7イニングの「参考記録」も…
8月11日のルートインBCリーグ公式戦で、独立リーグ史上初となる大記録が生まれた。
星槎中井スタジアムで行われた神奈川フューチャードリームス-新潟アルビレックス・ベースボール・クラブのダブルヘッダー第1戦。神奈川の山本雅士投手(26)が、7イニングの“参考記録”ながら完全試合を成し遂げた。
山本は打者21人に対して三振を10個奪い、内野ゴロが6、内野フライは4。外野に打球が飛んだのは右飛ひとつという、まさにパーフェクトなピッチング。
ちなみに、日本の独立リーグでは、四国アイランドリーグplusのNPBとの交流戦(独立リーグ側は公式戦扱い)において、福岡ソフトバンクホークス三軍の渡辺健史が2019年4月16日の高知ファイティングドッグス戦で1度達成しているものの、独立リーグの選手による達成はこれまでどのリーグを通じてもなかった。
NPBでは一軍登板3試合
山本は広島生まれの26歳。高校時代は故障で満足にプレーすることができず、不完全燃焼のまま高校野球を終えると、独立リーグに進むことを決意。四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスに入団するが、当初は無給の“練習生”としての入団だった。
2年目に選手登録されると、そこから一気に素質が開花。先発に抑えにと大車輪の活躍を見せ、チーム初の独立リーグ日本一の立役者となる。
そしてその2014年の秋。ドラフト会議で中日から8位指名を受け、晴れてNPB入りが実現。当時はまだ山本昌が現役だったため、登録名がフルネームの「山本雅士」となったのも話題になった。
ところが、NPBではなかなかチャンスを掴むことができず、一軍登板は1年目の2015年に記録した3試合のみ。
2年目のオフには一度自由契約となったうえで育成契約を結びなおしたが、その後も浮上のキッカケを掴めずに2018年限りで戦力外となった。
「うわっ、手、震えてる」
中日を退団後、BCリーグの富山GRNサンダーバーズで2シーズンプレー。昨季は9勝1敗、防御率2.40の好成績を残し、シーズン後に神奈川への移籍が決定する。
迎えた今季はここまで1勝とエンジンがかからない状態が続いていたが、この日は自身の武器であるストレートの最速が149キロを計測するなど、終始試合を支配。相手の主軸も初めて対戦するその力強いボールに圧倒されるシーンが目立った。
また、ストレートが来ているということは、変化球も活きる。決め球に多投した低めの変化球に、相手打者のバットは面白いように空を切った。
味方打線も2回に1点を先制すると、4回には下位打線の連続本塁打などで一挙3得点。楽な展開となるも、山本は気を緩めずに投げ進めていく。
上述した通りダブルヘッダーとあって、試合は7回まで、もしくはリーグ規定の2時間15分を超えたイニングまでで打ち切りとなるが、山本は4回・5回あたりから完全試合を意識していたのだとか。
というのも、一方的な試合展開にもかかわらず、ベンチには妙にこわばった空気が漂っていて、いやがおうにも意識させられていたのだ。
それでも、4回からギアを上げて毎回奪三振を奪って進むと、迎えた最終回。さすがに固さも出てきたか、追い込んでからの球がなかなか決まらない。当然ながら、相手打者もプライドをかけて食らいついてくる。
そんな中、1番打者を見逃し三振に斬って取ると、次打者にも6球粘られながら最後は二ゴロ。二死から最後のバッターを三振に打ち取ると、山本はガッツポーズをするでもなく、何かから解き放たれたように天を仰いだ。
試合後のヒーローインタビューの後、記念のウイニングボールが届く。そこで聞こえた山本の声が、彼の成し遂げたことの大きさを物語っていた。
「うわっ、手、震えてる」──。
取材・文=阿佐智(あさ・さとし)
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【お詫びと訂正】※8月11日21時30分
初出時、記事中の経歴に誤りがあったため、該当箇所を訂正しました。
大変失礼いたしました。