技術は改善の余地はあるものの、走力はチームトップクラスであり、内野安打や走塁でも勝利に貢献できる選手であることは間違いない。

 
 なにより森に刮目してしまうのは、その持って生まれたプレイヤーとしての“華”ではないだろうか。

 昨シーズン、森は10月27日の巨人戦で一軍デビューを果たしているのだが、8回に代打で名前がコールされると、横浜スタジアムの空気がふっと変わるのが感じられた。18歳の青年の一挙手一投足に誰もが注目せずにいられなかった。

 巨人のビエイラが投じた154キロのストレートを森は弾き返し、打球はぐんぐんと伸びレフトフェンス直撃の2塁打になった。上出来のデビューだった。

 「打った瞬間、横浜スタジアムの歓声がすごいなって。ストレートの強い選手からしっかりスイングできましたし、それまで取り組んできたことに対する結果を出すことができ、自信になりました」

 結局、一軍で森はスタメンも含め4試合に出場し、12打数3安打でルーキーイヤーを終えている。

 伸び伸び溌剌としたプレーは、十分にインパクトを残すものだった。

◆ 見据える高みへ駆け上がれるか!?

 成長段階であり、まだ線が細く見える森ではあるが、このオフは高校の先輩である楽天の鈴木大地の自主トレに参加しパワーアップを試み、手応えを感じているようだ。

 「今季の目標は一軍に定着です。一軍で結果を出せることをしっかりとアピールしたい」

 目線の先は遥か高みへと向かい、本人はもちろん誰もがその日がくることを願っている。

 今季から一軍を指揮する三浦大輔監督は、昨年ファームの監督として森を起用し見続けてきただけに、その特徴を知り尽くしている。

 昨季、三浦監督は「高校生離れしたスピードとスター性を兼ね揃えている」と森を評し、期待をする選手として名を挙げている。

 まだまだ育成の段階であり時期尚早かもしれないが、一気に実力を開花させるだけのポテンシャルはある。一軍の遊撃手になにかあれば、今季一気に台頭する可能性はあるかもしれない。

 チャンスはいつ訪れるのか、誰にもわからない。森は果たして実力を持って、運をも引き寄せることができるのか注目したい。

文=石塚隆(イシヅカ・タカシ)

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