10万人を検査して明らかになった「ケガをする人に共通する特徴」をベースに、ケガのリスク診断を行うテスト、それが『フィジカルチェック』です。テスト後にはフィードバックシートで体の部位別のケガのリスクが数値で明らかにされるだけでなく、ケガを防ぐための改善エクササイズまで教えてくれます。この『フィジカルチェック』を開発したケガゼロプロジェクト代表理事の荒川優さんと理学療法士の亀山顕太郎さんにお話を伺いました。
——「フィジカルチェック」が誕生したいきさつから教えてください。
亀山 まず、ケガをして痛みがでてからではなく、痛みがでる前にトレーニングを行うことが障害予防とパフォーマンスアップに繋がるという思いが根本にありました。しかし、これでまでは「ケガをしないためにこのトレーニングをやって」と選手に話してもなかなか浸透しませんでした。
——なぜ浸透しなかったのでしょうか?
亀山 天気予報と同じだと思うんです。毎日傘を持っていれば雨に濡れることはないですが、毎日傘を持ち歩く人はほとんどいませんよね? でも「今日は90%の確率で雨が降るよ」と言えば、ほとんどの人が傘を持っていくと思います。同じように「このままだと○○%の確率で□□をケガをする。だからこういうトレーニングをやってね」と数値で見せてあげることによって、リスクの高い人がしっかりトレーニングにと入り組んでくれるようになる、そんなシステムを作りたいと考えたんです。
——そういった予測の素になるデータも千葉県を中心に亀山先生が集めておられたんですよね?
亀山 千葉と東京を中心にチームなどにも協力して頂いて、多くのフィジカルチェックを行ってデータを集めました。その後に追跡調査を行うと何ができなかった選手が半年後、1年後に「これができないとケガをする」というのが分かるんですね。そうすると次の年には「これができていないと半年後にこんな確率でこんなケガをする」という予測ができるようになります。
——そのようにして集めたのべ10万人以上のデータから導き出されたのが21のチェック項目になるわけですね。
荒川 はじめは200数項目あったチェック項目を統計的に絞って今の21項目に現時点ではなっています。
——あらゆるスポーツからデータを取ったと思いますが、野球という競技特性から多いケガはやはり肩、肘になるのでしょうか?
亀山 そうですね。小学生くらいだと肘が多いですし、高校生くらいになると肩、肘、腰になりますね。
——競技を絞らずに小学生全体で見た場合に多いケガの特徴、傾向などは見られますか?
亀山 小学生でケガをする子の特徴は自分の体、体重をコントロールができていない子。片足で立てない、片足で自分の体重がコントロールできない、片手で体が支えられないなどが当てはまります。まずはしっかり自分の体をコントロールする能力をつけてあげないといけないと思います。
また、中学生のケガが40年前の3倍あるというデータがある一方で幼稚園児のケガは減っています。それはおそらく親が子どもに危ないことをさせないからだと思います。公園の危険遊具などが撤去されたりだとか、ケガと紙一重の経験みたいなことが昔よりも排除された中で育ち、体が大きくなった中学などから本格的なスポーツを始めたりすることにも原因があったりするのかなと思っています。
——もっと幼稚園くらいの頃から色んな運動を経験できる機会が必要ということでしょうか?
亀山 そうですね。例えば野球だと、野球に特化したことばかりやってしまうので、もちろんそれもいいのですがやっぱり色んな運動の機会を小さい頃から与えないといけないと思います。そういった機会を「危ない!危ない!」といって奪ってきてしまったように感じますね。
荒川 全く同意です。体の使い方の多くは遊びの中で身につけるもの、自然に会得していくものだと思います。今はそういったものがなくなってしまったが故に、昔の子どもが当たり前にできていたことができなくなっています。そのようにして体の使い方が低下していることが、将来的なケガのリスクに繋がっているのだと思います。
だからこそ、フィジカルチェックでケガのリスクを正しく可視化して「当たり前にできないといけないこんな動きが思った以上にできていないんだよ? だからここを改善することがベースを作る上でまず先にやらないといけないよ」ということを、言わなければいけない時代になったのかなと感じています。
——チェックする項目は「機能性」「柔軟性」「安定性」の3要素ですが、野球に限っていうとこの3つの数値が低いとどんなケガのリスクがありますか?
亀山 「安定性」でいいますと、片足立ちなどの安定性が悪いとどんなに柔軟性があってもバランスを取るために肩・肘に力が入ってしまうので思うようにプレーできない、思うように肩と肘が使えないということになると思います。これは陸上で行う全てのスポーツに当てはまると思いますが、どんなに柔軟性がよくてもバランスが悪いとケガをしている率が高いです。野球の場合でも片足でしっかりと立てない、片足で自分の重心をしっかりコントロールできないと、おそらくその代償として上肢でバランスを取ろうとして、肩、肘への過負荷になっていると思います。
——「柔軟性」「機能性」に関してはいかがでしょうか?
