話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、12月8日に行われた「プロ野球12球団合同トライアウト」を視察に訪れた日本ハム・新庄剛志監督の「選手を見る視点」にまつわるエピソードを紹介する。
12月8日にメットライフドームで行われた、毎年恒例の12球団合同トライアウト。各球団を戦力外になった選手たちが、全球団のスカウトが見守る前で実戦形式で対戦し、他球団からのオファーを待ちます。
ただ実際には、トライアウトでのプレーを見てスカウトが声を掛けるケースは少ないのが現実です。ここでオファーが来るような選手は、おおむね事前に獲得の打診があり、その場合トライアウトは「最終確認の場」に過ぎません。セカンドチャンスをつかめる選手は、ごくわずかの狭き門なのです。
ゆえに、現役の監督が直接足を運ぶケースは稀で、過去を振り返っても、野村克也氏や落合博満氏ぐらい。それだけに“ビッグボス”新庄監督の視察は、就任時に「行く」と宣言していたとはいえ、大きなインパクトがありました。
この日、真っ白なロングダウンコートを着て、バックネット裏に姿を現した新庄監督。いつものことですが、非常に目立ちます。おそらくこれも新庄監督流の“気配り”で、自分の動きを追う報道陣がわかりやすいように……という配慮と、もう1つ、トライアウトに参加する選手たちに対し「ここで見てるから、しっかりやれよ!」という無言のメッセージでもありました。
昨年(2020年)のトライアウトで、新庄監督は「オファーを待つ選手」としてグラウンドに立っていました。
「47歳の挑戦」と大きな話題を呼んだ新庄監督の、昨年のトライアウト参加。結局、どの球団からも声は掛かりませんでしたが、古巣・日本ハムはあのとき、新庄監督が野球への情熱を失っていないことを確認。それが今回の監督オファーにつながりました。
つまりは「意欲を示す」ことがまず大事。今年(2021年)参加した33人のなかには、昨年、新庄監督とともにトライアウトを受けた選手もいます。目立つ白いコートは、彼らへのエールの意味もあったのでしょう。「優しい人だなあ」と感じました。
もっとも、選手を見る目はシビアです。午前の部が終了したところで、休憩中にテレビのインタビューを受けた新庄監督は、「目に留まった選手は?」という問いにこう答えました。
自分は案を出すだけで、最終的に決めるのは稲葉GM……と言いながら、4選手の名を挙げた新庄監督。報道陣へのリップサービスとはいえ、新庄監督の野球観が窺えるコメントです。
最初に名前が挙がった高野圭佑(29)は右投手。バットの芯を外すカットボールに新庄監督は注目しました。2015年、ロッテにドラフト7位で入団し、2019年、シーズン途中で阪神にトレード。昨年オフに戦力外となり、今季(2021年)は台湾プロ野球・中信兄弟でプレー。今回は上下黄色の中信兄弟のユニフォームで参加しました。
新型コロナ禍のなか、台湾に渡ってプレーを続け、隔離期間を経てトライアウトを受けに来た情熱。新庄監督も、投げたボールの質だけでなく、精神力の強さにも注目したのではないでしょうか。周囲への感謝を忘れないところも、新庄監督好みです。
投手でもう1人、名前が挙がったのが、オリックス・金田和之(31)です。2012年、ドラフト5位で阪神に入団。2016年オフ、糸井嘉男が阪神にFA移籍した際、人的補償選手としてオリックスに移籍。今季は中継ぎとして1軍で9試合に登板しましたが、戦力外となりました。
この日は、最高147キロの速球とスライダーで打者を打ち取った金田。新庄監督はリズムのよい投球と直球のキレを評価し、さらにこう付け加えました。
「変化球の精度を上げれば、まだ十分使える」とも取れるこのコメントは、金田にとっては大きな励みになるでしょう。チームが優勝したのに戦力外になった悔しさも飛躍のバネになりそうです。
野手では、中村和希に注目した新庄監督。昨季まで楽天に育成選手として3年間所属し、今季は独立リーグ・福井でプレーした左打者です。今回のトライアウトでは左投手から3安打を放ちアピール。新庄監督は中村のミート力を評価しつつ、こんなコメントも。
さすが、細かいところまで見ています。しかも「ここがダメ」と否定的に見るのではなく「ここを改善すれば、この選手はもっと活きるのでは?」というポジティヴな視点で選手を見ている。だから、修正すべきポイントを端的に指摘できるのです。
