こんなに活躍するとは!?
約1カ月の五輪中断期間を終え、後半戦を再開させようとしているプロ野球。そこで今回はセ・パ両リーグの前半戦を振り返りつつ、前半戦の「ベストナイン」、「MVP」、「新人王」などを選んでみようじゃないかということで、対談企画を実施。野球ライターの西尾典文さん、菊地選手に加え、「河野名鑑」でもおなじみの河野万里奈さんをゲストに迎えて、各項目を選んでいただきました。
そして最終回の今回は、前半戦の「サプライズ選手」について。MVP、新人王などには入ってこないけれど、驚きを与えた選手たちを、独自の目線でピックアップ。最後には後半戦の展望についても伺いました。
——それでは西尾さんのセ・リーグのサプライズ選手から見ていきたいと思います。西尾さんが名前を挙げたのは広島の林晃汰選手ですね。
<林 晃汰(20)/広島>
41試合:打率.327(153打数50安打)/4本塁打/22打点/OPS.815
西尾 高卒3年目だと思うんですけど、こんなに早く出てくるとは全く思っていなくて。高校時代から評判でしたけど、凄いところはあんまり見たことがなくて。ホームランを打ったところを見たこともありますけど金属バットで打ったホームランという感じで。そんな感じに思っていたのですが交流戦頃からもうレギュラーですもんね。
ちょうどこの前、広島の担当スカウトだった鞘師さんと話す機会がありまして「高校時代は、(活躍すると他球団からも注目されてしまうので)これ以上は良くなってくれるな! あとはウチで育てるから」という風にずっと見ていたと言っていました。チームはちょっと低迷していますけど、いいチームに入ったなと思いますね。
——コロナの影響などで出場する機会が与えられてそのチャンスをしっかり掴んだという気がしますよね。続いて菊地さんのサプライズ選手を見ていきましょう。次点まで選んでいただきましたが、中野拓夢選手(阪神)と次点が玉村昇悟投手(広島)ですね。
<中野拓夢(25)/阪神>
76試合:打率.278(248打数69安打)/1本塁打/17打点/16盗塁
菊地 中野選手はベストナインでも選出していたんですが、サプライズ選手でも選んでしまいました。というのも、阪神が中野選手をドラフト指名したことに否定的な見方をしてしまっていたんですね。右投げ左打ちで二遊間の選手ですし、(同じタイプの)木浪選手や小幡選手とかいるタイミングで獲っているので、中野選手の需要が正直分からなかったんです。でも、これだけ活躍をされたら、それはもう「素晴らしいスカウティングでしたね」って言うしかないですから。
若手のプロスペクトだなんだって言われたって、結局は競争社会になるので、そういう中で社会人野手のしぶとさというか、いまなかなか社会人野手がドラフトで指名してもらえない状況が続いている中で、中野選手が活躍することが社会人野手の価値の見直しにも繋がると思うので、そういう意味で中野選手の活躍がサプライズだったなと。
——次点が広島の玉村投手。林選手の一つ下、2年目の選手ですね。
<玉村昇悟(20)/広島>
8登板(47投球回):2勝3敗/防御率3.26/38奪三振/QS率50%
菊地 まだ2勝ということで結果を残しているということじゃないんですが、でもまさか(同じ2年目の)佐々木朗希投手(ロッテ)よりも多く勝つとは、ということで選びました。丹生高校時代に福井県に何回か行って、高校が車で山を上がっていったところにあって、玉村投手は電車も乗ったことがない、切符の買い方が分かりませんって話していて。
河野え——!! 大変!
菊地 プロで一番不安なことは何かって聞いたら「乗り物酔い」って言っていたんです。強豪校出身の友達もいないし、福井の山の中の田舎からできて、プロでのスタートラインがそういうところからでしたので、わずか高卒2年目でこんなに早く使われるとはという。
ピッチングフォームもボールの出所が少し見づらくて打者からしたらなんか気持ち悪く見えるような、そんな高校時代のいいところも残っていて。まだまだ通過点ですけど。
——高卒2年目でドラフト6位指名でしたもんね。ピッチングの内容も良かったですし、確かに前半戦のサプライズ枠に相応しいですね。続いて西尾さんのパ・リーグのサプライズ選手ですが、オリックスの杉本裕太郎選手を挙げていますね。
<杉本裕太郎(30)/オリックス>
78試合:打率.297(276打数82安打)/18本塁打/54打点/OPS.917
西尾 妥当といえば妥当だと思うんですけど、こんなに打つと思っていた人がいたら凄いなと思いますね。
菊地 (笑)
西尾 しかも今年30歳ですよね? 大学、社会人を経て6年目ですから良くても外野のバックアップ要員として活躍するような成功イメージしかなかったんですが、ところがこんなに打つんだと思って。
大学時代からよく見ていた選手ですがあんまりプロでレギュラーになるイメージもなくて、身体が大きくて当たれば飛ぶんですけどあんまり器用ではないし。オリックスファンもびっくりしているんじゃないですかね?
