一定の手応えをつかむ
「去年久しぶりに一軍に先発で登板したときに、まっすぐでファウルとか取れていたので、それはだいぶ自信になりましたし、自分の球はまだ通用すると思った。今年の励みにはなりましたね」。
ロッテの大嶺祐太は、トミー・ジョン手術をして戻ってからのここまでの投球についてこのように自己評価する。
今季は6月4日のDeNA戦に5-5の4回から登板し2回を無失点に抑え、17年6月8日の中日戦以来となる白星を手にするなど、ここまでロングリリーフを中心に7試合に登板して、1勝1敗、防御率4.50の成績を残す。
ブルペンで投球練習を再開した2019年秋
2019年11月14日。同年の1月に『右肘内側側副靭帯損傷』の手術を受け、10月に戦力外通告を受け育成契約の打診を受けていた大嶺は、ロッテ浦和球場の屋外のブルペンで投球練習を行っていた。
この年の11月にリハビリのプログラムの一環で、「トレーナーの先生とその日の肘の状態を見ながら、やっていく段階だった。多少の痛みでも、変な痛みでなければ投げないといけないプログラムでした」と、連日ブルペンで投げ込む姿があった。
この日はスピードガンを計測しての投球練習。中腰で10球を投げ込んだ後、捕手を座らせて投げ込んだ。
捕手を座らせて5球目、大嶺は投球練習を見守っていた小野晋吾投手コーチに「140キロ出ましたか?」と確認。6球目、131キロを計測したときに小野コーチから「130キロをクリアしたよ」と声が飛ぶ。8球目に133キロを計測し、小野コーチからは「1キロずつ上がっている」とスピードが上がり、20球目には135キロを計測した。
あれから1年半。大嶺は当時のことを「スピードを聞くまではもうちょっと出ているんじゃないかなと思っていたんですけど、それくらいしか出ていなかった」と振り返る。
「今考えてみると、あの時は球速云々というより怖さをいかに早く克服できるかという段階だった。あそこでもうちょっと長引いていたら、去年もなかったですし、今年も多分一軍で投げられていないと思いますね。あそこですごく怖さがすぐ取れたというのは大きかったですね」。
順調だった2020年の春
年が明けて2020年。育成選手契約となり背番号が『30』から『126』となった1月20日のロッテ浦和球場での自主トレでは捕手を座らせて投げ込み、2月の春季キャンプ、再びロッテ浦和球場に戻った2月下旬以降もブルペンで腕を振った。
「キャンプが終わってからコロナの自粛期間に入るまで、すごく自分のなかで手応えを感じていた。そこで自粛期間に入るというのは、不安な部分がすごく強かった」。
復帰に向けて順調にステップを踏んでいたが、3月に入ってから新型コロナウイルスが日本でも感染が拡大しつつあり、3月下旬に予定されていたプロ野球の開幕は延期。4月に入ってから緊急事態宣言が発出され、プロ野球選手たちも思うように練習ができなくなった。
「自粛期間に家でできることや近所でできることは限られていたと思うんですけど、継続したというのは自分のなかですごく大きくて、活動が再開されたときにいい感じで入れた。自分が思った通り投げられたかなと思います」。
新型コロナウイルスによる自粛期間明けの5月31日に、ZOZOマリンスタジアムで行われた紅白戦に登板し、1回を投げ3失点だったが、中村奨吾のバットを折るなど、ストレートの最速は145キロを記録。シーズン開幕後も7月22日の西武との二軍戦で7回を2安打1失点に抑えるなどアピールし、8月23日に支配下選手に復帰した。
球速がアップ
トミー・ジョン手術から復帰後、5月30日の広島戦で151キロを2度、150キロを3度計測するなど、ストレートのスピードが上がった印象だ。
「怪我してから投げられるようになるまで、自分が今まで投げていたフォームというか体の使い方が間違っているんじゃないかと疑問を持って、見た目のフォームは変わっていないようにみえるかもしれないですけど、感覚的なものは変えましたね」。
「(具体的には)よく腕を振るという言葉を聞くと思うんですけど、腕を振るというよりかは、腕が振られる感じです」と、下半身と上半身を連動した動きで投げられるようになったという。
2019年11月に取材したときには「リハビリの段階ではあるので、リハビリと強化をしながら、今投げているなかで弱い部分とか、筋力的にも出てきていると思う。そこを重点的にやっていきたい」と話していたが、それも関係しているのだろうかーー。
「それももちろんそうなんですけど、トレーニングして投げていく感覚のなかで、自分のなかでこの感じでいけばというところを見つけることができた。そこを鍛えたというよりかは、自分のなかで意識して、呼び起こしたとまではいかないですけど、今までそこを感じて投げることができなかったことが、自分のなかで意識して感じて投げるようになった。それはだいぶ大きかったですね」。
「前向きになれるような投球ができたら」
球速も故障前よりアップし、一軍でもロングリリーフを中心に投げている。ここまでのステップは順調に踏めているように見えるが、本人はどう思っているのだろうかーー。
「手術してから手術する前の段階に戻りたくなかった。同じようにというか、それより良くなっている気がする。連投ができるようになっている。すごいそれはやってよかったなと思います」と一定の手応えを掴む。
「トミー・ジョン手術している投手が多くなってきていると思う。手術したあとは、自分もすごく不安だった。精神的にもマイナスに入り込むことがすごく多くて、自分がしっかり投げていることによってその人たちが前向きになれるような投球が少しでもできたらいいかなと思います」。
マリーンズには西野勇士、種市篤暉もトミー・ジョン手術からの復帰を目指しリハビリに励んでいる。
「一人一人ステップ段階が違うと思うので、焦らずやってほしいなと思います。リハビリ次第で、絶対に良くなる。自分はトレーナーの先生やコンディショニング、PTの方、周りにお世話になっている人たちがすごく色々とやってくれた。そのおかげでリハビリを頑張ることができた。リハビリに携わってくれた方に感謝しないといけないです」。
様々な支えや助けを受け、こうして再び一軍のマウンドに帰ってきた。復帰前よりもストレートのスピードは上がり、力強さが増した。西野、種市といった復帰を目指す選手たちの指針となるような活躍を見せたい。
取材・文=岩下雄太