故障に苦しんだ過去
「過去は毎年怪我をしてきたので、まずは1年間怪我をしないで野球をやって、それがチームの戦力として貢献できればいいなと思います」。
今年4月に行ったオンライン取材でこのように話していたロッテの佐々木千隼は、プロ5年目の今季、初めて一軍で1年間“完走”した。
佐々木が話したように、プロ入り後は毎年のように故障に泣かされ、ロッテ浦和球場で、リハビリしている時期が長かった。
なかでも、プロ2年目の18年7月に『右肘の関節鏡視下遊離体除去手術』を行い、リハビリ、復帰後の姿はどこか悩み、苦しんでいるように見えた。
長いリハビリを経て19年4月3日のヤクルトとの二軍戦で、「楽しいというか、ゲームに投げるのが1年弱ぶりだったので、やっとできたなといという感じです」と実戦復帰。
この時期の佐々木は、「もっと力強い球を投げないとダメなのかなと思います」、「投げミスが少ないかなと思いますけど、たまたま見逃しになっただけであって、弱いボールも何球かあったし、甘いボールもあった。それが一軍と考えたらダメだなと思います」と、自分自身に対して厳しく、投球自体に納得がいっていないように見えた。
投球フォームも走者がいないときにセットポジションから投げたり、ノーワインドアップで投げたり、ストレートよりも変化球を多めに投げるなど、試行錯誤していた。
それでも、同年7月7日の日本ハム戦で2年ぶりに一軍登録&先発し、7回を1失点に抑え勝利投手になるなど、この年7試合に登板して2勝1敗、防御率2.53。
復活の兆しを見せてシーズンを終えたように見えたが、当時本人は「ファームで7回ぐらい投げて、中6日で回れてというところができましたけど、一軍でどうかと思っていた。これが良かったから、もう大丈夫だというのは特に思えなかったですね。思っている球というのは、この辺にあるんですけど、全然まだまだ」と一軍で復活勝利を挙げたが、自分の頭のなかで描く理想と、そのギャップを埋める作業の部分で、モヤモヤとしたものが残っていた。
飛躍の2021年
翌20年は5試合に登板して、防御率8.31という成績に終わったが、同年11月に行われたフェニックス・リーグで21年に繋がる希望の光を見せていた。20年11月9日の巨人戦、5者連続三振を奪うなど、2回をパーフェクトに抑えた。巨人戦以外での登板でも、フェニックス・リーグで投げていたストレートは、力強く素晴らしかった。
本人も「そうですね。あのときはいい感じで投げられていましたし、去年の秋ぐらいから力まないように投げようと意識で投げていました」と明かし、「(ストレートの)数値を見てもホップ成分があがったり、回転数が多くなったりというのは数値的にはでてきている」と手応えをつかみつつあった。
力感のない投球フォームに変えようとしたきっかけについて今年4月の取材で、佐々木は「プロに入ってからスピードが出なくなった。今でも出したい気持ちはあるんですけど、ずっとそこばかり追い求めて、フォームをぐちゃぐちゃになってというのがあった。どうやったらいいのかなと考えていて、ギャップというか、フォームの力感の割に球が来ているなという風に思っておもえたらバッターも打ちにくいのかなと考えました」と、現在の形にたどりついた。
力感のないフォームから繰り出されるストレートは、スピードガン以上の速さを感じ、横や縦に落ちるスライダー、シンカーを駆使して打者をねじ伏せた。
今季は開幕直後、ビハインドゲームでのロングリリーフを担当していたが、結果を残し続け序列を徐々に上げていき、6月3日の中日戦から勝ちパターンに組み込まれ、初めてオールスターにも出場。東京五輪明けの後半戦からは、勝ちパターンの8回を任され、プロ5年目で初めて最後まで一軍で投げ抜いた。
故障に悩み、苦しんだ時期を乗り越え、一軍という舞台で勝負し続けたなかで、54試合、8勝1敗、26ホールド、1セーブ、防御率1.26の成績。怪我なく1年間過ごせば、このくらいの数字を残せるポテンシャルを持っていることを証明した。
佐々木の活躍はファンだけでなく、リハビリの時期を支えたトレーナーをはじめ球団関係者も喜んだことだろう。今季だけでなく、来季以降も継続して結果を残すことが大事。怪我に気をつけ、来季もチームのピンチを救う投球を見せてくれることを願う。
取材・文=岩下雄太