ヤクルト・青木宣親

◆ 第17回:青木宣親が植えつけた魂

  球界屈指の安打製造機が、また一つ金字塔を打ち立てた。5月26日の日本ハム戦(神宮)で、ヤクルトの青木宣親が日米通算2500安打を達成。

  カウント3ボールから日本ハムの加藤の投じた4球目を右前へ弾き返し、日米通算では史上4人目の偉大な記録に到達した。過去にはイチロー、松井秀喜、松井稼頭央の3人しか成し得なかった偉業だ。

「今まで本当にいろいろな方たちに支えられて2500本安打という数字までくることができました。これからもチームの勝利のために1本でも多く打てるように努力したいと思います」

  2012年から6年間米国でプレーした青木はMLBで通算774安打を放ち、2018年に再び日本球界へ。古巣のヤクルトに復帰し、プレーはもちろん、言葉や背中でチームを引っ張ってきた。
 
 青木は今季、開幕早々に新型コロナの濃厚接触者に認定され、戦線を離脱。復帰後は打率2割台前半と低迷しているが、5月5日の阪神戦(神宮)では、8回二死三塁の場面で二塁への当たりを気迫のヘッドスライディングで内野安打に。溌剌としたプレーでチームを盛り上げた。

 高津臣吾監督も、そんな青木の姿勢に対して「バットで貢献できなくても他のところでチームをまとめていこうというところが、最後のいい当たりでは決してないですけど、気持ちの入った一打とスライディングだったんじゃないかなと思います」と、称賛した。

 打撃の状態は上がらずとも、青木がチームの中心にいることに変わりはない。その姿は、若い選手たちに大きな影響を与えている。
 
 21歳の村上宗隆がベンチで大きな声を出してチームメイトを鼓舞する姿は、もはや当たり前の光景になりつつある。村上はこう言う。
 
「チームが暗いとき、負けたとき『次、次』という声も青木さんが率先して出しています。そういう姿を僕たちは見てきているので、そういう声出しをしていきたいと思っています」

 グラウンドでプレーしているときだけでなく、ベンチでも戦う姿勢を崩さない。

 指揮官も「今年はみんなよく声が出る。当たり前なんですけど、気の利いた一言であったり、元気づける言葉であったり、自分に対してもチームメイトに対してもそういう声が良く出ている気がします」と、チームの変貌ぶりを実感している。

◆ 次世代の選手たちの成長

 2年連続最下位から巻き返しを狙うヤクルトは今季、ここまでセ・リーグ3位と健闘を続け、交流戦に突入した。現状の戦いぶりを見ると、これから青木の後を受け継いでいく次世代の選手たちの成長が、好調の原動力となっている。

 NPB通算打率トップに立ち続け、数々の記録を残してきただけでなく、青木はヤクルトというチームに戦う姿勢を植えつけてきた。

 昨年オフにFA権を行使せず残留を決めた山田哲人は、青木のチームを引っ張る姿勢を見て、自らキャプテンに立候補。キャプテンマークをつけた28歳の山田は今季3番に座り、4番の村上と共にチームを支えている。

 「チーム全体で底上げができている。着実に前に進んでいる気がする」。青木のこの言葉が、チームの明るい未来を示している。

文=別府勉(べっぷ・つとむ)

もっと読む