【プロ野球日本シリーズヤクルト対オリックス 第5戦】試合に勝ちオリックスのアダム・ジョーンズとタッチするオリックス・中嶋聡監督=2021年11月25日 東京ドーム 写真提供:産経新聞社

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、11月25日の日本シリーズ第5戦に勝って、勝負を第6戦の神戸に持ち込んだオリックス・中嶋聡監督の采配にまつわるエピソードを紹介する。

第1戦から第5戦まですべて、最後までどちらが勝つかわからない白熱の好試合が展開された2021年の日本シリーズ。この時点ですでに、球史に残るシリーズになったと言っていいでしょう。

ヤクルトが日本一に王手をかけた第5戦、注目は、もう負けられないオリックス・中嶋監督が「どう開き直るか」でした。背水の陣を敷いた指揮官は、ヤクルトに傾いた流れを取り戻すための「切り札」を次々に繰り出して行きました。

まず、第4戦まで打撃面でブレーキになっていた安達をベンチから外し、代役のセカンドに20歳の高卒3年目・太田椋を先発起用。守備を考えると相当な賭けでしたが、指揮官は太田のバッティングを買って、打線の起爆剤にしようと考えたわけです。これが最初に切った勝負のカードでした。

太田は5回の第2打席で初ヒットを放つと、同点の7回には勝ち越しのタイムリー三塁打。続くモヤもタイムリーを放ち、8回には伏見寅威が追加点で3点リード。太田のバットがオリックス打線に火を付け、そのまま勝っていたら、間違いなく彼がヒーローでした。

このシリーズでも打撃好調な19歳・紅林弘太郎もそうですが、大舞台でも臆さずプレーする若手が、オリックスには多い気がします。「中嶋イリュージョン」と呼ばれる抜擢ができるのは、中嶋監督が昨年(2020年)途中まで2軍監督を務めていたからこそ。さすが選手を、性格面も含めてよく見ています。

その後、8回にセットアッパーを託されたヒギンスが四球を連発。山田哲人に同点3ランを浴びる大誤算があり、あの瞬間、ほとんどの人が「これはヤクルトが勝つ」と思ったでしょう。しかし、次打者・村上宗隆のセンターへの大飛球がフェンス前で失速。逆転には至らず、ギリギリ徳俵で持ちこたえたところで、中嶋監督は2枚目の「切り札」を繰り出します。

急きょリリーフ登板したのが、故障明けの山岡泰輔でした。2019年・2020年と2年連続で開幕投手を務め、今季も山本由伸と並ぶ先発の柱として期待されていた山岡。しかし、右ヒジの不調をおしてマウンドに上がったのがアダになり、6月下旬から戦線を離脱していました。

今季絶望と思われましたが、山岡は右ヒジのクリーニング手術の予定を繰り上げ、懸命にリハビリを重ねます。これが実って奇跡的な回復を見せ、日本シリーズの登録メンバーに入ったのは驚きました。8回一死から、久々に公式戦のマウンドに立った山岡は、サンタナ・オスナの両外国人をスライダーで仕留め、ヤクルトの逆転を阻止しました。

『いい場面で投げさせてもらったので、めちゃくちゃ感謝しています。球場の雰囲気を変えたいなと思っていた』

~『日刊スポーツ』2021年11月25日配信記事 より(日本シリーズ第5戦 試合後、山岡のコメント)

おそらく野手たちも、チームの危機を救おうと奮闘する山岡の姿を見て、感じるところがあったはずです。ピンチに繰り出した山岡のスクランブル起用も、中嶋監督が仕込んだ「起爆剤」でした。

そして最後の「切り札」が、その山岡の代打で9回に登場した、アダム・ジョーンズです。メジャー通算1939安打・ホームラン282発の実績を誇り、年俸は推定4億4000万円。2020年に鳴り物入りで来日した、MLBの一流プレーヤーです。

しかし体調不良や、杉本裕太郎が4番に定着したこともあって出番が減り、最近はもっぱら代打に。こうなると、やる気をなくして帰国するのがよくあるパターンですが、ジョーンズは違いました。「チームのために、自分ができることはないか?」を常に考え、腐ることなく献身的な行動を続けました。

その象徴が、イニング間のキャッチボールです。攻守交代時、ベンチから控えの選手が外野まで出て行き、外野手のキャッチボールの相手をする光景が見られます。これは普通、若手の役目。しかしオリックスは、何とときどき、ジョーンズが出て来るのです。

今回のシリーズでも、ジョーンズはキャッチボールに早い回から登場。ジョーンズによると、これは照明に目を慣らす効果もあるそうですが、「ベンチにいても試合に参加したい」という気持ちの表れに他なりません。

今季、ジョーンズは親族の不幸があり、シーズン終盤に一時帰国しました。しかし、隔離期間を経て、大事な時期に復帰。これもまた、フォア・ザ・チームの精神です。「全員で勝つ」を掲げる中嶋監督にとって、こういう助っ人は実に頼もしい存在です。

第1戦、ジョーンズが抜群の選球眼でマクガフから四球を選んだことが、逆転サヨナラ劇につながりました。おそらく中嶋監督は「マクガフのところでもう一度ジョーンズを使おう」と機会を窺っていたはずです。

メジャーを知るマクガフにとって、ジョーンズは畏敬する打者。そんな微妙な心理も影響したかも知れません。インコースの高めの直球を叩くと、打球は高々と上がり、レフトスタンドへ。これがシーソーゲームに決着を付ける貴重な一発になりました。

『絶対に終わらせない気持ちだった。自分のようなベテランは野球がひょっとしたらこれが最後になるかもしれない、という状況。勝ってもう1試合というところは考えていた』

~『東京スポーツ』2021年11月25日配信記事 より(日本シリーズ第5戦 試合後、ジョーンズのコメント)

これで戦いは、第6戦の神戸へ。本当に、いつまでも見ていたい、と思います。日本一決定戦にふさわしい、最高のシリーズを見せてくれている両軍の選手・指揮官には、本当に感謝しかありません。

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ベースボールキング編集部

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