オールフロンティア・三谷育海選手 [写真提供=プロアマ野球研究所]

◆ “無名”の社会人右腕がドラフト候補に浮上

 2016年に創部したオールフロンティア硬式野球部。

 14日に大阪ガスの連覇で幕を閉じた『社会人野球日本選手権』の出場はならなかったものの、専用の練習グラウンドを持たない新興チームでありながら年々実力をつけており、同地区の強豪であるHondaや日本通運、JFE東日本、日本製鉄かずさマジックらを相手に互角の戦いを見せることも増えてきている。

 そんなチームで、にわかにプロの注目を集めている選手がいる。大学卒2年目の右腕・三谷育海だ。

 高校・大学で目立った実績を残していない、いわば“無名”の投手がいかにしてプロのからの熱い視線を浴びるようになったのか…。

 大きなインパクトを残した日本選手権の予選を中心に振り返りながらご紹介したい。

▼ 三谷育海(オールフロンティア)
・投手
・175センチ/78キロ
・右投右打
・呉商高→流通経済大

<主な球種と球速帯>
ストレート:143~150キロ
カーブ:100~110キロ
スライダー:128~131キロ
フォーク:131~133キロ
チェンジアップ:115~118キロ

◆ 強豪SUBARUを相手に圧巻のピッチング

 前述の通り、高校時代は全国的に“無名”の投手で、流通経済大でも際立った成績は残していない。社会人に進んでからも、2020年はコロナ禍で公式戦も少なく、全く無名のまま1年目を終えている。

 それが2年目を迎えた今年は、5月に行われたJABA選抜新潟大会でリリーフとして3試合に登板し、チームの優勝に大きく貢献。大会MVPにも選出された。

 そんな三谷の名が一気に知れ渡ったのが、新潟大会に続いて開催された日本選手権の関東地区予選のこと。初戦の相手は、日本選手権の本大会で2度の優勝を誇るSUBARUだった。

 1点リードの7回裏途中から登板すると、強力打線を相手に2回と2/3をパーフェクトに抑え込む好投。立ち上がりから140キロ台後半のストレートを連発すれば、8回と9回には150キロもマークした。

 ただ速いだけでなく、躍動感が溢れるフォームと豪快な腕の振りによって、球速に見合うだけの“勢い”があるというのが魅力。また、指のかかりも良く、投げた瞬間は一瞬低く感じるボールがストライクになるだけの“伸び”も感じられる。

 この日は、対戦相手のSUBARUに山本龍之介(24歳/日本大)と手塚周(25歳/立教大)という2人のドラフト候補がいたことから、10球団のスカウトが視察に訪れていた。しかし、スタンドが最もどよめいていたのは三谷が登板した時だった。

◆ 11球団のスカウト陣が集結

 この快投で火がつき、翌々日に行われた日本製鉄鹿島との試合には11球団のスカウトが集結。中には部長クラスが顔を見せている球団もあった。

 この試合では、2点を追う6回から登板。前々日に比べるとストレートの走りはもうひとつだったとはいえ、それでも最速は149キロをマーク。毎回走者を背負いながらも3イニングを3奪三振で無失点と、2試合続けて強豪企業チームを相手に見事な投球を見せた。

 変化球に驚くようなボールはないものの、カーブとチェンジアップで上手く緩急をつけ、スライダーとフォークも低めにコントロールすることができていた。

 さらに、ピンチの場面でも表情を変えず、社会人の強打者を相手にも思い切って腕を振って投げ込める気持ちの強さは大きな魅力である。

 これまでのキャリアで実績がなく、また新興チームに所属している選手とあって、視察に訪れたスカウトが報道陣やチーム関係者から情報を得ようとしている姿も見られた。

 企業チームからのプロ入りとなると、支配下での指名が必須というルールがある。さらに、大学卒の24歳であれば、ある程度早くから戦力になることも期待される。そういう意味では実績に乏しいだけに、指名のハードルは高くなることが予想されるが、それでも大きな可能性を秘めた投手であることは確かだ。

 この夏、大舞台でのアピールは叶わなかったが、その名を広く知らしめることができたのは大きな一歩。今後の投球にさらなる注目が集まることは間違いない。

☆記事提供:プロアマ野球研究所


BASEBALL KINGの配信番組にも出演している西尾典文を主任研究員とし、ドラフト情報を中心にプロ野球、アマチュア野球に関する記事を配信する野球専門ニュースサイト。ドラフト候補に関する各種データも充実している。

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西尾典文

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