一軍で躍動することが“恩返し” (C) Kyodo News

◆ 「気合入れて打席に」

 “一軍級”の放物線を描いた。

 阪神タイガースの2年目・小野寺暖は、絶好と言えるアピールの場に立っていた。

 22日、ソフトバンクとの二軍公式戦で対峙したのは武田翔太。

 開幕ローテーション入りしながら二軍調整中だった右腕とのマッチアップに、力が入らないはずがなかった。

 「次の目標が一軍に上がることなので、ああやって一軍で投げているピッチャーから。他のピッチャーよりも、今日は気合入れて打席に立ちました」

 前のめりになるのも当然だ。

 4日前の18日、球団と支配下契約を結んだことを発表。1年目から付けていた「127」の背番号は「97」と一気に軽くなった。

 育成契約というハードルをクリアし、他の選手と同様に昇格を争う権利を手にしたハングリーな若虎にとって、昨年まで通算59勝をマークしているホークスの右腕は格好の“獲物”。1打席目にボールをしっかりと見極めて四球を選ぶと、4回一死一塁で迎えた第2打席に襲いかかった。

 2球目の144キロ直球を仕留めた打球は、弾丸ライナーで左翼後方の防球ネットを直撃。今季2号、支配下登録後初安打を、豪快な一発で記録した。

 「良いピッチャーで甘い球は何球も来ない。1球で仕留めるというのが今日の課題だった」

 1球目は直球がボールになっていた。一軍の強打者たちを封じてきた武田の宝刀・カーブも頭にあった中で、2球連続で直球に狙いを設定。「どっちかというのをはっきりと分けて。1球、1球決めて打席に立った」と振り返った。

 ミスショットは許されないという“一軍思考”でのフルスイング。取り組みが結果となって現れた。

◆ 一軍で活躍することが恩返し

 直近の2試合は力みもあってか、無安打。

 「支配下になって力むことが多かったんですけど、結果は悪くなかった」とプラス志向をしぼませず打席に入っていた。

 ガムシャラに結果にこだわってきた育成選手の期間とは違い、これからは「一軍の戦力」というフィルターを通して、評価されていく。

 問われるのは内容や質。だからこそ、一軍で経験豊富な投手から打ったことに価値がある。

 3打席目も詰まりながら中前へ運び、武田から2安打。平田勝男二軍監督は「一発だけで終わらず2本目も打つのは成長してる。値打ちや」と目を細めた。

 出場機会を増やすべく、現在は本職の外野だけでなく、一塁や三塁も守り始めた。

 中学校以来という内野守備にも首を傾げることはしない。

 「いろんなところを守れた方が、レギュラーになる可能性も一軍に上がる可能性も上がる。全てのポジションでレギュラー獲るぞというぐらいの気持ち」

 一軍という大舞台を目指すだけでなく、プロ野球選手として励みにする存在が、母・由子さんだ。

 中学生の時から女手一つで育ててもらい、約1時間の駅への送り迎えなど野球に集中できる環境を整えてくれた。

 支配下契約で手にする契約金でプレゼントを購入することも決めているが、唯一無二の“恩返し”はグラウンドでの躍動だ。

 5月9日の母の日。その時に一軍にいることが、小野寺の当面の目標になりそう…と本稿を書き終えたまさにその瞬間、北條史也の故障に伴ってプロ初の一軍昇格が緊急で決まった。

 あとは感謝のサクセスロードを猛進するだけだ。

文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)

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