そして新庄監督が最後に挙げたのが、元巨人・山下航汰(21)です。2018年、育成ドラフト1位で巨人に入団。1年目の2019年、支配下登録と1軍昇格を果たし、イースタンリーグ首位打者を獲得した逸材です。高卒ルーキーがファームで首位打者に輝いたのは、1992年、オリックス・鈴木一朗(=イチロー)以来の快挙でした。
昨シーズンは開幕1軍の話もあったほどですが、開幕直前に故障し戦線を離脱。巨人は治療に専念させるため、昨年オフ、いったん山下を自由契約にしたあと、育成選手として契約を結び直しました。ところが山下は「来季(2022年)も育成で」という打診を断り、1軍の試合に出場できる支配下登録を求めて巨人を退団しました。なかなか骨のある選手です。
山下について、新庄監督はファーム首位打者の実績を評価した上で、肩の件にも触れ「もしうちが取るならDHとかでも面白いかなと思いました」と具体的な起用法まで挙げました。それだけ打撃センスを買っている証拠で、巨人を出た経緯も含め、いかにも新庄監督好み。実際に獲得しそうな気もします。
そんなポジティヴな見方をする一方、新庄監督は参加選手に、こんな苦言も呈しました。
この「お小言」は、新庄監督が来季、どんな野球を目指すかのヒントでもあり、間接的に、日本ハムの若手選手たちに対する「叱咤激励」にもなっています。走攻守、自分なりにアピールポイントを考え、長所を伸ばす練習をして行けよ。それがプロだろう……言葉の端々に垣間見える新庄監督の野球哲学。オフもビッグボスから目が離せません。
『全員欲しいですね。僕がプロ野球選手になりたくて受けて、気持ちはすごく分かるので。少しでもいいところを見てましたね』
~『日刊スポーツ』2021年12月8日配信記事 より(新庄監督コメント)
ただ実際には、トライアウトでのプレーを見てスカウトが声を掛けるケースは少ないのが現実です。ここでオファーが来るような選手は、おおむね事前に獲得の打診があり、その場合トライアウトは「最終確認の場」に過ぎません。セカンドチャンスをつかめる選手は、ごくわずかの狭き門なのです。
ゆえに、現役の監督が直接足を運ぶケースは稀で、過去を振り返っても、野村克也氏や落合博満氏ぐらい。それだけに“ビッグボス”新庄監督の視察は、就任時に「行く」と宣言していたとはいえ、大きなインパクトがありました。
この日、真っ白なロングダウンコートを着て、バックネット裏に姿を現した新庄監督。いつものことですが、非常に目立ちます。おそらくこれも新庄監督流の“気配り”で、自分の動きを追う報道陣がわかりやすいように……という配慮と、もう1つ、トライアウトに参加する選手たちに対し「ここで見てるから、しっかりやれよ!」という無言のメッセージでもありました。
昨年(2020年)のトライアウトで、新庄監督は「オファーを待つ選手」としてグラウンドに立っていました。
『去年、僕がトライアウト受けて、まさかの監督ですよ。この選手たちも来年、監督になるチャンスがあるかもしれない』
~『日刊スポーツ』2021年12月9日配信記事 より
「47歳の挑戦」と大きな話題を呼んだ新庄監督の、昨年のトライアウト参加。結局、どの球団からも声は掛かりませんでしたが、古巣・日本ハムはあのとき、新庄監督が野球への情熱を失っていないことを確認。それが今回の監督オファーにつながりました。
つまりは「意欲を示す」ことがまず大事。今年(2021年)参加した33人のなかには、昨年、新庄監督とともにトライアウトを受けた選手もいます。目立つ白いコートは、彼らへのエールの意味もあったのでしょう。「優しい人だなあ」と感じました。
もっとも、選手を見る目はシビアです。午前の部が終了したところで、休憩中にテレビのインタビューを受けた新庄監督は、「目に留まった選手は?」という問いにこう答えました。
『(元阪神)高野君。台湾出身の高野君のカットボールが目についたのと(オリックス)金田君。野手では(楽天)中村君。ジャイアンツの山下君、ファームで首位打者とってるんですよね。面白いですね。でもちょっと肩の方がちょっと気になったので、もしうちが取るならDHとかでも面白いかなと思いました』
~『日刊スポーツ』2021年12月8日配信記事 より
自分は案を出すだけで、最終的に決めるのは稲葉GM……と言いながら、4選手の名を挙げた新庄監督。報道陣へのリップサービスとはいえ、新庄監督の野球観が窺えるコメントです。
