育成時代から積み重ね
絶対”に走ると相手チームもわかった状況で、警戒をかいくぐって涼しい顔で盗塁を決め続け、24盗塁のロッテ・和田康士朗が自身初となる盗塁王に輝いた。
50m走を「5秒8」で走る俊足の持ち主の和田だが、足が速いから盗塁王を獲得したわけではない。育成選手時代からの積み重ねがあった。
1年目の18年はファームで6盗塁を決めたが、失敗は7個だった。同年秋のキャンプで大塚明コーチからスタートとスライディングを教わり、その年のオフに行われた「2018アジア・ウインターリーグ・ベースボール(AWB)」で8度の盗塁機会で失敗は「0」と活躍。その後、「二軍のときはでたらめというか、何も根拠なく走っていた。大塚さんにも根拠をもって走れと言われたので、台湾ではそれが出せたと思います」と振り返っていた。
2年目の19年は、ファームでチームトップの23盗塁。同年の取材で和田は「スタートの構えのところで、ちょっと揺れてみたりとか、反応しやすい姿勢を探しています」と模索していたが、失敗数は「8」と、18年よりも盗塁の成功率をあげた。スタートに関しては「前半に比べたら全然良くなってきている。前半よりも後半の方が、失敗が少なかった。盗塁はかなり進歩しているのかなと思います」と好感触を得た。
19年秋のキャンプでは再び大塚コーチ、伊志嶺翔大コーチから盗塁の技術を教わり、20年1月の自主トレでは「スタートが遅いので、少しでも速く正面に向けるようにというか。今はそういう構えの練習です」と、盗塁のスタートの練習を繰り返していた。
20年2月の練習試合から武器である“足”でアピールし、シーズン開幕前の6月に“支配下選手登録”を勝ち取り、同年のシーズンで23盗塁を決め一軍で居場所を掴んだ。
育成時代はスタート、構えを課題にしていたが、支配下選手となった現在は「あれから何回か構えを試していて、去年のシーズン中にも構えを変えたりというのをしていましたね」と明かす。具体的に、「去年は開幕してからセカンド方向に体重を乗っけていたんですけど、それだと牽制が戻りにくいというのがあったので、シーズンの途中に5:5からセカンドベースに6乗せるくらいの構えにしました」と、今もなお盗塁成功率を上げるため試行錯誤を続ける。
今季は24盗塁を決めたが失敗は「5」。和田と同じく盗塁王に輝いた荻野貴司(ロッテ)と西川遥輝(日本ハム)が11度、源田壮亮が9つの失敗と、和田が3人のなかで最も少ない失敗数だった。
準備力
準備面では、アップはファーム時代と変わらないとのことだが、「相手投手の癖を見るようにしています。癖がなくても良いスタートが切れれば、初球からでもいくようにしています」と、入念に映像を見るようになったという。
ファームのときにただ闇雲に走るのではなく、“根拠”を持って盗塁を成功させるためにスタート、構えなど意識して盗塁を試みていたからこそ今がある。その積み重ねの結果が一軍で“盗塁王”に繋がったといえるだろう。
和田と同じ98年世代にはチームメイトの種市篤暉をはじめ、他球団にも投手四冠の山本由伸(オリックス)、最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得した堀瑞輝(日本ハム)、野手でも打率.313をマークした坂倉将吾(広島)、新人で規定打席に到達し打率.314の牧秀悟(DeNA)、新人ながら24本塁打を放った佐藤輝明(阪神)など結果を残す選手が数多くいる。そのなかで、98年世代の野手では初のタイトルホルダーとなった。
今季の打席数が24打席だったように、バットでもアピールしレギュラーを掴むことができれば、盗塁数を大幅に増やすことができる。来年はレギュラーを勝ち取り、倍以上の盗塁数を決めて2年連続でタイトルを勝ち取って欲しい。
文=岩下雄太