「貢献したい」
「毎日必死でやっていますし、僕が被った試合は何かしら貢献したい。1試合でもチームに、勝ち星をつけられるようなキャッチャーに成長していきたいと思います」。
ロッテの11年目の捕手・江村直也は、このチャンスを活かそうと毎日を必死に過ごしている。
正捕手の田村龍弘が『左大腿二頭筋肉離れ』で離脱し、柿沼友哉も新型コロナウイルスの陽性判定を受け登録抹消中と、開幕から一軍でマスクを被ってきた2人の離脱はチームにとって痛い。ただ選手個人に目を向ければ、一軍で居場所を掴むチャンスでもある。
「自分のチャンスはもちろんそうなんですけど、まずはチームの勝利を最優先に考えている。自分がマスクを被った試合というのは、1試合でも多く勝てるようにというのをすごく意識してやっています」。
とにかく江村は、“チームを勝利”に導くこと、“チームの勝利”に貢献することを第一に考えている。
キャンプからファーム
2月の春季キャンプから江村は、ファームで過ごしてきた。
「いつ呼ばれてきてもいいように準備はしてきたつもり。一軍でやることを目指してずっとやってきましたし、そこを意識しながら、二軍で取り組んでいました」。
“準備”のなかで特に力を入れてきたのが守備練習。
「ブロッキング、スローイング練習だったりというのは、特にこだわってやってきました」。
ファームでは、開幕してから大卒2年目の佐藤都志也が優先的に先発起用され、なかなか江村に出番が巡ってこなかった。4月23日に佐藤が一軍昇格を果たすまでの19試合を見ても、佐藤が14試合にスタメン出場しているのに対し、江村は4試合のスタメン出場だった。(植田将太のスタメン出場1試合)
「僕に関しては、(プロ入りしてから)チャンスをもらってきた人間。二軍は若い子の方が、出る試合数は多くなってくる。そのぶん1試合の大切さは感じています」
「たとえば試合に出られなかったら、守備練習を多く入れたりとか、出てなかったら出てないでやることはいっぱいあると思うので、二軍のときは金沢コーチとかと一緒に練習していましたね」。
いつ一軍に呼ばれてもいいように、出場試合数が少ない中でも、自分のできる準備をしっかりと取り組んできた。
ついに一軍へ
4月28日に田村が『左大腿二頭筋肉離れ』により一軍登録を抹消されると、同日に江村が今季初昇格を果たした。
江村は昨季9月14日のオリックス戦で完封勝利に導いた二木康太が先発のときに、スタメンマスクを被る。
スタメンで出場するときには「トータル的に考えたら、後ろのことも考えないといけないですし、終盤に向けての攻め方も考えないといけない。二木の状態もありますし、バッターを見ながら。スタメンで出るときは、1試合トータルで考えますね」と教えてくれた。
二木が先発以外では、試合終盤の守備固めで登場するケースが多い。
途中から出場するときには「ミーティングでは“こういう攻め方だった”けど、“実際はどうかな”とか、“まっすぐ振り遅れたり”、“こういう攻め方をしたから次はこういう攻め方をしようかな”と自分で考えながら、試合を見るようにしていますね」と実際に自分がマスクを被っていることを想定し、ベンチで戦況を見つめる。
江村の出番は、主に“勝ち試合”の“抑え捕手”のような役割だ。勝利に導いて当たり前というような、プレッシャーがあるなかで、試合終盤にマスクをかぶる。
「プレッシャーはありますね。そのぶん、期待されて試合に出させてもらっているので、やるしかないですね」。最後の1つのアウトを取るため、頭をフルに使う。
ここ数年は毎日必死
江村は昇格してから守備面だけでなく、打撃面においても、5月1日の楽天戦で空振り三振に倒れてしまったが、田中将大からファウルで粘れば、5月18日のオリックス戦でもボール球に手を出さずしっかりと四球を選ぶなど、“必死”さが伝わってくる。
「正直、バッティングはよくないので、ちょっとでもいやらしいバッターというのを意識しています」。
この必死さというのは、ここ数年練習を見ていても強く伝わってくる。2019年の11月にロッテ浦和球場で行われた秋季練習では、鴨川秋季キャンプに参加していた選手たちに負けじと、野球がうまくなるため1分1秒を無駄にすることなく汗を流した。全体練習が終わったあとも、室内練習場でマシンを相手に黙々とキャッチングや、バッティングマシンを相手に打ち込みに励む姿が印象的だった。
江村自身も「もう11年目ですからね。若くないので、ここ何年か危機感というのは正直ありますね」と話し、「家族もいますし、僕だけの人生ではないので、そういう面では必死さというか、焦りはありますよね」と率直な想いを明かした。
主力選手の離脱で巡ってきたチャンス。なんとしても一軍で貢献しよう、活躍しようとするその必死さこそが、江村直也の強みだ。積み重ねてきた取り組みは嘘をつかないということを証明するためにも、チームの勝利という結果で示したい。
取材・文=岩下雄太