最初に名前が挙がった高野圭佑(29)は右投手。バットの芯を外すカットボールに新庄監督は注目しました。2015年、ロッテにドラフト7位で入団し、2019年、シーズン途中で阪神にトレード。昨年オフに戦力外となり、今季(2021年)は台湾プロ野球・中信兄弟でプレー。今回は上下黄色の中信兄弟のユニフォームで参加しました。
『自分の中で目指していたところをある程度表現できた。帰国して2週間は隔離して、練習場所も見つからない中、いろんな方が助けてくれて練習場所を提供してくれてここに立てている。感謝の気持ちで投げられた。武器のフォークを見せられたので良かった』
~『日刊スポーツ』2021年12月8日配信記事 より(高野投手コメント)
新型コロナ禍のなか、台湾に渡ってプレーを続け、隔離期間を経てトライアウトを受けに来た情熱。新庄監督も、投げたボールの質だけでなく、精神力の強さにも注目したのではないでしょうか。周囲への感謝を忘れないところも、新庄監督好みです。
投手でもう1人、名前が挙がったのが、オリックス・金田和之(31)です。2012年、ドラフト5位で阪神に入団。2016年オフ、糸井嘉男が阪神にFA移籍した際、人的補償選手としてオリックスに移籍。今季は中継ぎとして1軍で9試合に登板しましたが、戦力外となりました。
この日は、最高147キロの速球とスライダーで打者を打ち取った金田。新庄監督はリズムのよい投球と直球のキレを評価し、さらにこう付け加えました。
『多分、変化球でストライク取れずにまっすぐ打たれてここに来てる。修正できたら』
~『THE DIGEST』2021年12月8日配信記事 より
「変化球の精度を上げれば、まだ十分使える」とも取れるこのコメントは、金田にとっては大きな励みになるでしょう。チームが優勝したのに戦力外になった悔しさも飛躍のバネになりそうです。
野手では、中村和希に注目した新庄監督。昨季まで楽天に育成選手として3年間所属し、今季は独立リーグ・福井でプレーした左打者です。今回のトライアウトでは左投手から3安打を放ちアピール。新庄監督は中村のミート力を評価しつつ、こんなコメントも。
『左バッターで打った後、ファーストまで4秒3かかってたんでその点は惜しい』
~『THE DIGEST』2021年12月8日配信記事 より
さすが、細かいところまで見ています。しかも「ここがダメ」と否定的に見るのではなく「ここを改善すれば、この選手はもっと活きるのでは?」というポジティヴな視点で選手を見ている。だから、修正すべきポイントを端的に指摘できるのです。
そして新庄監督が最後に挙げたのが、元巨人・山下航汰(21)です。2018年、育成ドラフト1位で巨人に入団。1年目の2019年、支配下登録と1軍昇格を果たし、イースタンリーグ首位打者を獲得した逸材です。高卒ルーキーがファームで首位打者に輝いたのは、1992年、オリックス・鈴木一朗(=イチロー)以来の快挙でした。
昨シーズンは開幕1軍の話もあったほどですが、開幕直前に故障し戦線を離脱。巨人は治療に専念させるため、昨年オフ、いったん山下を自由契約にしたあと、育成選手として契約を結び直しました。ところが山下は「来季(2022年)も育成で」という打診を断り、1軍の試合に出場できる支配下登録を求めて巨人を退団しました。なかなか骨のある選手です。
山下について、新庄監督はファーム首位打者の実績を評価した上で、肩の件にも触れ「もしうちが取るならDHとかでも面白いかなと思いました」と具体的な起用法まで挙げました。それだけ打撃センスを買っている証拠で、巨人を出た経緯も含め、いかにも新庄監督好み。実際に獲得しそうな気もします。
そんなポジティヴな見方をする一方、新庄監督は参加選手に、こんな苦言も呈しました。
『野手のスタートのステップとかも見てるんですけど、まだまだアピール足りない。どんどん守って。そういうところ僕は見てるので。例えばフライを上げてのセカンドまでのスピードとか。チェックしてるんですけど、照れ隠しがあるのかな。もっとアピールしてほしい』
~『日刊スポーツ』2021年12月8日配信記事 より
この「お小言」は、新庄監督が来季、どんな野球を目指すかのヒントでもあり、間接的に、日本ハムの若手選手たちに対する「叱咤激励」にもなっています。走攻守、自分なりにアピールポイントを考え、長所を伸ばす練習をして行けよ。それがプロだろう……言葉の端々に垣間見える新庄監督の野球哲学。オフもビッグボスから目が離せません。