『九州アジアリーグ』の加盟準備球団として
5月26日、かねてから話題になっていた「ホリエモン球団」設立の記者会見がオンラインで行われた。その名も「福岡北九州フェニックス」。先月に球団運営会社が立ち上がり、今シーズンスタートした独立プロ野球リーグ『九州アジアリーグ』の加盟準備球団として、これから本格的に球団づくりをしていくという。会見には、まず球団社長に就任した槇原淳展(あつのぶ)氏が、続いて球団取締役の堀江貴文氏が登壇した。
球団設立の準備は秘密裏に進められ、本拠となる北九州市や地元NPB球団・福岡ソフトバンクホークスなどへの挨拶の後、地元への「仁義」をきるかたちで地元紙・西日本新聞社(ちなみに西日本新聞社はかつてNPB球団・西日本パイレーツを保有していた)より22日に報道がなされた。
その後、リーグや加盟球団、火の国サラマンダーズ関係者への問い合わせが殺到したため、夏以降にリーグ当局とともに行う予定だった記者会見を一部前倒しするかたちで急遽「球団設立会見」を行った。
まさに蘇った不死鳥
堀江氏と言えば、17年前の「球界再編騒動」の中心人物。パ・リーグに球団新設の話が出た際には、名乗りを上げ、「仙台ライブドア・フェニックス」を立ち上げたが、審査では楽天に軍配が上がり、プロ球団「フェニックス」は幻に終わってしまった。しかし今回、独立球団ではあるものの、フェニックスはその名の通り不死鳥のように蘇ったかたちだ。
きっかけは堀江氏が主宰するオンラインサロンだったという。
「僕のサロンのコンセプトが『これからの生き方』なんです。人生、面白いことやっていこうよって。それで、スポーツというのは楽しい時間を過ごすコンテンツだねって話になって、独立リーグなんてどう?ってなったんです」。
堀江氏は、かつてバスケットボールチーム、ライジングゼファー・フクオカの経営に共に携わった火の国サラマンダーズ社長の神田康範氏に球団設立の意志を伝え、好感触を得ると、その話をサロンで披露したという。
「独立リーグに球団創ってみようか」。
その堀江氏の言葉に真っ先に反応したのが、槇原氏だった。
「仕事辞めて、九州行きます」。
という槇原氏の言葉に堀江氏は社長就任を即決。それまで自ら事業を手掛けていた槇原氏に経営を任せることになった。
なぜ北九州?
北九州に本拠を置くことに決めたのは、自身が福岡(八女市)出身である上、オンラインサロンのメンバーで、2019年5月に民間単独で初めて宇宙空間に到達した「ホリエモンロケット」のスポンサーでもあった竹森広樹氏がここを活動拠点としており、球団経営にも参画する意志を示したことも背景にあった。
福岡で圧倒的な人気を誇るホークスの存在はあるが、そのホークスも年間数試合を行う北九州市の可能性に堀江氏も槇原氏も大きな期待を抱いているという。
「北九州市は人口90万の大都市。人口当たりのプロ野球選手輩出率も高い。その野球の盛んな地域だから大いに可能性はあります」と槇原氏。
本拠球場としてはホークスも使用する北九州市民球場を第一候補とするが、学生野球など他団体とも調整の上、周辺の球場も使用する予定だという。
「球団設立」とは言え、現在は球団運営会社が立ち上がっただけの状態。今後は約1億円と言われる資金を得るべくスポンサー集めが待っている。球団運営については、「一歩引いたところで見守っていきたい」と、基本的に槇原氏らに任せるという堀江氏も、この面に関しては「球団の顔」として奔走するつもりのようだ。
堀江氏は言う。
「球団を創るって言っても、1年で終わるようなものではダメ。継続できる体制が大事です。でも何年もかけて参入というのではなく、スピード感をもって来年には加盟できそうだということで球団立ち上げを決めました」。
「もちろんチケット収入も考えていますが、最初は微々たるものでしょう。サッカーのFC今治さんなんかも参考にして、小口のスポンサーも含めて広く資金を集めようと思います。今、つながりのある会社に打診しているところです。 オンラインサロンのイベントでも数千万集めた実績もありますし、何とかなると思います」。
会見では、具体的なチーム編成についての質問も出たが、これについては「全くの白紙」(槇原氏)の状態。少ないスタッフの中、まずは財政基盤を安定させることに注力するようだ。
「これからの10年はアジアの時代」
かつてNPB参画を目指したこともある堀江氏には、NPBとのかかわりについての質問も飛んだが、堀江氏は新チームもニックネームも含めて「あまり深くは考えていない」と前置きしながら、自分の中ではNPBも独立リーグも区別はなく、独立リーグの存在が野球の裾野を広げていることは、先行の独立リーグ『ルートインBCリーグ』の埼玉武蔵ヒートベアーズの経営に参画して実感していると答えた。
その上で、チーム編成などからNPBを一旦去らねばならなかった選手が独立リーグでプレーし、またNPBに戻るというような人の行き来が盛んになれば、独立リーグもレベルアップし、そのような人的交流がアジア全体に波及すれば、アジアのプロ野球界に「スーパーリーグ」構想が起こり、メジャーリーグに対抗できるのではないかとの将来的な展望まで語ってくれた。
「僕はこれからの10年はアジアの時代だと思っている。人口増加率もトップだし、経済成長も著しい。そういう中の礎が独立リーグだと思うんです。層を厚くするという点でね。言われているNPBの16球団構想にしても、いま自分たちがどうこうと言うわけではないです。将来的に拡張の話になって、その上で、北九州に(新球団設立)となれば検討の余地があるかなという感じですね」。
それよりも堀江氏の目は、独立球団を使った新たなエンタテインメントの創造にあるようだ。
「野球に力を入れないわけではないですが、球場でライトなファン、たまにしか野球を観に来ないような人も楽しめる仕掛けづくりをしたいですね。つまり野球とエンタメ要素が同等という感じです」。
その言葉の先には、自前の球場、ボールパークという大きな夢も広がっているようだ。来年春の開幕戦には、球場に必ず足を運ぶという。
会見の最後は、現場を任された槇原社長が次の言葉で締めくくった。
「北九州を盛り上げたい、北九州市民に面白いと言ってもらいたいです」。
不死鳥は今、九州へ旅立とうとしている。
取材・文=阿佐智(あさ・さとし)