——去年から中嶋監督に代わったのも大きかったのかもしれませんね。
西尾 そうですね。中嶋監督の前はそんなに出ていなかったですもんね。
菊地 ジャンル的にはパンチ佐藤さん系の系譜なのかなと思いきやですもんね。やっぱりプロ野球選手になるくらいの選手はなんだかの特色というか秀でているものがあって、それを見いだしてくれる人がいいタイミングで使うとこうなるんだっていうね。だからパンチ佐藤さんも状況によってはこうなっていたかもしれないということですよね。
西尾 あの大豊作ドラフトのときに1位ですもんね。
菊地 かたや杉本選手はドラフト10位ですからね。
——7月はちょっと成績を落としてしまいましたがずっと3割も打っていたんですよね。
西尾 打率が高いというのもびっくりしました。
——それでは菊地さんのパ・リーグのサプライズ選手を見ていきたいと思いますが、ロッテの佐々木千隼投手、次点が日本ハムの髙濱祐仁選手。
<佐々木千隼(27)/ロッテ>
31登板(34投球回):4勝0敗12ホールド1セーブ/防御率1.06/19奪三振
菊地 プロに入ってからの姿とアマチュア時代に活躍していたときの姿との落差が大きくて、昨年の春のキャンプに佐々木朗希投手目当てで見に行ったんですけど、中日との練習試合で佐々木投手がボコボコに打たれていて。その時の姿を見たら、ちょっと涙が出そうになってくるようなね。
フォームに躍動感はないしボールの迫力もない。135キロくらいのストレートをぼこすか打たれて。シンカーとか投げてもストレートが遅いので合わされてしまう。これはちょっと一軍では厳しい、ひょっとしたらこのまま終わってしまうんじゃないか......くらい思っていた選手が、わずか1年間で立て直してきて。躍動感がないと感じた姿はそのままなんですけど、良い意味で力感がなくてもボールがくるようになったんですね。
スピードガンの数字はたいしたことはないんですけど、ボールはバッターを差し込めているんですよね、大学時代の姿とは違うんですけども。
ドラフトではハズレ1位ですけど5球団が重複したスーパーエリートですよ。そんな選手が地べたを這いつくばって、今できることを探していって、スピードは出ないけど何とか打者を抑える方法を編み出して、オールスターに出る選手になったところに敬意を表したいなと思います。
本人に話を聞くと、まだまだ諦めていないんですよ、スピードを出すということを。いまボールの質が上がっていて、さらにスピードも上げることができたら僕らが見たかった佐々木千隼になってくれるんじゃないかなって思います。だからまだ途上ではありますけど、今年の前半時点でのサプライズ選手かなと。
——次点に挙げたのが髙濱選手ですね。
<髙濱祐仁(25)/日本ハム>
45試合:打率.301(146打数44安打)/5本塁打/18打点/OPS.841
菊地 こんなことを言うと気持ち悪いんですけど、小学校3年生のときから追いかけてました。
河野えー!それは凄い!