亀山 「柔軟性」が低かったり、股関節が硬いと体がしっかりと回らないので、手だけで投げる動きに繋がってしまいます。
「機能性」というのは野球でいえばインナーマッスルの力になると思うんですけども、インナーマッスルがしっかり働かないと、(ボールを投げるときに)しっかり胸を張って肩の後ろに腕が隠れるような動きになりません。
そうすると、肩がしっかりと外旋してこないため、肩と肘の過負荷になってしまいます。
ですので、野球に関して言うと「機能性」「柔軟性」「安定性」の3つのどれが欠けても肩、肘への負担増というのは避けられないかなと思います。
後編に続きます。
天気予報のようにケガのリスクを数値化
——「フィジカルチェック」が誕生したいきさつから教えてください。
亀山 まず、ケガをして痛みがでてからではなく、痛みがでる前にトレーニングを行うことが障害予防とパフォーマンスアップに繋がるという思いが根本にありました。しかし、これでまでは「ケガをしないためにこのトレーニングをやって」と選手に話してもなかなか浸透しませんでした。
——なぜ浸透しなかったのでしょうか?
亀山 天気予報と同じだと思うんです。毎日傘を持っていれば雨に濡れることはないですが、毎日傘を持ち歩く人はほとんどいませんよね? でも「今日は90%の確率で雨が降るよ」と言えば、ほとんどの人が傘を持っていくと思います。同じように「このままだと○○%の確率で□□をケガをする。だからこういうトレーニングをやってね」と数値で見せてあげることによって、リスクの高い人がしっかりトレーニングにと入り組んでくれるようになる、そんなシステムを作りたいと考えたんです。
——そういった予測の素になるデータも千葉県を中心に亀山先生が集めておられたんですよね?
亀山 千葉と東京を中心にチームなどにも協力して頂いて、多くのフィジカルチェックを行ってデータを集めました。その後に追跡調査を行うと何ができなかった選手が半年後、1年後に「これができないとケガをする」というのが分かるんですね。そうすると次の年には「これができていないと半年後にこんな確率でこんなケガをする」という予測ができるようになります。
——そのようにして集めたのべ10万人以上のデータから導き出されたのが21のチェック項目になるわけですね。
荒川 はじめは200数項目あったチェック項目を統計的に絞って今の21項目に現時点ではなっています。
(画像提供:ケガゼロプロジェクト https://kegazero.jp)
小学生に多く見られるケガの特徴と傾向
——あらゆるスポーツからデータを取ったと思いますが、野球という競技特性から多いケガはやはり肩、肘になるのでしょうか?
亀山 そうですね。小学生くらいだと肘が多いですし、高校生くらいになると肩、肘、腰になりますね。
——競技を絞らずに小学生全体で見た場合に多いケガの特徴、傾向などは見られますか?
亀山 小学生でケガをする子の特徴は自分の体、体重をコントロールができていない子。片足で立てない、片足で自分の体重がコントロールできない、片手で体が支えられないなどが当てはまります。まずはしっかり自分の体をコントロールする能力をつけてあげないといけないと思います。
また、中学生のケガが40年前の3倍あるというデータがある一方で幼稚園児のケガは減っています。それはおそらく親が子どもに危ないことをさせないからだと思います。公園の危険遊具などが撤去されたりだとか、ケガと紙一重の経験みたいなことが昔よりも排除された中で育ち、体が大きくなった中学などから本格的なスポーツを始めたりすることにも原因があったりするのかなと思っています。
——もっと幼稚園くらいの頃から色んな運動を経験できる機会が必要ということでしょうか?
亀山 そうですね。例えば野球だと、野球に特化したことばかりやってしまうので、もちろんそれもいいのですがやっぱり色んな運動の機会を小さい頃から与えないといけないと思います。そういった機会を「危ない!危ない!」といって奪ってきてしまったように感じますね。
荒川 全く同意です。体の使い方の多くは遊びの中で身につけるもの、自然に会得していくものだと思います。今はそういったものがなくなってしまったが故に、昔の子どもが当たり前にできていたことができなくなっています。そのようにして体の使い方が低下していることが、将来的なケガのリスクに繋がっているのだと思います。
だからこそ、フィジカルチェックでケガのリスクを正しく可視化して「当たり前にできないといけないこんな動きが思った以上にできていないんだよ? だからここを改善することがベースを作る上でまず先にやらないといけないよ」ということを、言わなければいけない時代になったのかなと感じています。
バランスが悪い子はケガをする
——チェックする項目は「機能性」「柔軟性」「安定性」の3要素ですが、野球に限っていうとこの3つの数値が低いとどんなケガのリスクがありますか?
亀山 「安定性」でいいますと、片足立ちなどの安定性が悪いとどんなに柔軟性があってもバランスを取るために肩・肘に力が入ってしまうので思うようにプレーできない、思うように肩と肘が使えないということになると思います。これは陸上で行う全てのスポーツに当てはまると思いますが、どんなに柔軟性がよくてもバランスが悪いとケガをしている率が高いです。野球の場合でも片足でしっかりと立てない、片足で自分の重心をしっかりコントロールできないと、おそらくその代償として上肢でバランスを取ろうとして、肩、肘への過負荷になっていると思います。
——「柔軟性」「機能性」に関してはいかがでしょうか?
亀山 「柔軟性」が低かったり、股関節が硬いと体がしっかりと回らないので、手だけで投げる動きに繋がってしまいます。
「機能性」というのは野球でいえばインナーマッスルの力になると思うんですけども、インナーマッスルがしっかり働かないと、(ボールを投げるときに)しっかり胸を張って肩の後ろに腕が隠れるような動きになりません。
そうすると、肩がしっかりと外旋してこないため、肩と肘の過負荷になってしまいます。
ですので、野球に関して言うと「機能性」「柔軟性」「安定性」の3つのどれが欠けても肩、肘への負担増というのは避けられないかなと思います。
後編に続きます。