菊地 というのも、お兄ちゃんの髙濱卓也選手(ロッテ)の横浜時代に佐賀県の実家にお邪魔して取材をしていたんですけど、その時にいたのが小学3年生のちょっとぽっちゃりした髙濱祐仁選手だったんです。それでお兄ちゃんが身長、体重とかホームラン数とかのアンケートを書いているのを見て、すごい書きたそうな顔をしていて、「じゃあぼくも書く?」見たい感じで紙を渡して書いてもらったんですけど、ホームラン数のところが40本とか書いてあるんです。
それでびっくりして。聞けば、その時から地元ではスーパー小学生みたいに言われていたらしくて、その後小学校、中学校で爆発的に活躍して。そしてお兄ちゃんと同じ横浜高校に行ってプロに入ったんですけども。やっぱりその頃から見ているので、やっと形になってくれたなっていう。一時期は育成まで落ちて、ファームではずっと内容は良かったんですけどね。
——それでは、ここまで前半戦を振り返っていろいろなお話を聴いてきましたけども、最後に後半戦の展望を伺いたいと思います。約1カ月の中断期間を経て、後半戦の鍵を握る球団、注目している選手がいたら伺いたいと思います。まずは西尾さん、セ・リーグではいかがでしょうか?
西尾 阪神がこのまま行けるのか? というのが気になるのと、鍵を握る選手はMVPでも名前を挙げた青柳投手かなと。五輪で調子を落としてしまわないかという不安があります。これまで国際舞台とかあまり経験したことがないと思いますので、今までにない疲労、プレッシャーとかあると思うのでそこで調子を崩さないといいなって、阪神ファンだったら思うと思うんですよね。
河野思ってます!
西尾 あとはやっぱり佐藤輝明選手がこのままの調子で行けるかどうなのか? 中断期間があることがどう働くのかというのがちょっと気になりますね。7月に入ってちょっと成績を落としていましたけど、ルーキーは夏場がしんどいと思うので、中断期間がプラスに働く可能性もある気がしています。
——菊地さんはいかがでしょうか?
菊地 前半戦の最後の方に広島vsDeNA戦があって見ていたんですけど、「あれ? これどっちも強いな」て思ったんですね。DeNAは打線が凄いし、広島は若手の林選手、小園選手、坂倉選手とかイキのいい選手がどんどん出てきているので、見ていてすごく面白いと思いますし、この2チームが後半戦台風の目になったら相当かき回すと思いますので、僕は広島とDeNAを楽しみにしていますね。
——続いてパ・リーグですが、西尾さんいかがでしょうか?
西尾 ソフトバンクがこのまま終わるのか? 去年はデスパイネ選手とグラシアル選手の2人が後半戦にがっと打ってチームが上がっていったんですけど、この2人が前半戦にいなかったのが凄く大きかったと思うんですよね。後半にこの二人が去年と同じことができるのか? ちょっと厳しいとなったときにどうしていくのか?
去年、一昨年とか4位予想にしていたくらいソフトバンクは危ない時期だなって思っていて、もうチームも変わらないといけない時期だと思うんですよね。野村大樹選手が出て来たりしていますし、あんなに強いソフトバンクが終わるわけがないって思っている人も多いと思うんですけど、果たしてどうなのか? そこが一番気になるところですね。
——前半踏ん張った柳田選手、甲斐選手、栗原選手、そして故障明けの千賀投手がぶっつけ本番で五輪代表に入った。心配しているホークスファンいるんじゃないかなと思います。
西尾 ピッチャーはあんまり心配していないですけど野手がどうかな、という気が凄くします。
——後半戦のホークスの逆襲がどうなるか、というところですね。菊地さんはいかがでしょうか?
菊地 僕はやっぱり日本ハムを優勝予想にしているので、まだ諦めていないんですよね。栗山監督もまだファイティングポーズをとっているので。やっぱり清宮幸太郎選手が目覚めないことにはね。チームの雰囲気、流れをガラッと変える爆発力がある選手が必要なので。
清宮選手が出てくることで、野村選手にも相乗効果があったり、あと五十幡選手がケガから帰ってきて、さらにショートに牛若丸・上野選手を抜擢したり。チームがガラッと変わったときにピッチャーでは伊藤投手が君臨して、そしたら一気に奇跡が起きるんじゃないかと。
——そうなると前半後半でチームが変わりますもんね。
菊地 清宮選手が前半戦はずっと寝ていましたけど、ヤクルトにいたジャック・ハウエルのように後半戦だけでホームラン王になっちゃうみたいな、(それくらい打ってくれれば)そこでミラクルが起こると思うので。日本ハムはこのまま終わって欲しくないなって思いますね。
それではここまで全4回に渡って西尾さん、菊地さんにセ・パ両リーグの前半戦ベストナイン、MVP、新人王、さらにはサプライズ選手まで選んでいただきました。西尾さん、菊地さん、そして河野さんもありがとうございました!